ナラティブの修復 @ せんだいメディアテーク


 

せんだいメディアテーク開館20周年展
ナラティブの修復
2021年11月3日(水・祝)– 2022年1月9日(日)
せんだいメディアテーク6階ギャラリー4200
https://www.smt.jp/
公開時間:10:00–19:00 入場は閉場30分前まで
休場日:11/25、12/29–1/3
展覧会ウェブサイト:https://www.smt.jp/projects/narrative/
企画担当:清水建人(せんだいメディアテーク学芸員)
参加アーティスト:阿部明子、磯崎未菜、菊池聡太朗、工藤夏海、小森はるか+瀬尾夏美、是恒さくら、佐々瞬、佐藤徳政、伊達伸明、ダダカン連

 

開館20年を迎えたせんだいメディアテークでは、ナラティブ(もの語り)をテーマに、東日本大震災からの10年の間にメディアテークとともに地域のなかで活動してきたアーティストが、過去・現在・未来を見据えて、それぞれの観点であらわした10のナラティブを紹介する展覧会『ナラティブの修復』を開催する。

古くは民話に例をみるナラティブの様態だが、情報技術の発達とともにコミュニケーションは遠隔化し、ナラティブをとりまく環境は大きく変化している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は、他者との空間の共有や、身体的な接触が困難になるという危機をもたらし、たしかにインターネットはその渦中で有効な技術としての存在感を示していた。一方で、せんだいメディアテークでは、東日本大震災以降、さまざまな表現者とともに、独自のメディアや技法の開発によって生まれる多様なナラティブを模索してきた。本展では、それぞれが個々の出来事や体験を他者へと開いていくさまざまな「語りの術」を探究してきたアーティストの実践を通じて、次の10年に向けた一元的ではない世界の認識を提示する。

 


阿部明子《レウムノビレ》2017年


磯崎未菜《The Dreamtime》2020年

 

写真家の阿部明子(1984年宮城県生まれ)は、日常的な風景と自身の生活空間を編み込むようにしながら、画面内に異なる時空を複層させる写真表現に取り組んできた。本展では、他界した父親の子供の頃のアルバムをもとに、父親が見たであろう景色と、現在の風景を重ね合わせることで、記憶の場所としての家のイメージを構成する。磯崎未菜(1992年東京都生まれ)は、特定の土地に根付く童謡や労働歌などを手がかりにしながら、場所に添う新たな歌をつくる「小民謡プロジェクト」に取り組んでいる。本展では、近代以降の民謡や童謡の考察を通じて、コロナ禍における新たな歌をつくりだす。建築を学んだ菊池聡太朗(1993年岩手県生まれ)は、主に風景を主題としたドローイングと建築素材を用いたインスタレーション作品を発表している。本展では、菊池が近年の主題とする「荒地」についてのいくつもの思索を生みだす空間を、ドローイングを中心に構成する。

 


菊池聡太朗《鹿探し》2017年


工藤夏海《a-u-o》2015年

 

絵画や立体、人形劇、楽器演奏など多岐にわたる表現を展開する工藤夏海(1970年宮城県生まれ)は、人形劇未経験者と小さな布の人形を用いてテーブル上で行なう即興人形劇「まちがい劇場」を通じて、人形劇が人に及ぼす影響について探究している。本展では、これまでに制作したいくつもの人形たちを集わせて物語を構成するとともに、それらを用いた即興人形劇などを発表する。映像作家の小森はるかと画家・作家の瀬尾夏美によるアートユニット小森はるか+瀬尾夏美は、東日本大震災以降に陸前高田に移住し、被災した土地と人に寄り添い記録する活動を続けてきた。本展では、これまでの多数の聞き取りから気づかされた「11歳」という時期の人生に与える大きな影響力に着目し、幅広い年齢層の「11歳」の記憶をたずね、いくつもの語りのなかに、個人史であると同時に、地域や日本社会の生きた年代記を浮かび上がらせようとする。是恒さくら(1986年広島県生まれ)は、日本の東北地方や北米各地の捕鯨、漁労、海の民俗文化を尋ね、リトルプレスや刺繍、造形作品として発表してきた。本展では、2015年以降山形と仙台に暮らしながら、東北各地で聞き取ってきた鯨にまつわるいくつもの物語を紹介するとともに、鯨の死後、海底でその巨体によって形成される「鯨骨生物群集」に着目し、生命の継承と物語の継承がイメージとして融合していく空間をつくりだす。

 


