KYOTO EXPERIMENT 2024 メインビジュアル ©︎小池アイ子
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024
2024年10月5日(土)-10月27日(日)
ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、THEATRE E9 KYOTO ほか
https://kyoto-ex.jp/
参加アーティスト:ムラティ・スルヨダルモ、アレッサンドロ・シャッローニ、(ラ)オルド × ローン with マルセイユ国立バレエ団 ほか
チケット購入について:https://kyoto-ex.jp/tickets/
国内外の「EXPERIMENT(エクスペリメント)=実験」的な舞台芸術を創造・発信し、芸術表現と社会を、新しい形の対話でつなぐことを目指す「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2024」が、2024年10月5日より、京都市内複数の会場で開催される。
KYOTO EXPERIMENTは、演劇、ダンス、音楽、美術、デザインなどジャンルを横断した実験的な表現が集まり、そこから生まれる創造、体験、思考を通じて、舞台芸術の新たな可能性をひらいていくことを目的に、2010年より毎年開催されている舞台芸術祭。15回目を迎える今年は、川崎陽子、塚原悠也、ジュリエット・礼子・ナップの3名の共同ディレクターの下、他者とのあいだを埋めながら、記憶と対話をつないでいくための言葉である「えーっと えーっと」をキーワードに、上演プログラム「Shows」、リサーチプログラム「Kansai Studies」、エクスチェンジプログラム「Super Knowledge for the Future [SKF]」の3つを軸にフェスティバルを展開する。
ムラティ・スルヨダルモ『スウィート・ドリームス・スウィート』
Melati Suryodarmo, “Sweet Dreams Sweet” (2013-2024), performed at the Hamburger Bahnhof Museum for Contemporary Art, Berlin in 2018 ©Reinhard Lutz
ムラティ・スルヨダルモ「Exergie-butter dance」
Melati Suryodarmo, “Exergie-butter dance” (2000), performed at the VideoBrazil, Sao Paolo, Brasil in 2005 ©Isabel Matthaeus
上演プログラム「Shows」では、世界各地から先鋭的なアーティストを迎え、いま注目すべき芸術作品14演目を実施。オープニングを飾るのは、インドネシアのスラカルタを拠点に活動するムラティ・スルヨダルモのパフォーマンス『スウィート・ドリームス・スウィート』。上演される地域に暮らす28名の女性によって行なわれるこの作品は、揃いの白い衣装をまとい、ベールで顔を隠した個性が抑圧された姿で演じられ、インドネシアの社会、あるいは世界各地で発生している均一化への圧力を暗示する。またスルヨダルモは、インドネシア語で “It doesn’t matter. It’s OK. Don’t worry.” という意味を持つ「TIDAK APA-APA」というタイトルの展覧会を京都芸術センターで開催。アジア人女性である自身の身体が、「バター」という西洋的かつ不安定な物質の上で舞う作品の映像を年代別に構成したインスタレーションとして発表する。
アレッサンドロ・シャッローニ ©MAK
(ラ)オルド × ローン with マルセイユ国立バレエ団 ©Cyril Moreau
KYOTO EXPERIMENTが2022年より協働している「ダンス リフレクションズ by ヴァン クリーフ&アーペル」との共同主催プログラムでは、5組のアーティストによる6つのダンス作品を発表。公演前後には振付家やパフォーマーによるワークショップが行なわれる。
イタリアのローマを拠点とするアレッサンドロ・シャッローニは、公の場で未婚の男女が共に踊ることを許されなかった1900年代初頭のボローニャで、男性のみによって踊られはじめたイタリアの伝統的フォークダンス「ポルカ・キナータ」を甦らせ、継承することを上演目的とした『ラストダンスは私に』を披露する。
異なる得意分野をもつ3人によって2013年に結成されたアーティスト・コレクティブ、(ラ)オルドは、フランスのエレクトロニック・ミュージックの第一人者であるローンとのコラボレーションにより、自らが芸術監督をつとめるマルセイユ国立バレエ団と共に、終末的な風景からの解放を謳いあげる『ルーム・ウィズ・ア・ヴュー』を上演。
プリジアック(フランス)・ポーランドの振付家・ダンサーのオラ・マチェイェフスカは、アール・ヌーヴォー時代のパリで、モダンダンスのパイオニアであったロイ・フラー(1862-1928)の「サーペンタインダンス」に現代から応答した2作品を発表。観客の間近でソロパフォーマンスを展開する『ロイ・フラー:リサーチ』と、この作品を3人のダンサーによる劇場型作品へと発展させた『ボンビックス・モリ』を上演する。緻密なリサーチを重ねダンスの歴史を批評的に読み解き、アイコンとしてのフラーの神話とそのパラドックスに向き合う。
2015年より国際振付研究所(ICI)の芸術監督を務めるヨーロッパのコンテンポラリーダンス界の重鎮クリスチャン・リゾーは、2013年にアヴィニョン演劇祭で初演された『D’après une histoire vraie—本当にあった話から』を上演。8人の男性が、ツインドラムの音とともに緊密に組み立てられたダンスを披露する。
