鈴木康広トークショウレポート/寄贈作品「募金箱 『泉』」

東京・原美術館より

寄贈作品「募金箱 『泉』」は美術作家、鈴木康広による映像インスタレーションであり、今年6月下旬より原美術館内1階・階段横にて公開中です。壁に開けられたスリットに硬貨を投入した後、そこから中を覗くと映像をご覧いただける参加型の作品です。

このプロジェクトは昨年(2010年)の夏から始まりました。完成した作品「募金箱 『泉』」のそばには、「ある篤志家の方よりお申し出を頂いて」と書いてありますが、原美術館の賛助会員でもあるN氏より、「鈴木康広さんデザインによる募金箱を原美術館のために寄付したい」というお申し出をいただいたことがきっかけでした。

この募金箱は、もともと原美術館の活動支援のために募金をしていただく目的で企画されたもので、当初3月27日の公開を予定して準備を進めていた最中、3月11日に東日本大震災が起き、一旦制作を延期せざるを得ない事態となりました。さらに、関係者が揃って再考し、年内*に寄せられた募金は全額、被災地における芸術活動の復興支援のために寄付させていただくことにいたしました。(*被災地の状況は刻々と変化しておりますので、寄付先につきましては年末の時点で精査し、当館で責任を持って選ばせていただきます。) ※2012年3月11日まで延長いたします。

この募金箱のお披露目にあたり、趣旨説明をする会、そしてまた同時に鈴木氏の作品を少しでも多くの方々にご紹介する機会を持とうということで、原美術館ザ・ホールにおいて公開記念特別展示も実現しました。

ここでは、6月26日(日)に行なわれた鈴木康広氏トークショウの模様をリポートします。


鈴木康広氏

「募金箱」のイメージ
今回「募金箱」というテーマを頂きまして、僕も初めは普通に〝箱〟を置くのかなと思いました。が、次第に「募金箱」というものを別の視点から捉えることが求められているような気がして、コンビニなど身近な募金箱をよく見るようになりました。そこで意識的にお金を入れてみたりしましたが、なぜか自分が関わっているという実感が湧きませんでした。それは震災が起こる前のことです。今は多くの方が募金を届ける場所というものをイメージしながらお金を投入しているのだと思いますが、このときはそういう感覚もなく、僕自身が「募金というものについて、もう一回きちんと考えなければならない。」と思いました。

「コイン(=自分の分身)を使って美術館の活動に参加する」作品
ものづくりをしていると、身近な対象が自分に見えてくる、自分と区別がつかなくなってくるような、自分とものが一致していく感覚があります。今回も、「コイン自体が自分の分身なのでは?」と早い時期に感じました。そこで、「募金箱を設置する」という発想ではなくて、「コインを使って美術館の活動に参加する」作品、そして美術館の壁にシンプルにスリットが空いていて、そこにコインを投入するというアイディアに行きついたのです。


鈴木康広 「募金箱 『泉』」 イメージ 2011年

もう一つの「美術館へ参加する入り口」
『キン肉マン』という漫画で時空が開いてしまう場面があるのですが、それが固くてキン肉マンでも覗くのが精いっぱいというシーンに幼稚園の頃とても惹かれ、そういうものが世の中にあるのだと信じていました。その影響で、木の洞といいますか木の内側と外側の出入口みたいな、異次元につながるスポットが美術館に出来たら面白いのではと思いました。アイディアは生まれたのですが、「実際にどこに設置するか?」となった時に一つ指標になったのが、原美術館内のメンバーシップコーナー(*上の鈴木氏写真でプロジェクションされている図版参照/現在同コーナーは美術館エントランスに移動)です。メンバーシッププログラムの説明と、法人、個人の会員の方の名前が掲示してあるこの場所で、寄付する、あるいは会員になるという、美術館への色々な参加の仕方、関わり方があることがわかりました。そこで、来館された方が展覧会を見るという参加の仕方だけではなく、もう一つ美術館へ参加する入り口が作れないかと考えました。

色々なことに導かれてアイディアと場所が一致していった
今回のチャンスを下さったN氏は原美術館の個人賛助会員の方です。作家ではなく、お客様で、且つ自分でも美術館のために何かをしたいという方がいるということを初めて身近に知りました。実は、僕が昨年瀬戸内芸術祭に出品した「ファスナーの船」も、原美術館のスタッフが造船所の経営者でもあるN氏を僕に紹介してくれて、N氏の絶大なサポートを受けてようやく完成まで辿りつけた作品でした。このような出会いが繋がって、このプロジェクトは進んで行きました。そうして壁に穴をあける場所としてメンバーシップのエリアが一番良いのかなと思ったのですが、壁がコンクリートなのでそんな大工事が出来るのか、とあるとき壁をコンコンと叩いてみました。すると途中から音が変わりまして・・・美術館の古い図面から、ちょうどメンバーシップボードの中心あたりが、何と昔は出入口で、今は空洞であることが分かりました。そのように意図せず導かれるようにアイディアと場所が一致して、実現に向かって行きました。


撮影:米倉裕貴

自分のものが壁の奥で誰のものでもないものに変わる
みなさんが「募金箱 『泉』」にコインを入れた時、「チャリーン」というコイン(お金)の音が全くしなかったかと思います。(実際、「ぽちゃ~ん」と水の中に物が投げ入れられた音がします。)お金の音というのはとても強烈で、例えば誰かが道にそれを落とすと必ず音がして、僕たちは絶対にそちらを見てしまいますよね。金属音なのに、それイコール「お金」であることによって何か独特のどきりとする感覚があります。自分のもの(=お金)が壁の奥で誰のものでもないものに変わる瞬間に必要なもの、それが僕の中では〝水〟なんじゃないかと思ったのです。そこで、プライベートなものとみんなのものという境界がそこでひとつ生まれて、壁の奥でみんなのものになるという感覚ができました。プライベートなお金というものが、美術館の活動や、被災された方々のアート面で役に立つものになっていくという、誰のものでもないものに瞬間的に変わる体験をすることが今回とても大事だなと思いました。


撮影:米倉裕貴

ところで、「募金箱 『泉』」のスリットから覗くと見える映像は、すべて原美術館の敷地内で撮ったものです。「美術館の中にあるものを発見する」ということで僕なりに色々模索してゆきました。変化していくもの、動くものが良いのではないかと思い、木漏れ日や、水面の揺らぎといった、日常の時間感覚の中で変化する現象を「鏡」にして、そこに写った美術館を採集して行きました。限りある美術館の敷地内ですが、まだまだ色々なものがあると感じています。今後、コンテンツ(映像)は時間をかけて少しずつ更新していきたいと思っています。

鈴木康広 ウェブサイト
http://www.mabataki.com

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「ミン ウォン:ライフ オブ イミテーション」
2011年6月25日[土]―8月28日[日]

「アート・スコープ2009-2011」─インヴィジブル・メモリーズ
9月10日[土]―12月11日[日]

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ハラ ミュージアム アーク
「この世界には色がある―原美術館コレクション展」(現代美術ギャラリー)
7月2日[土]-9月11日[日]
「競・闘・争」(觀海庵)
前期 7月2日[土]-8月3日[水] 後期 8月5日[金]-9月11日[日]

原美術館ウェブサイト
http://www.haramuseum.or.jp
http://mobile.haramuseum.or.jp

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