小森はるか+瀬尾夏美《みえる世界がちいさくなった コロなか対話の広場》2020年


是恒さくら《ありふれたくじら Vol.5 神を食べる:唐桑半島》2018年 撮影:根岸功

 

佐々瞬(1986年宮城県生まれ)は、身体的な実践によって、過去の出来事を現在のなかに捉えなおすことで、個人や共同体の失われた関係性の再構築をはかる実践を試みてきた。東日本大震災以降は、半壊した宮城県沿岸部・新浜の住宅を借り受け、アーティストや建築家らを招聘するプライベートなレジデンスプログラムなども企画している。本展では、生まれ変わろうとしている仙台の追廻地区の街の記憶を伝え保存するための、資料館のプランを展示する。佐藤徳政(1981年岩手県生まれ)は、東日本大震災を機に東京から帰郷し、共鳴する仲間達と日常を豊かにしていくためのクリエイティブ集団「FIVED」を主宰。震災で途絶えた地域の七夕祭りの復活や、神楽を創作する活動のほか、嵩上げ工事で埋められる巨石「五本松」の記録を行なってきた。本展では、未来へ伝えたい想いを詰め込んで創作した寓話をもとに、架空のオリジナルショップを展開する。

 


佐々瞬《○○のためのサバイバル》2009年


佐藤徳政「超絶祭Vol2.巨石龍」より

 

伊達伸明(1964年兵庫県生まれ)は、2000年より「建築物ウクレレ化保存計画」を始め、現在までに寺院、学校、一般住宅など約80物件の建物をウクレレ化している。伊達はこれまでにも仙台や宮城の「亜炭」や「埋もれ木」の調査やワークショップを行ない、その成果をメディアテークで発表してきたが、本展では、「建築物ウクレレ化保存計画」を宮城で初めて発表する。ダダカン連は、1920年東京生まれで仙台在住の表現者、糸井貫二(通称、ダダカン)の活動を記録・保存し、紹介していく有志のグループ(細谷修平、三上満良、関本欣哉、中西レモン)。戦前は徴用により筑豊で坑内炭鉱に従事し、1945年、熊本特車部隊に入隊し、鹿児島で終戦を迎えた糸井は、戦後、独学で作品制作をはじめる。1960年代に行為としての芸術「ハプニング」を各地の前衛芸術家たちと展開し、その名を「ダダカン」として知られるようになる。両親が仙台に住んでいたこともあり、仙台はたびたび活動の拠点となっていたが、1980年代以降は仙台の自宅「鬼放舎」を拠点に表現活動を続けている。本展では、糸井との交流から得られた資料とともに、その活動の遍歴を紹介する。

 


伊達伸明、芦屋市美術博物館での展示風景、2013年 撮影:表恒匡


ダダカン連 ダダカンこと糸井貫二氏 鬼放舎にて、2008年

 

関連イベント
作家による作品解説
菊池聡太朗、是恒さくら、佐藤徳政、伊達伸明
2021年11月3日(水・祝)14:00–15:00
阿部明子、小森はるか+瀬尾夏美、ダダカン連
2021年11月21日(日)14:00–15:00
磯崎未菜、工藤夏海、佐々瞬
2021年12月11日(土)14:00–15:00
会場:せんだいメディアテーク6階ギャラリー4200
※展覧会チケット(当日分)の半券提示が必要
新型コロナウイルス感染症対策のため、入場者数の制限あり


関連上映会『いなばの白うさぎ』 ※上映の前後にダダカン連による解説あり
2021年11月20日(土)14:00-17:00(開場:13:30-)
会場:せんだいメディアテーク 7f スタジオシアター
定員:64名(先着)
料金:当日券のみ(展覧会当日券の半券有効)一般500円(大学生・専門学校生含む)、高校生以下無料、障がい者手帳・豊齢カード等をお持ちのかたは半額
上映作品:『いなばの白うさぎ』
監督:加藤好弘/46分/1970年(スペシャル・エディション 2017年)/日本/カラー、モノクロ ※作品は一部過激な表現を含む
[スケジュール]
14:00:細谷修平(ダダカン連)による上映前解説
14:30:『いなばの白うさぎ』上映(46分)
15:20:休憩(10分)
15:30:三上満良(ダダカン連)による上映後解説・質疑応答
16:30:終了予定

 


加藤好弘『いなばの白うさぎ』(1970年、スペシャル・エディション 2017年)©ゼロ次元・加藤好弘アーカイヴ

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