9/18 南嶌宏×崔在銀レポート

東京・原美術館より

9月18日(土)、「崔在銀 展―アショカの森―」関連イベントとして、対談 南嶌宏×崔在銀を行ないました。

まずは、「To the Depth」展(1987年、スパイラル・ガーデン)で協同して以来、20余年にわたり崔の良き理解者として活動を見守ってきた南嶌氏が、いけばなから始まる崔作品の変遷や近年の制作のベースとなっている宇宙観などをたっぷりと紹介し、また対談は、友人同士の会話らしく、お互いが自然な言葉を引き出し合いながら、和やかに続いていきました。

1976年、いけばなを学ぶために来日した崔在銀は、当時前衛芸術の発信地であった草月会館のイサム ノグチのインスタレーション空間に惹かれ、そこで学ぶことを決めたそうです。やがて崔は植物の持つ「時間性」への関心を深めていき、「切る」といういけばなの基本行為を越えた表現を手がけるようになります。

ここでは今回の対談で焦点のあてられた、崔のこれまでの歩みをご紹介します。(記事をまとめるにあたり、作品集「JAE-EUN CHOI WORKS」を参照、一部引用いたしました)

「EARTH」 1985年/草月プラザ
草月プラザにおける崔の個展。イサム ノグチの代表作品である「天国」を、13トンの黒土で覆い、そこに絹糸草の種を撒き、緑が空間を変えていく成長のプロセスを見せた作品。
「極寒の1月、外の雪と室内の黒土、緑のコントラストが美しかった。」
「いけばなのおかげで、時間が常に流れている事、(あらゆる事は)生命の循環の中のひとつの出来事だと認識するようになりました。」


 

「PAST-FUTURE」1988年/韓国国立現代美術館
同美術館の常設作品。ケヤキの樹を移植、鉄板で囲み、枝が光を求めて成長する本質に従って作品の形態が生まれた。過去と未来がテーマ。
「その樹は時間とともに姿を変え、今も元気に成長しています。」

「WORLD UNDERGROUND PROJECT」1986年―
現在も進行中のプロジェクト。特別に漉かれた50㎝四方の紙の束を、世界12カ国の地中に埋め、3年から長いものでは15年ほど埋めたままにしておいたのちに掘り出し、地中の微生物の働きなど、自然界に作品の完成を任せた作品。現在、地中に埋まったままの作品もある。※原美術館ではこのシリーズより「モーツァルトへのオマージュ」(1988年)を所蔵。現在、別館 ハラ ミュージアム アークで開催中の原美術館コレクション展「Cheer up! 元気になる美術」に展示されています。

「CHAOS」1994年/草月美術館
紙の表面から採取した微生物を拡大した写真を展示。
「生物学者や科学者たちと交流し、微生物の働きに支配されている目に見えない世界を意識するようになりました。人間の理性とは異なる内部、物事の裏面を見たいと感じています。」

「MICRO-MACRO」1995年/第46回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館
ヴェネチア・ビエンナーレ日本館の外壁を、原色のプラスティックパイプで囲い込み、一方館内には微生物を撮影した写真と映像を展示。生命の神話が展開する内部空間と、あざやかで暴力に満ちた外部の現代社会が交錯する緊張関係を見せたインスタレーション。
「見えない世界と見える世界を対比させた作品です。」

「on the way」2001年/ドキュドラマ作品
人間の作りだした「境界」をテーマに、アウシュビッツ、南北に分断された朝鮮半島の現在を踏まえ、20世紀に起きたさまざまな出来事をとらえた映画。

「ルーシーの時間」2007年/ロダンギャラリー、ソウル
World Underground Projectの一環として、かつてアフリカの地中に埋めた作品を2007年に掘り起こしてみたところ、紙は化石化して無くなっていた。そこでその場所の土の塊を持ち帰り展示。また、その場所とルーシー(350万年前の化石人骨)の発見された場所が至近であったことから、ルーシーをモチーフに、時間について考察する展覧会を開催した。
「ルーシーの時間は私の時間でもあります。」

最後に、崔による韓国語でのボルヘスの詩の朗読が行われ、また、ベルリンに移住し、自分のアイデンティティを見つめながら、「いい表現者として生きたい」という今後の展望も語られました。また、南嶌氏は「表現をすることへ怖れを抱いている作家」「現代の美術の状況の中でとても大事な存在の作家」と崔を評し、対談を締めくくりました。

崔在銀 展関連イベント 次回のお知らせ
講演会/中村桂子 「樹が教えてくれること―時間と関係」
■日時:2010年10月31日(日) 14:30pm~15:30pm
■出演:中村桂子(JT生命誌研究館館長)
■参加費:無料(別途要入館料)
■申し込み方法:お電話かメールでご予約ください Tel: 03-3445-0669
E-mail: info@haramuseum.or.jp

[中村桂子 プロフィール]
東京都出身。1936年生。理学博士。東京大学理学部化学科卒。同大学院生物化学修了。三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。JT生命誌研究館副館長を経て館長に着任。著書に、『「子ども力」を信じて、伸ばす』(三笠書房)、『ゲノムが語る生命-新しい知の創出』(集英社新書)、『ゲノムの見る夢』(青土社、崔在銀との対談も収録)などがある。

―――――――――
「崔在銀 展―アショカの森―」 2010年12月26日[日]まで開催中。

品川駅と原美術館を結ぶ無料ミニシャトルバス「ブルンバッ!」毎週日曜運行中。
[協賛:ブルームバーグL.P./アーティスト:鈴木康広]

http://www.haramuseum.or.jp
http://mobile.haramuseum.or.jp

Copyrighted Image