「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」展 ポスター
Artwork: Nawin Nuthong《2 sec before revolution in a leaf》《Flux》《Empty Tomb》《Paper Wing》
Courtesy of the artist and BANGKOK CITYCITY GALLERY
リキッドスケープ 東南アジアの今を見る
2024年9月21日(土)-12月24日(火)
アーツ前橋
https://www.artsmaebashi.jp/
開館時間:10:00–18:00 入場は閉館30分前まで
休館日:水
ディレクター:南條史生(アーツ前橋特別館長)
担当キュレーター:高橋由佳(アーツ前橋キュレーター)
展覧会URL:https://www.artsmaebashi.jp/?p=20571
アーツ前橋では、常に変化を続ける東南アジア地域の文化、社会の状況を「リキッドスケープ(流動する風景)」と名付け、急速に発展する社会に生きる新しい世代の作家の作品を通じて、多様性と流動性が増す現代を生きる手がかりを探る「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」を開催している。
今日の東南アジアでは、経済発展と都市開発が進み、多様な生活が営まれている。一方で、過去の歴史や風景、土地に根差した信仰、自然との関係も社会の底流に存在している。それらは時に融合し、時には対立しながら急速に変化し、今の時代の新たな現実、生活のスタイル、世界観を生み出し続けている。本展は、このように流動する風景の中で、「どこから来てどこへ向かうのか」という問いに答えようとする眼差しと試みが共通する12組の作家を紹介。既に世界的に活躍する作家に加え、東西冷戦の終焉や、インターネット、iPhone、SNSを始めとするテクノロジーの登場、世界の枠組みの大きな変化やアジアの台頭など、グローバルな事件を体験してきた1980年代以降に生まれた7組の作家を含む若い世代を中心に構成し、複雑化する東南アジアの社会、生活、文化の「今」を新しい視点で捉え、現在の規範的価値観を覆そうと試みる全22作品を展示している。
Kawita Vatanajyankur《My Mother and I (Vacum III)》2021
Courtesy of the artist and Nova Contemporary.
Kawita Vatanajyankur《Shuttle》2018
Courtesy of the artist and Nova Contemporary.
ウィット・ピムカンチャナポン(1976年タイ、バンコク生まれ)は、建築と彫刻を融合させた作品を制作している。2014年に長距離サイクリング・ネットワークを設立し、車や列車を使わずにタイ全土の農村地域を巡る旅から得た風景に関する視点は、近年の芸術活動に反映されている。また2002年に建築家の遠藤治郎と共にソイ・プロジェクトを設立し、横浜トリエンナーレ2005、第8回シャルジャ・ビエンナーレ(2007)に出品。個人としても、シンガポール・ビエンナーレ2008、第6回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2009-2010)、あいちトリエンナーレ2013などの国際展に参加している。
カウィータ・ヴァタナジャンクール(1987年タイ、バンコク生まれ)は自身の身体を用いて、女性性、労働、消費主義の交錯について問いを投げかける映像を制作している。家財道具や機械工具といった反復的で過酷な作業を引き受けるサイボーグの役割を演じた映像は、商業広告に類似する一方で、直視することが困難なほどの過酷さと、人間の能力、女性の回復力を表している。主な展覧会に「Everyday Practices」(シンガポール美術館、2024)、「Uncanny Encounters」(釜山現代美術館、2022)、「Fun Feminism」(バーゼル市立美術館、2022)など。第11回アートパシフィックトリエンナーレ(2024)、バンコクアートビエンナーレ2022などの国際展にも参加。
自らの出自となる少数民族の差別や迫害、また、他の少数民族の歴史を辿る作品を制作しているハーディム・アリー(1978年パキスタン、クエッタ生まれ)と、2013年に戦争と差別によって祖国からの脱出を余儀なくされ、移住、不確実性、仮想生活に関する深い個人的体験と集団的記憶から生まれる作品を制作するムムターズ・カーン・チョパン(1990年アフガニスタン、ガズニー生まれ)、ハザラ出身であり、インドネシアに住んだ経験からインドネシアの難民の日常生活を撮影し紹介するアリ・フロギー(1995年アフガニスタン生まれ)とハッサン・アティ(1995年アフガニスタン生まれ)はグループで参加し作品を制作。