フランスで最も重要な振付家のひとりであるマチルド・モニエと、ヴィジュアルアーティストのドミニク・フィガレラは、舞台上の空間を支配する巨大な泡の塊に対してダンサーたちがコンタクトを重ね、泡を彫刻し、やがてわずかな痕跡と身体だけが残される『ソープオペラ、インスタレーション』を上演する。
オラ・マチェイェフスカ『ロイ・フラー:リサーチ』
Loïe Fuller: Research, Dance Reflections by Van Cleef & Arpels Festival in Hong Kong, 2023, co-presented with French May Art Festival and M+. ©Eric Hong
マチルド・モニエ&ドミニク・フィガレラ ©Marc Coudrais
「えーっと えーっと」がキーワードである今年の上演プログラムは、コラボレーションにより創作された作品が多くを占める。チーム・チープロのメンバーとして東京を拠点に活動するダンスアーティストの松本奈々子と、台湾の原住民族タイヤル族にルーツをもつ現代美術家のアンチー・リンは、日本の民話とタイヤル族の言い伝えを参照しながら、それらが時空を超えて邂逅する新作『ねばねばの手、ぬわれた山々』を上演。
北九州でブルーエゴナクを旗揚げし、現在は京都と東京も拠点に加え活動する劇作家・演出家の穴迫信一と、麿赤兒率いる大駱駝艦で活動を開始し、その後自身のソロダンスや振付作品を発表してきたダンサー・振付家の捩子ぴじんは、新作『スタンドバイミー』で共同演出に臨む。電子音楽家のテンテンコが音楽を担い、テキストと身体の境界線を歩きながら、生と死の道なき道を描き出す。
インドネシア、ジャカルタ出身のダンサー・振付家のシコ・スティヤントは、インドネシア・レンバタ島のラマレラ村で伝統的に行なわれてきた捕鯨を集合的な儀式に昇華し、海に生かされてきた人間と環境の関係性を考えることができる『オーシャン・ケージ』を、中国、北京生まれでベルリンを拠点に活動するアーティストのチェン・ティエンジュオによる映像、オブジェクト、音楽に満たされた空間で発表する。
松本奈々子&アンチー・リン(チワス・タホス) ©Anchi Lin
穴迫信一 × 捩子ぴじん with テンテンコ ©mizuno hiro
フェスティバルの最終週には、次の3作品が上演されプログラムの最後を飾る。ニューヨークで長く活動し2度のベッシー賞受賞経験を持つ振付家・演出家の余越保子は、AAF戯曲賞第20回の大賞を受賞した羽鳥ヨダ嘉郎による『リンチ(戯曲)』に挑戦。上演不可能と言われた謎めいたテキストにダンスで応答し、戯曲の演出とは何か、という問いと共に、日本という国家が歩んできた近代以降の歴史への眼差しをもあぶり出す。
イランの現代史を見つめる作品を多く発表してきたイラン出身の劇作家、演出家であるアミール・レザ・コヘスタニは、逮捕されたジャーナリストの解放を求める運動や、終電のあと始発が出るまでの間に難民が命を賭して走り抜ける夜の海底トンネルなど、走ることと政治にまつわるさまざまな実話をモチーフにした『ブラインド・ランナー』を上演。2人の俳優が舞台上を何度も折り返し走る姿は、歩くことや走ることそれ自体が抵抗の身振りとなることを表現している。
東アジアにおける帝国主義を掘り下げた三部作で国際的に高い評価を受け、大文字の歴史ではなく人々の生活に見出すことができる歴史を見つめてきた韓国出身の舞台作家、ジャハ・クーによる新作『ハリボー・キムチ』。舞台に出現したポジャンマチャ(屋台)で語られる不条理なエピソードの数々からは、国家事業として輸出される「韓国料理」へのささやかな抵抗を見ることができる。
余越保子/愛知県芸術劇場 ©Kai Maetani
アミール・レザ・コヘスタニ/メヘル・シアター・グループ ©Benjamin Krieg
ジャハ・クー/CAMPO ©Bea Borgers
関西地域をアーティストの視点で探究し、未来の創造的な土壌を耕していくためのリサーチプログラム「Kansai Studies」では、教育者・研究者・ディレクターの石川琢也、ダンサー・振付家の内田結花、アーティストの前田耕平の3名が、各自が設定したテーマでフィールドワークを行ない、特設ウェブサイトに経過を発表。また、10月16日に、Kansai Studies リサーチャートークをミーティングポイント BnA Alter Museumで開催する。
さまざまな専門家を迎え、実験的表現とそれが生まれる背景や、いまを考えるトピックを扱うワークショップやトークを行なうプログラム「 Super Knowledge for the Future[SKF]」では、『ガーダ パレスチナの詩』上映会、KEX ラジオ「コミュニティ・チャンネル」の配信、公募から選ばれた執筆者をサポートし批評を掲載する「批評プロジェクト 2024」など開催。
さらに、次代のキュレーターとアーティストをショーケース形式で紹介するパフォーマンス・プログラム「Echoes Now」や、フェスティバルと同時期に公募で集まった京都で開催される作品を一挙に紹介するフリンジ「More Experiments」、EU加盟国から招聘した8名と、日本から選ばれた2名の批評家を京都に招聘し、対話型レジデンスを開催する駐日欧州連合(EU)代表部主催の関連プログラム「批評家・イン・レジデンス@KYOTO EXPERIMENT 2024」など、フェスティバル期間中の京都ではさまざまな舞台芸術に関するプログラムが展開される。