艾未未のことば19:成都警察が艾未未を殴打した事件を描く「老媽蹄花」に関する対話

成都警察が艾未未を殴打した事件を描く「老媽蹄花」に関する対話 [1]
責任編集・翻訳 / 牧陽一
香港陽光華語衛視china SUN TVのインタヴュー(2010年6月11日)より

 


牧研究室のTシャツ(フェイクスタジオより)

 

香港陽光華語衛視(以下、Sun TV) この作品を撮ったきっかけは何ですか?

艾未未(以下、AWW) これは何の準備もなく撮った映像だ。譚作人の裁判が始まる前に、彼の弁護士の浦志強から私が証言に立つかどうか訊かれた。[2][3] 私のしていたことと譚作人の調査は互いに近いところがあったから承諾した。国家政権転覆扇動罪で起訴された人のために証言に立つことは非常に重いことだった。そのときは、何かが起こるとは思ってもみなかった。なぜなら証人に立つこと自体は法律で保証されているからだ。そこに行く前にドキュメンタリーを撮ろうとは思ってもいなかった。ただ、このプロセスのすべての事柄について記録しておこうと思っただけだ。どうやって成都に着いたか、どのようにホテルで監禁されたか、殴られた音や私と警察の言い争いもすべて含まれている。その後、再び成都へ行って、警察に拘留されていたスタジオの助手劉艶萍を救い出し、成都金牛公安分局との論争や対峙、そのすべての過程を記録した。私たちは戻ってすぐに映像を編集してネットに上げた。それはネットですぐさまリツイートされ拡散されていった。

 

Sun TV あなたは公民ということばをどのように理解していますか?

AWW 公民とはひとつの社会の中の一個体だ。個人の身分で、権力に対して質疑し続ける人だ。もし、権力に対して質疑したことがないのならば、その人は根本的に一人の公民とは言えない。なぜなら個人の権利を行使していないからだ。個人の権利が不断に強調され行使されるとき、個人はやっと公民と呼ばれるのだ。公民の基本的な権利には選挙の権利、法律によって守られる権利、表現の権利がある。これらのうちひとつが欠けても公民ではなく、奴隷だ。中国人はこれまでにこれらの権利を獲得したことはない。

 

Sun TV この視点にもとづいて、あなたは自分を公民だと思いますか?

AWW 私が公民かどうかは、現在検証中だ。もし、私が努力を続ければ、完全な公民になることができるかもしれない。今日の私たちは、まだ公民の初期段階だ。それをアルパカがマラガビの丘を疾走するという。アルパカが公民の前身となったのだ。 [4]

 

Sun TV あなたは譚作人の証言に立とうとしました。譚作人のためにあなたの公民の権利を行使したとき、恐ろしいと思いましたか?

AWW 決めたときはいささか向こう見ずではあった。私は単純なのだ。慎重に考えて、用意周到にやるのは好きではない。なぜやらないという選択ができるだろうか。私は中華人民共和国の憲法に、そして司法に保護されている。私にはこの人のために話をする義務がある。この人と私の信仰には近いものがある。私たちの公安がこんなことをするなんて私にはどうしても信じられない。私を殴るなんて何てことをするのだろうか?こんなことはあり得ない。私に証言させれば、彼に判決を下せるばかりか、私に対しても判決を与えることができるではないか。私をホテルに拘留して出廷させないなんて、想像もできないことだ。この国の専制政権における最大の特徴は、正常な論理さえ成立しないところまで人を訓練することだ。

 

Sun TV テレビで誰かが公安局に殴られるのを見たら、普通の視聴者は殴られた人の方が悪い人ではないかと思うようですが、この件について、あなたは自分が間違っていると思いますか?

AWW 私の間違いとは、こうした現実を終始受け入れないとしてしまうことだ。―その現実とは、国家には抵抗することはできない、法律には抵抗することはできない、警察と司法機関には抵抗することはできない、抵抗できないばかりか懐疑さえできない、という現実だ。私は個人だ。対峙する権力と比べれば永遠に弱者だ。だが、私が抵抗しなければ生き残れる可能性はない。私は飲み食いさえできれば、生きていることになるとは思わない。私が生存しているということは、私自身の個性が自由に出せるときにこそ、生存していると言えるのだ。もちろんこれは賢明ではない方法だ。だが、私のこの賢明ではない無謀な方法でどこまで行けるのかを見たいのだ。

 

Sun TV あなたはこうしたご自身の選択を後悔したことはありますか?

