ボイス+パレルモ @ 埼玉県立近代美術館


ヨーゼフ・ボイス《ブリンキーのために》1980年頃 ヒロセコレクション

 

ボイス+パレルモ
2021年7月10日(土)- 9月5日(日)
(前期:7/10 – 8/9|後期:8/10 – 9/5)
埼玉県立近代美術館
https://pref.spec.ed.jp/momas/
開館時間:10:00-17:30 入場は閉館30分前まで
休館日:月(ただし8/9は開館)
展覧会担当:大浦周(埼玉県立近代美術館学芸員)
平野到(埼玉県立近代美術館学芸主幹)
佐原しおり(埼玉県立近代美術館学芸員)

 

埼玉県立近代美術館では、「拡張された芸術概念」及び「社会彫塑」を唱え、狭義の美術の枠組みを超えた活動を展開したヨーゼフ・ボイスと、その教え子でありながら絵画制作に取り組み、さまざまな物事の仕組みを問い直そうとしたブリンキー・パレルモという一見対照的なふたりのアーティストの作品を通して、芸術の営為とはなにかを見つめなおす企画展『ボイス+パレルモ』を開催する。豊田市美術館(すでに会期終了)、埼玉県立近代美術館、国立国際美術館(10月12日 – 2022年1月16日)を巡回する本企画は、各会場ごとに少しずつ構成や出品作品が異なり、埼玉県立近代美術館では会期中に一部展示替えを予定している(前期:8月9日まで/後期:8月10日から)。

ヨーゼフ・ボイス(1921-1986/クレーフェルト生まれ)は、「ほんとうの資本とは人の持つ創造性である」と語り、ひろく社会を彫刻ととらえ社会全体の変革を公衆に語りかけた。その作品において、脂肪とフェルトは重要な素材として知られているが、ボイス自身、第二次世界大戦時の逸話として、空軍の通信兵として従軍し、ソ連国境付近で追撃され瀕死の重傷を負った際に、「現地のタタール人に脂肪を塗り込まれ、フェルトに包まれることで一命をとりとめた」と語っている。「ほんとうの資本とは人の持つ創造性である」と、ひろく社会を彫刻ととらえ社会全体の変革を唱えたボイスは、教育者としての仕事、政治活動や環境問題さえも芸術上の問題として捉え、広く公衆に語りかけ、挑発し、駆り立てることを重視した。最晩年の1984年に来日した際も、展覧会だけでなく、アクションの実践、学生との討論会などを実行している。

ブリンキー・パレルモ(1943-1977/ライプツィヒ生まれ)は、双子の弟ミヒャエルとともに生後すぐに養子に出され、ペーター・ハイスターカンプの名で暮らし、1949年の東西ドイツ分裂に際に家族とともに西側のミュンスターに移る。高校生の頃からジャズなどの音楽や美術に関心を寄せ、62年にデュッセルドルフ芸術アカデミーに入り、64年にボイスのクラスに移る。アカデミー在籍初期はシュルレアリスムの影響の強い絵画を描いていたが、その後は20世紀初頭のカジミール・マレーヴィチやピート・モンドリアンらの抽象絵画や、同時代のミニマリズムの動向に影響を受けながら、絵画の構成要素自体を問い直す作品を制作。既製品の布を縫い合わせた〈布絵画〉、建築空間にささやかに介入する壁画、小さなパネルを組み合わせた〈金属絵画〉など独自の制作を展開したが、77年にモルディブで客死。実質的な活動期間は15年にも満たないために残された作品は限られているが、その制作は近年徐々に評価が高まり、ドイツ本国のみならずヨーロッパやアメリカ合衆国で回顧的な展覧会が続いた。

 


ヨーゼフ・ボイス《ユーラシアの杖》1968-69年 クンストパラスト美術館、デュッセルドルフ
©Kunstpalast – Manos Meisen – ARTOTHEK


ヨーゼフ・ボイス《ジョッキー帽》1963/85年 豊田市美術館

 

本展は、「フェルトと布」「循環と再生」といったキーワードで両者を並置し、それぞれの特徴をうかがいながら、両者の交わりや重なりに両者の実践の潜勢力を探る日本の美術館による独自企画。国内約10年ぶりとなるボイスの展覧会として、ドイツと日本の複数の美術館の協力の下、これまで十分に紹介されてこなかった初期のドローイングや、国立国際美術館が新収蔵することになった《小さな発電所》(1984)、そして、60年代の最重要作品とみられる《ユーラシアの杖》(1968/69)など約80点を集め、いまなお影響力の強いその思想ではなく、あらためて「作品」や造形行為に着目する。《ユーラシアの杖》は、東西の冷戦下のヨーロッパにあって、ユーラシア大陸を再接続しようと試みるボイスの終生にわたるユーラシア概念を示す同名のパフォーマンス(ヘニング・クリスティアンセンとの共演)に用いられた4メートルを超える4本の柱と金属の長い杖で構成された作品。アクションと呼ばれるパフォーマンスはボイスの芸術実践の核となるもので、実のところ多くのボイス作品がこのアクションにて用いられた素材や道具に由来している。本展では代表的なアクションを記録した6本の映像も紹介する。

一方、日本国内でまとまった紹介の機会がなかったパレルモについては、60年代半ばの初期作品から代表作として知られる70年代の金属絵画までの作品群を紹介する。出品作品には、パレルモが亡くなったときにアトリエに残されていた8枚組の金属絵画、アカデミーでボイスのクラスに移る前のシュルレアリスムの影響を強く受けていた時代の絵画《男と女》(1963)なども含まれる。さらに、ボン市立美術館の協力の下、パレルモが5年ほどのあいだに画廊や美術館などに約30点ほど手がけた壁画の記録として残していた構想スケッチと記録写真からなるドキュメンテーションなども展示し、その活動を概観する貴重な機会となる。

展覧会にあわせて、2021年3月に展覧会カタログを刊行。展覧会企画者による複数のエッセイ、ゲーテのゲシュタルトの観点からボイスの60、70年代の実践を読み解いた『Inszenierte Metamorphosen: Beuys’ Aktionen vor dem Hintergrund von Goethes Gestalttheorie』(2007)の著書で知られるスヴェン・リントホルム、パレルモ研究の第一人者で前ボン市立美術館副館長のクリストフ・シュライアーによる各論、出品作品のカラー図版に加え、ボイスとパレルモのさまざまなドキュメント写真などが収録されている。

 

関連イベント
詳細決定次第、公式ウェブサイトなどで発表

 


ブリンキー・パレルモ《無題(布絵画:緑/青)》1969年 クンストパラスト美術館、デュッセルドルフ ©Kunstpalast – ARTOTHEK


ブリンキー・パレルモ《無題》1977年 個人蔵

 

 


 

巡回情報
2021年10月12日(火)- 2022年1月16日(日)
国立国際美術館
https://www.nmao.go.jp/

2021年4月3日(土)- 6月20日(日)(※既に終了)
豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/

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