第29回中之島映像劇場「戦争と映像|Wars and Images」@ 国立国際美術館

 

第29回中之島映像劇場「戦争と映像|Wars and Images」
2026年3月15日(日)
国立国際美術館 地下1階講堂
https://www.nmao.go.jp/
定員:100名(先着順、全席自由、各プログラム入替制)※当日10:00から地下1階インフォメーションにて整理券配布(1名につき各部1枚)
上映会担当:馬定延(国立国際美術館 客員研究員)
上映会URL:https://www.nmao.go.jp/events/event/theater_029/
※上映スケジュールは最下部に記載

 

さまざまなテーマを掲げ、美術館における映像上映プログラムの可能性を探求してきた中之島映像劇場。29回目となる今回は「戦争と映像」をテーマに、第1部では戦争記録映画の先駆的存在として知られる亀井文夫を取り上げた講演と上映、第2部ではハルーン・ファロッキやヒト・シュタイエルなど複数のアーティスト/映像作家によるメディアに媒介された戦争に言及した映像作品の上映を開催する。

本プログラムの端緒となったのは、昨年、東京国立近代美術館で開かれた「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」。同展は、1970年にアメリカ合衆国から日本に「無期限貸与」という形で「返還」された戦争記録画を含む、美術に蓄えられた記録をもとに、戦後80年という節目を迎えて新たな戦争の記憶を紡ぎだすことを試みた。

第29回中之島映像劇場は、20世紀末のグローバリゼーションの文脈の中で台頭した組織的暴力を「新しい戦争」の本質を「自集団中心主義的なアイデンティティ・ポリティクスを標榜している集団が協力し合って、市民性(civility)や多文化主義といった諸価値を抑圧している戦争」[1] だと分析したイギリスの政治学者メアリー・カルドーの言葉を踏まえつつ、アイデンティティ・ポリティクスに直結するイメージの生産、発表、保存、批評において、美術館という記憶装置の担う役割を改めて意識した企画となる。
*1 メアリー・カルドー『新戦争論』山本武彦、渡部正樹訳、岩波書店、2003年、13頁

 

亀井文夫《戦ふ兵隊》1939年、35mmフィルム、66分、国立映画アーカイブ所蔵
亀井文夫《戦ふ兵隊》1939年、35mmフィルム、66分、国立映画アーカイブ所蔵

 

第1部では、第二次上海事変を記録した《上海》(1938)、日本占領下の北京を撮影した《北京》(1938)、武漢攻略作戦の従軍記録映画《戦ふ兵隊》(1939)の日中戦争三部作を手がけた映画監督、亀井文夫(1908–1987)を取り上げる。昨年、『戦争映画の誕生——帝国日本の映像文化史』(人文書院)を上梓した大月功雄(立命館大学人文科学研究所客員研究員)を招き、「戦争ドキュメンタリーの詩学―亀井文夫における沈黙の抵抗」と題した講演を受けた上で、厭戦的な哀感が強すぎるという理由で当時公開禁止となり、1975年まで日の目を見ることのなかった《戦ふ兵隊》(国立映画アーカイブ所蔵)を上映する。

かつて大島渚(1932–2013)は、「敗者は映像を持たない」[2] というテキストの中で、終戦がテレビではなく、ラジオ放送によって公表されたという事実に対し、「私たちの映像の歴史は、どんな映像が存在したかということより、どんな映像が存在しなかったということの歴史なのである」と指摘したが、本プログラムは、戦争そのものを記録した映画の存在に焦点を当てるところから「戦争と映像」をめぐる問いを考察していく。
*2 大島渚『体験的戦後映像論』朝日新聞社、1975年、14頁

 

ヒト・シュタイエル《November》2004年、シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)、25分 Image CC 4.0 Hito Steyerl, Image courtesy of the Artist, Andrew Kreps Gallery, New York and Esther Schipper, Berlin Paris Seoul
ローレンス・アブ・ハムダン《くるまれた鋼》2016年、シングルチャンネル・ヴィデオ(カラー、サウンド)、21分47秒 edition of 3+2AP ©︎Lawrence Abu Hamdan, courtesy Maureen Paley, London

 

第2部では、「メディアに媒介された戦争」を扱った4つの映像作品を上映。ハルーン・ファロッキ(1944–2014)がベトナム戦争を取り上げた《消せない火(燃え尽きない火焔)》(1969)は、軍事技術と産業技術の相関関係、そして、映像と記憶と事実との向かい方について、いまなお考えるべき問題を提示している。ヒト・シュタイエル(1966年生まれ)の《November》(2004)は、トルコにおけるクルド人の独立闘争の中で逮捕された友人、アンドレア・ヴォルフ(1965–1998年)の失踪と死に言及した作品。個人の記憶と交差しながら全地球を旅する英雄のイメージ(traveling images)は、シュタイエルのイメージ論と共鳴しつつ、21世紀の映像文化を映し出す。

権力による暴力事件を検証した経過や結果を展覧会を含むさまざまな場所で公開してきた研究機関フォレンジック・アーキテクチャーの一員でもある、ローレンス・アブ・ハムダン(1985年生まれ)の《くるまれた鋼》(2016)は、2014年にヨルダン川西岸地区で非武装の10代のパレスチナ人2名がイスラエルの兵士によって射殺された事件とその裁判を扱っている。観客は、声なきものの死を、証人、裁判官、弁護士のやり取りや音源データなどの証拠を通じて耳で追体験する。同じく観客に紛争と人権のあり方を考えさせるのは、エルカン・オズケンの《紫のモスリン》(2018)。イスラム過激派勢力イスラム国(ISIS)の脅威から逃れ、イラク北部に避難したヤジディ教徒の女性たちとの「協働」から生まれた本作は、暴力の被害者たちに耳を傾ける行為の尊さと重さを同時に伝える。

 

上映スケジュール
2026年3月15日(日)
第1部 講演と上映|11:00–12:50
講演|11:00–11:35
「戦争ドキュメンタリーの詩学―亀井文夫における沈黙の抵抗」
大月功雄(立命館大学人文科学研究所客員研究員)
上映|11:40–12:50
亀井文夫《戦ふ兵隊》(1939年、66分、国立映画アーカイブ所蔵)

第2部 上映|14:00–15:35
ハルーン・ファロッキ《消せない火(燃え尽きない火焔)》(1969年、25分)
ヒト・シュタイエル《November》(2004年、25分)|日本語字幕素材提供:ASAKUSA
ローレンス・アブ・ハムダン《くるまれた鋼》(2016年、21分47秒)※日本語字幕素材提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭
エルカン・オズケン《紫のモスリン》(2018年、16分28秒)※日本語字幕素材提供:ハン・ネフケンス財団

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