AWW 後悔はしてない。ドイツで手術した後、私の選択は随分とでたらめなものだと思った。ドイツの医者は、もし手術しなければ、もう私はお終いだという。この医者はヨーロッパで最高の脳外科医で、その日の夜8時過ぎに帰宅したものの、病院に資料を忘れたことに気づいて戻ってきたら、アジア人がそこに横たわっている。看護師は彼に明日手術する患者だと伝えた。彼はそのとき、私の検査を行ない、私の意識がほぼないことに気づいた。彼は、手術を翌日まで待っていたら、死んでしまうか、少なくとも脳に重い傷害が残るため、すぐに手術の必要があると言った。このとき、私は生命とは確かに随分でたらめなものだ、判断がまったくできないものなのだと思った。[5]

 


Ai Weiwei(Hans Werner Holzwarth編集, Roger M. Buergel, William A. Callahan , James J. Lally , Carlos Rojas 著)Taschen America Llc; Multilingual版 (2016/4/25)

 

Sun TV 映像を見る前「老媽蹄花」とは実に面白いと思いました。なぜこの名前にしたのですか?

AWW この作品は権力に対する抵抗の表れがとても強く含まれており、なかには暴力もあって、個人と権力が面と向かって格闘するものもあり、個人と権力の密な取っ組み合い状態を見ることができる。ひとたびフィルムを回せば、撮影は毎回、危険なものになる。私たちも数えきれないほど阻止され、撮影できないことがあった。また長い時間、撮影できる方法がない場合もあった。だが、撮った部分に関しては、永遠に映像として残り、観客自身の印象としても留まることになる。私は作品のタイトルを、激突の感じが強く、きな臭さを持ったものにはしたくなかった。普通の人が見たときにちょっと笑えるようなものにしたかった。私たちがこの世界をどのようにみなすべきかと考えたとき、――世界は楽しみに満ちていると思った。たとえこんなにも嘘にまみれ、悲哀に満ち、信じられない憤怒が依然として私たちの苦笑の中に含まれているとしてもだ。老媽蹄花は成都の名物料理だ。私にはこの名前がユーモアをもち、私たちにひとつの観点を提供してくれると思った。この世界では如何なることもすべて繋がっている。実際に、私たちの生活、あるいは私たちの憤怒、求める快楽や人の欲望―例えば風が吹き抜けて来て気持ちがいいとか、光の射し方が素晴らしいと言いたいときがあるが、それらはすべて繋がっている。ただ、私たちがその繋がりをはっきりとは分かっていないだけなのだ。どの事柄も完全に切り離してみてよいものなどない。私たちが今日何を話そうが、それは、私たちが快適な生活方法を望むことや、人にもっと気持ちよさを感じてほしいと望む気持ちと関係している。この作品も人々に敵対や争いを伝えたいという目的では決してない。私たちはいっそう老媽蹄花であることを望んでいるのだ。

 

Sun TV あなたがこの映像を撮っていたとき、正義と公平というふたつの概念をどのように理解していましたか?

AWW 正義と公正は、どちらも透明化の程度に加え、正義を勝ち取っていく過程で出くわす様々な障害と不可能性を具体的に表わしている。このとき、正義はある種の輝きを放つが、刃が鋭利かどうかを証明するのは、皮を引き裂くことにより、はじめて分かるのだ。同様にひとつの公民訴訟における権利を証明する過程も、司法部門と直接対抗しない限り、正義かそうでないかも見出すことはできない。各地の司法機関のビル、裁判所、公安局など、どれも建物は立派で正々堂々としているが、これは中国の特殊な状況だ。だが、問題が生じてひとたびその中に入れば、一時間、一日、数年と経っても明晰な回答を得ることができない。すべての人間が問題を別の人間に押し付けるからだ。中国には独立した司法機関が存在しない。標準とする尺度がない。勝手に変える。改編の過程では自分を守るばかりで、なんでもかんでも敵対するものと裁定する。

 

Sun TV 「老媽蹄花」を撮影した時に直面した最大の困難はどんなことでしたか?

AWW 最大の困難は、私たちが接触したすべての人間、下っ端の刑事巡査も、役人も、監察官も、司法の間違いを検査する人員も、彼らは誰一人として責任を負わない。最も正常な倫理判断さえない。彼らすべてが道徳観というものを失っていることだ。

 

Sun TV 公安局がドアを開けさせたとき、あなたは彼らの身分について尋問しました。そうしたのは正しかったと思いますか?

