艾未未のことば20:猫が盗まれて広州で食べられる作品「三花」に関する対話

猫が盗まれて広州で食べられる作品「三花」 に関する対話 [1]
責任編集・翻訳 / 牧陽一
香港陽光華語衛視[china SUN TV]のインタヴュー(2010年11月3日)より

 


「三花」(2011)

 

香港陽光華語衛視(以下、Sun TV) こういった、人間が猫を食べるような映像は国内では少ないですね。あなたはいつこの作品を撮ったのですか?

艾未未(以下、AWW) 制作からもう一年経っているが、猫への注目は2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の年に始まっている。この時、天津のあるボランティアが、4、5百匹の猫がトラックいっぱいに詰め込まれていると教えてくれた。猫盗人は猫を広州にまで運び、レストランの食材にする。私たちは猫を救い出し、みんなで分担してひきとった。私はそのうち、3,40匹を引き取り飼うことにした。それでも、多くの猫が死んでしまっていた。数十の籠に押し込められ、その籠が積み上げているからだ。足や体にけがを負っている猫もいた。
中国人と動物の関係はこんなにも劣悪なのだ。中国人は自分以外の動物や、他の人々の苦難には完全に疎く、無関心で、共感を持ちえない。私はこの問題についてはとても気にかけている。私は以前、自分のブログに犬を殺す問題について書いたことがある。とても小さな万州県で、一晩に数万の犬が殺された。[2] しかもその殺し方も極めて凶悪で、飼い主の目の前で棍棒で殴り殺された。こんなに野蛮で原始的な様子が今でも見受けられる。しかもそれは政府によってなされたことなのだ。驚くべきことではないか。

 

Sun TV 中国社会は動物愛護についてどのような態度をとるべきだと思いますか?

AWW 動物の保護には社会の常識、道徳、人と動物の交流、苦痛や疾患に対する理解が必要だ。それと同時にそのための法律が必要だ。人間以外の生命に対する行為について、従うべき基準を法律によって規範化することだ。多くの人は、動物に対して関心を持つことができないと言うが、そもそも関心を持てないこと自体が問題だ。だが人間の問題で人と動物の関係、人と自然の関係を悪化させることはできない。無関心は理由にはならない。

 

Sun TV 動物愛護について、ひとりひとりの公民はどうするべきだと思いますか?

AWW 動物保護は人と社会、および人と外部世界との関係の問題であり、倫理的問題だ。あるアメリカ人が私に言ったことがある。「この世界は本来彼らのものだ。ただ彼らは私たちとこの世界を分かち合うことを意に介さないだけだ」。これを聞いて私はとても感動した。彼は視点を変えて話した。人間はこの世界では当然、強者であり、この世界を主宰しているものだ。だがこの主宰は他の動物を暴虐、虐待、傷害することを基盤にしてはいけない、と。

 

Sun TV あなたがこの映像を撮るときに直面した困難は何ですか?

AWW 通常私たちがドキュメンタリーを撮るときには、しばしば困難を伴うが、今回はその点はそれほど大きな困難はなかった。私たちは地域の動物保護者たちの信頼を得てから、動物殺害の事実を撮ろうとしたが、そこには根拠となるものが必要だった。同時に私たちは法律の執行者、その他売りさばく人、最後に動物を食べること、さらに動物の皮を販売する人々の生活状況などを含む様々な側面について理解する必要があった。
困難といえば、最後にその映像を公開することだった。ひとつのドキュメンタリー作品が仕上がった後は、公開されて初めて事件に対する社会からの関心を引き起こすことができる。北京ではある芸術区で公開に至ったが、上海と広州では上映が禁じられた。[3] 特に広州は重要な動物受難地区だ。毎日幾千幾万の動物が広州に運ばれ、最後には食用にされる。広州市民の討論を引き起こすことができるかどうかは非常に重要だ。しかし、広州では我々のドキュメンタリーは上映を禁じられた。小さなグループ内での上映ですら許されなかった。

 

Sun TV あなたはどんなルートで上映しているのですか?

AWW 私たちが制作したドキュメンタリーはすべてネットに上がっている。見たい人はダウンロードできる。「三花」は意外なことに削除されていない。いまもネット上で閲覧が可能だ。また最も広く見られている作品の一つだ。同時に私たちは各地に大量のCDを送っている。

 

Sun TV 当時この映像をつくった目的は何ですか?

AWW 私たちが映像を撮るのは、まず私たちが関心のある問題を選択するところから始まる。私たちは動物が好きだ。私たちのところには数十匹の猫や犬がいるが、どれも帰るところのない、捨て猫や捨て犬だ。自分ではどうしようもない状況だ。この事情を人に伝えて、やっと多くの人々にこれについての関心を持ってもらい、活動に加わってもらうことができるのだ。

 


 

Sun TV この作品はなぜ「三花」というのですか?

AWW 私たちのところには三花という名前の猫がいる。全身三色の三毛猫だ。みんなその猫が大好きだ。それから映像の中で猫の皮が販売されているシーンが出てくるが、その皮が三種類の毛皮の色でデザインされていた。それで「三花」がタイトルにいいと思った。

 

Sun TV あなたはどんな性格の人ですか?

AWW 私の性格は三花の性格とほぼ同じだ。

 

Sun TV 三花はどんな性格だと思いますか?

AWW 三花は好奇心旺盛で、独立独歩だ。私は猫の性格が好きだ。静かな時は実に静かでものぐさだが、動くと素早く猛烈だ。

 

Sun TV あなたはどのような立ち位置で、どのような角度から撮影しましたか?

