ボイス+パレルモ @ 豊田市美術館


左:ヨーゼフ・ボイス《そして我々の中で…我々の下で…大地は下に》1965年のアクション, bpk | Sprengel Museum Hannover, Archiv Heinrich Riebesehl, Leihgabe Land Niedersachsen / Heinrich Riebesehl / distributed by AMF.
右:ブリンキー・パレルモ、1973年ハンブルクにて, bpk | Angelika Platen / distributed by AMF.

 

ボイス+パレルモ
2021年4月3日(土)- 6月20日(日)
豊田市美術館
https://www.museum.toyota.aichi.jp/
開館時間:10:00-17:30 入場は閉館30分前まで
休廊日:月(ただし、5/3は開館)
※会期途中で展示替えを予定

 

「拡張された芸術概念」及び「社会彫塑」を唱え、狭義の美術の枠組みを超えた活動を展開したヨーゼフ・ボイス。その教え子でありながら、絵画の在り方そのものをカンヴァスや木枠といった構成要素から問い直し、美術作品と身近な日常とをささやかに接続するような実践に取り組んだブリンキー・パレルモ。豊田市美術館では、この一見対照的に見えるふたりのアーティストが1960、70年代に手がけた作品を中心に、その芸術を生の営みへと取り戻そうとするふたりに共通する姿勢を学び、社会と芸術のかかわりについてあらためて問いかけ、芸術の営為とはなにかを見つめなおす企画展『ボイス+パレルモ』を開催する。本企画は、豊田市美術館を皮切りに、埼玉県立近代美術館、国立国際美術館に巡回するが、各会場ごとに少しずつ異なる展覧会の構成や出品作品となる予定。

ヨーゼフ・ボイス(1921-1986/クレーフェルト生まれ)は、「ほんとうの資本とは人の持つ創造性である」と語り、ひろく社会を彫刻ととらえ社会全体の変革を公衆に語りかけた。その存在は、戦争の加害者でありかつ被害者でもある自身の体験に基づく作品制作と、芸術を社会のあらゆる領域へと拡張しようとした姿勢において、第二次世界大戦以降、現在に至るまで最も影響力のあるアーティストのひとりとして知られている。オランダとの国境近くの町クレーヴェで青年期を過ごしたボイスは、第二次世界大戦に通信兵として従軍し、ソ連国境付近を飛行中に追撃され瀕死の重傷を負う。その際、現地のタタール人に脂肪を塗り込まれ、フェルトに包まれることで一命をとりとめる。この体験とそこで用いられた脂肪とフェルトは、のちのボイスの制作における重要な「素材」となった。

ブリンキー・パレルモ(1943-1977/ライプツィヒ生まれ)は、1964年にデュッセルドルフ芸術アカデミーのボイスのクラスに入り、20世紀初頭のカジミール・マレーヴィチやピート・モンドリアンらの抽象絵画や、同時代のミニマリズムの動向に影響を受けながら、絵画の構成要素自体を問い直す作品を手がける。以来、77年にモルディブで客死するまで、既製品の布を縫い合わせた〈布絵画〉、建築空間にささやかに介入する壁画、小さなパネルを組み合わせた〈金属絵画〉など独自の制作を展開した。色彩やかたちの体験を通して私たちの認識や社会的な制度に静かな揺らぎをもたらそうとするその絵画制作について、ボイスはのちにパレルモを自身にもっとも近い表現者だったと認めている。

 


ヨーゼフ・ボイス《ユーラシアの杖》1968/69年 クンストパラスト美術館、
デュッセルドルフ © Kunstpalast – Manos Meisen ‒ ARTOTHEK


ブリンキー・パレルモ《無題》1977年 個人蔵

 

本展は、「フェルトと布」「循環と再生」といったキーワードで両者を併置し、両者の交わりや重なりにその実践の潜勢力を探る日本の美術館による独自企画。日本における約10年ぶりとなるボイスの展覧会として、本展ではドイツと日本の複数の美術館の協力のもと、日本国内でこれまで十分に紹介されてこなかった50、60年代の初期のドローイング、国立国際美術館が新収蔵することになった《小さな発電所》(1984)など代表作を含めた約80点を集め、いまなお影響力の強いその思想ではなく、あらためて「作品」や造形行為に着目する。なかでも、60年代のボイスの最重要作品のひとつ《ユーラシアの杖》(1968/69)は、東西の冷戦下のヨーロッパにあって、ユーラシア大陸を再接続しようと試みるボイスの終生にわたるユーラシア概念を示す同名のパフォーマンス(ヘニング・クリスティアンセンとの共演)に用いられた4メートルを超える4本の柱と金属の長い杖で構成された大作。この「ユーラシアの杖」をはじめ、アクションと呼ばれるパフォーマンスはボイスの芸術実践の核となるもので、実のところ多くのボイス作品がこのアクションにて用いられた素材や道具に由来する。本展では、上述した作品群とともに、1984年の来日時のナム・ジュン・パイクとの共演「コヨーテIII」を含めた7本のアクションの映像を上映する。

一方、日本国内の公立美術館では初めてまとまった形での紹介となるパレルモについては、60年代半ばの初期作品から代表作として知られる70年代の金属絵画まで、15年に満たない短い活動期間に手がけられた貴重な作品群を紹介する。さらに、パレルモが5年ほどのあいだに画廊や美術館などに約30点ほど手がけた壁画の記録として残していた構想スケッチと記録写真からなるドキュメンテーションをボン市立美術館の協力のもと全点展示。没後、とりわけ2000年以降、欧米を中心に展覧会が続くパレルモの活動を概観する機会となる。

展覧会にあわせて、2021年3月に展覧会カタログを刊行。展覧会企画者による複数のエッセイ、ゲーテのゲシュタルトの観点からボイスの60、70年代の実践を読み解いた『Inszenierte Metamorphosen: Beuys’ Aktionen vor dem Hintergrund von Goethes Gestalttheorie』(2007)の著書で知られるスヴェン・リントホルム、パレルモ研究の第一人者で前ボン市立美術館副館長のクリストフ・シュライアーによる各論、出品作品のカラー図版に加え、ボイスとパレルモのさまざまなドキュメント写真などが収録される。

 


右:ヨーゼフ・ボイス《直接民主制の為のバラ》1973年
左:ブリンキー・パレルモ《無題》1974年 gigei10蔵

 

 


 

巡回情報
2021年7月10日(土)- 9月5日(日)
埼玉県立近代美術館
https://pref.spec.ed.jp/momas/

2021年10月12日(火)- 2022年1月16日(日)
国立国際美術館
https://www.nmao.go.jp/

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