AWW 警察法が規定していることだ。警察が法を執行するときには、警察証を提示しなければいけない。執行される者に対して執行の理由をはっきりと説明しなければいけない。夜中にドアを蹴破ることはできない。そんなことをするのはナチスだけだ。全世界にこんなことをするような国家はいくつもない。私たちが泊まっていた旅館も私たちを保護する責任がある。まずは警察を抑えるべきだが、中国には警察を抑えることができるような店はあるだろうか?そんな店は閉鎖されてしまう。道理に基づけば、私は客であって、宿泊代を払っている。私の安全は保証されて当然だ。たとえ警察が来ても、まずは電話で知らせて、ドアを開けていいかどうか私の同意を求めるべきだろう。まるで暴徒のようにドアを壊して蹴破ってはいけない。大多数の人が、警察がドアを開けろと言えばすぐに開けなければいけないと思っている。冗談じゃない。私の家は私の私有財産だ。私が金を払って宿泊する間に、何か起これば私が責任を引き受ける。もし非合法の人間が入ってきて、非合法の事件が発生すれば、私が責任を負うのではないか?それは当然だ。同様に私が宿泊している間は、警察は私の部屋に勝手に入れない。だから私は奴らに誰なのかと訊いて、110番したのだ。

 

Sun TV このことを通じて、中国と外国にはどんな違いがあると思いますか?

AWW あれこれ言ったが、つまりは人権問題、人間の価値の問題だ。私たちはいつも、人権は政治的スローガンだと言うが、実際には一人一人の個人のものであって、それは警察の権利、裁判官の権利、犯罪人の権利も含んでいる。もし、ひとつの社会が人権について明晰な境界を定めず、明確な意識もないのなら、根本的にそれは文明社会とはいえず、野蛮社会だ。野蛮社会ではどんなことでも発生する可能性がある。

 

Sun TV 映像のなかで、警察側が一番多く使った言葉が責任でした。あなたは責任をどう考えていますか。

AWW 責任というのは、どのような身分が、どのような原則を遵守し、それに相応する責任権利を担うかということだ。警察は実際にはもう個人ではなく、国家機関の一部分であり、法律の尊厳を代表する。一時的な情緒の変化から暴力を振るってはいけない。それは法律を侵し傷つけることだ。中国の司法機関はこの点を理解していないと私は感じている。もしひとりの人間が暴力を振るい、法律を侵害するならば、非常に大きな問題だ。だれかが車を盗んだとか家を転売したとか以上に、ずっと重大な問題だ。だが司法機関は全力で(私を殴った)この人間を守り、この事実を隠蔽して、一系列全体の共犯罪を引き起こしている。この罪はいっそう大きなものだ。四川省の司法部門の上の人間も下の人間もひっくるめて一つの基本的な事実を隠蔽しているのは明らかだ。殴ってはいないと言う。私は正常なルートで告訴を進めている。これが個人の問題であってほしい。一度違反すれば、誰もが違反する可能性がある。車を運転していて事故を起こすことがあるが、車が擦られたといって、道路まで変えてしまうなんてことはないだろう。いま中国の問題はこれだ。丸々一つの系統が代価も厭わず隠蔽を図る。車を擦られたからといって、明日地図からその道路まで無くなるなんてことがあれば、起きた事故は一体全体どうなるのだ。

 

Sun TV あなたと徐科長との会話がありますが、彼の状態をあなたはどう見做していますか?

AWW 私には徐科長以上にいい「役者」は見つからない。この映像に彼がいなかったら、作品は成立しない。徐科長はこの体制の全ての特徴を非常に完全な形で表している。それは言葉があいまいで、意味がなく、心ここにあらずという感じだ。事件を何でもないことだと思っていて、ごまかせるものはごまかし、一時しのぎできるものは一時しのぎをして、一言もまともな話をしない。正面から答えず、いいかげんに答えて、時間を引き延ばして、事件が自分とは関係ないことにしてしまう。政府の人間の全ては、どのポストに居ようと、全政府を賭けてそれぞれの庶民たちに勝負してくる。奴はあなたが賭け続けられないことを知っている。あなたが賭ける元手のない事を知っている。奴はあなたの金を使い、あなたが買ってやった車に乗り、あなたが建てたマンションに住んでいる。そうしてのさばり、私利を謀って不正して、横領する。奴らがなぜこんなことをするのかといえば、奴らはこの政府を見限っているからだ。私たちがドキュメンタリーをつくって論争しようとするのは、私たちが見限るわけにはいかないからだ。

 

Sun TV 徐科長と話す前に、あなたと政治委員との会話があります。あなたは彼女をどう思いますか?

AWW 奴らはどれも同じだ。ただもっとごろつきで、もっとならず者だ。女政治委員は明らかに事件をここで終わらせたがっている。だが、本当にここで何か衝突事を起こしたくはない。彼女の権限の範囲を超えてほしくはない。彼女は、ただただ引き延ばして、調査するというしかないが、今になっても何の回答も寄こさない。私たちが電話をしてもすぐに切る、また、誰かが出てもいつもいないという。私たちは際限なく電話をして疲れ果てた。奴らは明確だ。お前は電話してくるが、私は切る、誰を疲れさせる?誰の消耗がひどい?全政府がこの基本の上に建てられている。お前がこっちを訪ねても会えない。それでもこっちはお前を管理する。すべてはこちらが決定する。お前は私を消耗させられない。こっちはお前を精神病院に閉じ込めることさえできる。

 

Sun TV もう政治形態について話すのは止めにしましょう。あなたは良い人と悪い人をどのように見分けますか?あなたにはその基準がありますか?