AWW 私たちは動物の境遇に関心を寄せ、時にはひどく憤ることさえあったが、撮影においては、やはり冷静だった。事実を客観的に写し、細部を描き、異なる観点を出現させる必要がある。

 

Sun TV あなたは生命をどう理解していますか?

AWW 生命は宇宙の奇跡であり、与えられたものだ。生命の価値は、私たちの理解できる範囲を遥かに超えた大きなものだ。だから、如何なる人間でも動物でも、別のひとつの生命を体よく簡単に終わらせることなどはできない。法律であろうが、その他の理由であろうが、如何なる理由でも終わらせてはいけないのだ。

 

Sun TV あなたは人間の生命と動物の生命という二つの概念についてどのような観点を持っていますか?

AWW 人は万物の主を自認し、自らの生命には頓着するが、それは思い上がりだ。生命の価値に対する普遍的な理解、他の動物の生命に対する共通した理解が持てないのなら、人の生命に対する理解も必ずや一方に偏った欠陥のあるものになる。わたしは文明的な国家、文明的な集団は人間以外の生命をも同様に尊重し畏敬するものだと信じている。

 

Sun TV 国家が動物を保護する場合、どのような活動が最も有効ですか?

AWW 動物の保護と各種の権益の保護は一致したものだ。それは文化教育の普遍的で長期にわたる仕事だ。簡単な法規によって完成できるようなことではない。多くの人々が参加して、多くのメディアが重大な注意を払って、やっと動物の境遇ひいては人間の境遇が変わるのだ。動物の境遇に関心を寄せることは、実は人間の境遇に関心を寄せる事なのだ。

 

 


 

[1] (閲覧注意)制作:郭克、王分(王芬:艾未未の息子艾老の母親)、艾未未 音楽:左小祖咒 艾未未工作室 2010.06.16(68分) 中国語字幕のものは以下のサイトで見ることができる。2018年12月現在1万6千閲覧されている。https://www.youtube.com/watch?v=vnqiLUaYx2g
《三花》陽光華語紀錄片獎(2011) 長片組 – 銀獎

[2] http://news.sohu.com/20070401/n249117341_2.shtml
重庆万州捕杀流浪狗 女市民爱狗如命为救狗舍家2007年04月01日13:17来源:南方报业传媒集团-南方都市报
http://bbs.tianya.cn/post-free-870824-1.shtml
猫狗[已扎口]によると、2007年3月、重慶市万州県で、狂犬病等の伝染を理由に、犬の屠殺が行われた。5日、千人もの飼い主の抗議集会が開かれたが、15日、飼い主による殺徐、16日には当局による強制殺徐が行われた。

[3] https://news.qq.com/a/20100722/001129.htm
吃猫调查纪录片《三花》系列放映交流会2010年07月22日12:52
腾讯绿色によると2010年7月24日北京798芸術区のユーレンス現代アートセンター、その後27日上海、31日広州で開催される予定だった。
国内首部吃猫调查纪录片《三花》系列放映交流会
北京放映会暨“如何利用现有法律禁吃猫肉”讨论专场
分会主办方:首都爱护动物协会
时间:07/24(周六)13:00-15:30
地点:北京市朝阳区酒仙桥路4号,798艺术区,尤伦斯当代艺术中心报告厅
主持人:张丹(中国动保记者沙龙)
嘉宾:郭可(艾未未工作室)
朱茜(苏州流浪动物救助者、伪造卫生许可证举报人)
安翔(律师,中国现行动物保护法律汇编作者)

 

 


 

 

猫に国境はない
文 / 牧陽一

艾未未は、現在ベルリン在住だが、北京のフェイクスタジオには3,40匹の猫や犬がいる。中庭の大きな石の上には猫のエサが載っている。私たちが話をするテーブルの上にも必ず猫が上がってくる。歩き回ったり寝そべったり実に自由だ。
映画『アイ・ウェイウェイは謝らない』の冒頭にはドアの把手にジャンプしてドアを開ける猫が登場する。猫はドアを開けるが、締めはしない。なぜだろう。息子のTに訊いてみた。猫は必要のない事はしない、安全で快適で自由なスペースで暮らすからだという。そうだ。本来生き物は自由に暮らしていて「ドアは閉めない」。
つまり国境に壁は作らない。艾は「動物の境遇に関心を寄せることは、実は人間の境遇に関心を寄せる事なのだ」と言う。猫の在り様に人間の姿を重ねて考えているのだ。
映像作品「三花」は他者に対して無関心であり続ける人間に対する警告である。猫の問題は人の問題であり、難民を描いた『ヒューマン・フロー 大地漂流』まで一貫して人権問題を問いただしていると。このインタビューでは、強者である人間が世界を主宰していることに言及し「だが、この主宰は他の動物を暴虐、虐待、傷害することを基盤にしてはいけない」と述べている。主宰を統治に、動物を人間に読み替えても同様だ。辺野古基地建設のために、サンゴは死にジュゴンが死ぬ。原発事故で生き物全てが死ぬ。それなのに主宰は力で強引に進めていく。日本もまた暴虐を基盤にする統治だと言える。世界中のどの地域でも同様のことが繰り返されている。
庶民のために戦う弁護士たちが令状も罪状もなく逮捕拘留され、いまだに戻ってこない中国の現状、艾未未自身も2011年に失踪し、81日間拘留され、釈放後も自宅に軟禁されていた。猫への扱いとどれだけ違うというのか?
『ヒューマン・フロー 大地漂流』で艾は多くの難民キャンプを訪ねている。誰が彼らを愛おしく思わないだろうか?人間の尊厳を守るという当たり前のことを追求していくことが艾未未作品の根底にあるのだ。(2019年4月20日)

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