ビジュアルアーティスト、映像作家、ストーリーテラーであるコラクリット・アルナーノンチャイ(1986年タイ、バンコク生まれ)は、アジアとアメリカでの経験から、文化移植やその混成性に埋め込まれた物語を中心に制作。フィクションと詩を融合させたさまざまな共感覚的体験を呼び起こす作品群は、主に家族、友人、同僚の生活や土地の神話などを主題としている。マニフェスタ15(2024)、タイランド・ビエンナーレ チェンライ2023、第13回光州ビエンナーレ(2021)のほか、2019年にはヴェネツィア・ビエンナーレ、第16回イスタンブール・ビエンナーレ、アジア・アート・ビエンナーレ、シンガポール・ビエンナーレなど多くの国際展に参加。
Korakrit Arunanondchai《Songs for dying》(still), 2021
Co-commissioned by the 13th Gwangju Biennale, Han Nefkens Foundation and Kunsthall Trondheim. Courtesy of the artist, BANGKOK CITYCITY GALLERY, Bangkok, Carlos/Ishikawa, London, C L E A R I N G, New York/Brussels, Kukje Gallery, South Korea.
Korakrit Arunanondchai & Alex Gvojic《Songs for living》(still), 2021
Commissioned by Migros Museum and Kunstverein Hamburg with support from FACT Liverpool. Courtesy of the artist, BANGKOK CITYCITY GALLERY, Bangkok, Carlos/Ishikawa, London, C L E A R I N G, New York/Brussels, Kukje Gallery, South Korea.
チトラ・サスミタ(1990年インドネシア、バリ島生まれ)は、バリ島の芸術や文化にまつわる神話や誤解を解き明かすことに重点を置いた作品制作を行なっている。芸術的活動を通して、社会的ヒエラルキーにおける女性の立場に疑問を投げかけ、ジェンダーの規範的な構成概念を覆すことに取り組んでいる。トロント・ビエンナーレ2024、第24回シドニー・ビエンナーレ(2024)、ディルイーヤ・ビエンナーレ(2024)、タイランド・ビエンナーレ チェンライ2023、第35回サンパウロ・ビエンナーレ(2023)など多くの国際展に参加。2025年は、シャルジャ・ビエンナーレ16への参加や、ロンドンのバービカン・センター・ザ・カーブでの個展が控えている。
セーリングの選手として活動し、オリンピックにも代表選手として出場した経験を持つチャールズ・リム(1973年シンガポール生まれ)は、水や海洋に関する深い知識や経験を背景に、映像、インスタレーション、サウンド、録音された会話、テキスト、ドローイング、写真など多岐にわたる作品を制作している。本展では、2005年より発表し、マニフェスタ7(2008)や第56回ヴェネツィア・ビエンナーレ(2015)シンガポール館での個展で展示した〈SEA STATE〉シリーズのひとつで、「海」というレンズを介してシンガポールの社会や政治状況、生態系や環境に対して多角的に言及した作品を出品。
ナウィン・ヌートン(1993年タイ、バンコク生まれ)は、幅広い媒体を通して歴史と文化メディアの繋がりを探求し、神話や伝説をビデオゲーム、コミック、映画などから引用したポップカルチャーと融合させることで、歴史の理解と学びの再構成についてテクノロジーが果たすべき役割を作品を通じて検証している。バンコクのインディペンデント・アートスペース、Speedy Grandmaの運営メンバーのひとりでもあり、同スペースを中心に多くの展覧会のキュレーションを務め、キュレーターとしても精力的に活動している。
ジョグジャカルタとジャカルタを拠点に活動するナターシャ・トンテイ(1989年インドネシア、ジャカルタ生まれ)は、主にフィクションを用いて「造られた恐怖」にまつわる歴史や神話を考察し、それらを物語として伝える作品を制作している。既存の制度の視点からではなく、追放された存在や、ささやかで個人的な闘いに注目し、今とは異なる未来の可能性を探求している。2022年にロンドンのオート・イタリアで個展「Garden Amidst the Flame」を開催。また、第34回シンガポール国際映画祭(2023)、第57回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭(2023)などの映画祭に参加し作品を上映。
Citra Sasmita《Timur Merah Project Ⅲ ; Ode to the Sun》2020
Photo by Ahmad Iskandar, courtesy of Yeo Workshop.