AWW もちろんある。良い人というのはつまるところ生まれながらのそのままの人だ。変わってしまったところが多くはない、そんな人はみな好い人だ。逆に悪い人というのは自分からあるいは誰かに傷つけられた後、傷つけられたやり方そのままに成長し、自分を捻じ曲げる。ひいては自分を傷つけた連中の一部になってしまう。それがひどく悪い人間だ。

 

Sun TV 芸術家は何であるべきだと思いますか?

AWW 芸術家の最大の責任はひとりの個人として生きるということだ。自分が芸術家であるなどといつも考えていてはいけない。まともな人間にならなければいけない。あなたの芸術に対する理解が、あなたの表現力を一層強くさせるかもしれない。あるいは誰かの生活に影響することがあるかもしれない。

 

Sun TV 私はこの映像の中であなたには三つの役柄があると思います。当事者、芸術家、公民です。あなたはこの三つの身分の関係をどう考えていますか?

AWW 独裁国家では、あらゆる人にはひとつの身分しかない。それは統治される身分だ。あなたが何者であろうと、どんな身分で、どんな経験があろうと、最後にはたったひとつの可能性しかない。それは彼らの眼中では、あなたが彼らと同様の生命価値があり彼らと同様に平等である可能性のある一個人とはみなされないということだ。この一点がまだ現れてはいないとき、如何なる個人であれ、別の事柄を語るということはすべて身分不相応で贅沢なものなのだ。だから、これが、私たちがなぜにあれこれ論争してでも、やはり最も基本的な問題を語るのかという理由に他ならない。

 

 


 

[1] 老妈蹄花:成都の料理豚足煮込み。2009年8月12日午前3時17分15秒、成都の安逸158酒店の513号室に宿泊していた艾未未が警察の襲撃を受け、頭部を殴打された。艾未未は譚作人裁判の証人に立つために成都に来ていた。この時助手の劉艶萍も拘留された。
艾未未《老妈蹄花》完整版がYouTubeで公開されている。また、日本語字幕等は「我们爱吃老妈蹄花We love LaomaTihua」で閲覧できる。
https://sites.google.com/site/welovelaomatihua/jp/00-03-jp

[2] 譚作人(たんさくじん、タン・ズオレン1954年生)中国四川省成都市の人。2009年2月、民間に呼び掛けて四川汶川大地震で倒壊した校舎の調査を行った。2009年3月28日,かつて64天安門事件に関する文章を公開したという罪状で成都公安に逮捕される。2010年2月9 日成都市中級人民法院は国家専権転覆扇動罪で禁固刑5年、政治権利剥奪3年の判決を下す。2014年3月27日釈放。釈放後も変わらず中国政府に対して調査を求めている。2017年12月劉賓雁良知賞受賞。

[3] 浦志強(ほしきょう、プー・ヂィチアン1965年生)は中国の弁護士。64天安門事件ではハンガーストライキに参加した。当時の艾未未の弁護士。
2014年5月3日、六四天安門事件研究会に出席し、北京市公安局に拘束された。13日「騒動挑発」と「個人情報の不法取得」の両容疑で、正式に逮捕された。2015年12月14日の裁判で検察側は、浦志強が微博で共産党や政府のウイグル民族政策などを批判したことが、「民族の団結を破壊し、社会に悪影響を与えた」と主張。22日判決、懲役3年、執行猶予3年。弁護士資格を剝奪されたが、自ら弁護士事務所を開設した。

[4] 原文は「我们的今天是公民的初期阶段,把它叫草泥马奔腾在马勒戈壁上。草泥马是成为公民的一个前身」草泥马 caonima肏你妈,马勒戈壁 malegebi 妈了个屄
いずれもファックユーに近い罵りことば。

[5] 殴打事件後、アイは成都中医院大学附属医院でCTスキャンの検査を受けているが、頭部に腫れがあるとして、痛み止めなどを処方されただけだった。左小祖咒(ズオシャオズージョウ)も同行しており、記録や写真もある。


Ai Weiwei(Hans Werner Holzwarth編集, Roger M. Buergel, William A. Callahan , James J. Lally , Carlos Rojas 著)Taschen America Llc; Multilingual版 (2016/4/25)

 


 

『ヒューマン・フロー/大地漂流』
監督/艾未未
2017年|140分|ドイツ
http://www.humanflow-movie.jp/
2019年1月12日より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開

 

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