第14回恵比寿映像祭「スペクタクル後」

 

第14回恵比寿映像祭「スペクタクル後」
2022年2月4日(金)- 2月20日(日)※月曜休館
https://www.yebizo.com/
会場:東京都写真美術館、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、地域連携各所ほか
開催時間:10:00-20:00(最終日は18:00まで)※入館は閉館30分前まで
ディレクター:田坂博子(東京都写真美術館学芸員)

 

「映像とは何か」という問いに映像領域と芸術領域を横断する幅広い表現を通じて応答を試みてきた恵比寿映像祭が、2022年も東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で開催される。

本年度のテーマは「スペクタクル後」。スペクタクルとは、風景や光景という意味のほかに、しばしば壮大な見世物という意味で使われる言葉だが、その語源となったラテン語の「spectaculum(スペクタラム)」には、そもそも光学的な意味と同時に、地震や火山噴火などの天変地異などが含まれていた。そして、近代国家が誕生する19世紀に入ると、博覧会、写真、映画のなかで、天変地異は壮大な風景や見世物として視覚的に再現され、人々に受容されていく。20世紀後半、フランスの思想家、ギー・ドゥボールは著書『スペクタクルの社会』(1967)で、スペクタクルを見世物という限られた意味ではなく、「イメージ」で構成された現代社会を把握する概念として考察し、メディアによってイメージだけを植え付けられ、ただ受け身でいる状態をスペクタクル社会として批判した。現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行が日常を大きく変えていくなかで、映像はより身近なメディアとして社会に浸透し、ソーシャルメディア上のコミュニケーションにより誰もが複層的な次元で映像を体験できる状況も相俟って、祝祭的イヴェントから災害や戦争などの出来事まで、いかなる情報も一大スペクタクルとして享受されているのではないだろうか。本年度の恵比寿映像祭では、このような時代において、さまざまな作品、プログラムを通じて、改めてイメージや視覚表現を「みる/みられる」「とる/とられる」という視点から考察していく。

 


《ヴィサヤ族、フィリピン村(セントルイス万国博覧会)》1904年、個人蔵


佐藤朋子《オバケ東京のためのインデックス 序章》2021年[参考画像]レクチャーパフォーマンス 初演・製作:シアターコモンズ ’21 撮影:佐藤駿


藤幡正樹《Voices of Aliveness》2012年[参考画像]

 

「スペクタクル後」をテーマに掲げる本映像祭において、東京都写真美術館の3つの展示室に展開する展示部門で、まず観客に歴史的視座を与えるのは、ゲスト・キュレーターに小原真史を迎えた企画「スペクタクルの博覧会」。昨年、小原は『KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭』の一環として、19世紀末から20世紀初頭に隆盛期を迎えた万国博覧会や「学術人類館」を記録した大量の資料を通じて、他者表象の方法や人々の欲望の所在、「見られる身体」の歴史を探る展覧会『イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示』(京都伝統産業ミュージアム)を企画した。本映像祭では、小原が所蔵する資料に東京都写真美術館のコレクションを組み合わせ、「博覧会の時代」を省みることで、現代社会における私たち自身の欲望の所在を捉え直す機会をつくりだす。

これまでにも展示と上映という異なる発表形態を横断的に鑑賞する機会を、その特徴のひとつとしてきた恵比寿映像祭だが、本映像祭では北海道沙流郡平取町二風谷に長期滞在し、現代に生きるアイヌ民族に密着してきた空音央 & ラウラ・リヴェラーニ、SNSをはじめとするさまざまなメディアを駆使し、ジェンダーや格差などの社会問題にアプローチしてきたアマリア・ウルマンの2組が両部門で作品を発表する。とりわけ、ウルマンは2022年1月14日より初の長編監督作品《エル プラネタ》の劇場公開も決まっており、アーティストの表現や映像へのアプローチを多角的に理解する貴重な機会となる。展示と上映の横断という点では、過去の映像祭では上映部門で《セノーテ》を発表した経験を持つ小田香が同作を映像インスタレーションへと展開した《Day of the Dead》を発表。佐藤朋子は、昨年のシアターコモンズ’21で製作・初演されたレクチャー・パフォーマンス《オバケ東京のためのインデックス 序章 Dual Screen Version》を映像インスタレーション版として再構成して発表する。また、佐藤は2022年2月開催予定のシアターコモンズ’22で、本作の続編「オバケ東京のためのインデックス 第一章」の初演が控えている。そのほか、動画をGPSの位置情報とともに3D空間で編集し、仮想空間と現実を結ぶ「Field-Works」シリーズに、1990年代から取り組んできた藤幡正樹が、集合的な記憶を扱う、シリーズ到達点とも言える新作《Voices of Aliveness》を発表する。

 


アマリア・ウルマン《Excellences & Perfections(ICA)》2014年 /11分 Courtesy of the Artist


石原海《重力の光 ドキュメンタリー版(仮題)》2022年(新作) /約70分/日本語

 

劇映画から、実験映画、ドキュメンタリー、アニメーション、現代美術作品まで、さまざまな映像作品を紹介する上映部門。上述した空音央 & ラウラ・リヴェラーニやアマリア・ウルマンのほか、単独でプログラムが組まれたのは、自身の体験をもとに、愛やジェンダー、狂気などのテーマに取り組んできた石原海や、2016年に鳥取に移り住み、それまでとは違う環境のなかで自ら上映会を主催し、作品をつくる人たちと出会う旅を続けた《映画愛の現在》3部作を発表する佐々木友輔など。石原は昨年資生堂ギャラリーの個展で発表した《重力の光》に新たな映像を加えた《重力の光 ドキュメンタリー版(仮題)》を過去作とともに発表する。また、目に見えない力に左右されながらも個を生きる者たちの存在が浮かび上がる映像作品で組んだ「新進作家短編集 — 現実と夢の揺らぎを紡ぐもの」(ゲスト・プログラマー:清水裕)、非西洋的文脈から、人間以外の存在も体系化された歴史をもつという観点で、アジア出身の作家たちの作品を「アニミズム的メディア」ととらえ、国、場所、霊、テクノロジー、人間との関係を探っていくプロジェクト「アニミスティック・アパラタス」(仮)(ゲスト・プログラマー:メー・アーダードン・インカワニット、ジュリアン・ロス)など、日本初公開作品を含む多種多様な作品が東京都写真美術館1Fホールで上映される。「アニミスティック・アパラタス」では、一昨年の『アジアフォーカス・福岡国際映画祭』や昨年の『Asian Film Joint 2021』で特集が組まれたアノーチャ・スウィチャーゴーンポンの福岡市総合図書館所蔵の2作品も上映される。そのほか、会期中配信される映像作家の遠藤麻衣子によるオンライン映画プロジェクト、国内外の複数の都市に拠点を置くWOWによる恵比寿ガーデンプレイス センター広場を会場とするオフサイト展示、トヨダヒトシの2日間限定の「映像日記/スライドショー」(東京都写真美術館2Fロビー)、手作りの映像機と楽器を操る夫婦ユニットusaginingenによるライブパフォーマンス(東京都写真美術館1Fホール)など、地域連携プログラムも含め、本年度もさまざまな角度から映像表現を体験、考察する機会を提供する。

 


池添俊《あなたはそこでなんて言ったの?》2021年/20分/日本語・中国語(英語・日本語字幕付)


シャムパピ・カウル《Mount Song》2013年/8分


豊島ウサギニンゲン劇場

Copyrighted Image