Nawin Nuthong《Empty Tomb》2024
Courtesy of the artist and BANGKOK CITYCITY GALLERY.
ホー・ツーニェン(1976年シンガポール生まれ)は美術史から演劇、映画、音楽、哲学に至るまで、東洋と西洋の文化的側面を参照する作品を制作し、神話的な物語と歴史的事実を融合させ、歴史、その記述、伝達に関する多様な理解を促す。東南アジアにおける文化的アイデンティティの多様性とそれに関する長期的な調査を基に、アーカイブ映像やアニメーションを組み合わせ、没入的で演劇的なインスタレーションを展開している。国際的に活動し、日本でも「ホー・ツーニェン エージェントのA」(東京都現代美術館、2024)や「ホー・ツーニェン:ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声」(山口情報芸術センター[YCAM]、2021)が開催された。
メッチ・チョーレイ(1992年カンボジア、カンダル州生まれ)+メッチ・スレイラス(1993年カンボジア、プノンペン生まれ)は姉妹のアーティスト・デュオであり、個人としても活動しそれぞれの作品を制作している。姉チョーレイはドキュメンタリー映像作家、フリーランスのジャーナリストであり、入念なリサーチに基づいた環境及び動物保護にまつわる作品制作を行なっている。妹スレイラスは、新進のビジュアルストーリーテラーであり、写真や映像作品を制作。短編映画『The Expired』が2023年の釜山国際映画祭(BIFF)で上映された。
ゲゲルボヨは、2017年に5人のアーティストによって結成されたインドネシア、ジョグジャカルタを拠点にするコレクティブ。現在はエンカ・コマリヤ、プリィハモコ・モキ、アンジャリ・ナイエンギッタの3名で活動を行なっている。現代の都市文化、ストリートアート、政治、社会、伝統文化からインスピレーションを得た作品を制作。コレクティブ名は、ジャワ島のムラピ山に実在し、周辺地域を噴火や熱雲から守る丘の名前に由来。ゲゲルが背中、ボヨがワニのことで、ゲゲルボヨは「ワニの背中」を意味している。
ジャッガイ・シリブート(1969年タイ、バンコク生まれ)は、織物や刺繍を用いた作品を中心に制作し、観客参加型のインスタレーションも手掛ける。タイでは言及されない非公式の歴史や、個人的かつ地域的な歴史の交差、さらに近年はマイノリティに対する民族主義的差別が引き起こす紛争に関心を寄せ、繊細な形態と素材の表現を対比させることで、現在進行中の微妙な緊張関係を浮かび上がらせる。2023年から24年にかけて、「Jakkai Siributr: Matrilineal」(100トンソン財団、バンコク)と「Jakkai Siributr: Everybody Wanna Be Happy」(CHAT(Centre for Heritage, Arts and Textile)、香港)が開催された。
Ho Tzu Nyen《CDOSEA (The Critical Dictionary of Southeast Asia)》2017–ongoing
In collaboration with Sebastian Lütgert and Jan Gerber (programming), and Bani Haykal (vocals). Screen capture of website courtesy of the artist and Kiang Malingue.
関連イベント
南條史生特別館長によるギャラリートーク
2024年9月29日(日)※既に終了、12月21日(土)各日14:00–15:00
会場:アーツ前橋ギャラリー内
定員:30名
無料(要鑑賞チケット)
申込方法:フォームより申込
https://logoform.jp/form/dWZu/654802
担当キュレーターによる作品解説
2024年10月14日(月・祝)、11月17日(日)、12月7日(土)各日14:00–15:00
会場:アーツ前橋アーカイヴ
無料(要鑑賞チケット)
申込方法:フォームより申込
https://logoform.jp/form/dWZu/654999