第13回恵比寿映像祭「映像の気持ち」


 

第13回恵比寿映像祭「映像の気持ち」
2020年2月5日(金)- 2月21日(日)※月曜休館
https://www.yebizo.com/
会場:東京都写真美術館、日仏会館、地域連携各所ほか
開催時間:10:00-20:00(最終日は18:00まで)※事前予約制(於:東京都写真美術館 展示エリア)
アーティスティック・ディレクター:岡村恵子(東京都写真美術館学芸員)

 

毎年異なるテーマの下で「映像とは何か」という問いに幅広い表現を通じた応答を試みてきた恵比寿映像祭が、東京都写真美術館を中心に恵比寿周辺の複数会場で2月5日に開幕する。

「映像の気持ち(E-MOTION GRAPHICS)」をテーマとする本年度は、世界的なパンデミックを契機に物理的な移動や直接的な交流の代替手段のひとつとして、これまで以上に都市生活の至るところにあふれ、私たちの感情を動かし、欲望を喚起したり、想像を刺激する「動画」について改めて考える場を提供する。COVID-19の影響による移動制限などの条件により、国外を拠点とするアーティストを招聘しての大規模なインスタレーションの困難が予想された本年度の展示部門は、映画のはじまりともいえるリュミエール兄弟のフィルムやエミール・コールによる黎明期のアニメーションなど、東京都写真美術館の映像コレクションを積極的に活用し、動画表現の歴史に残る古典的な作品から、AIによるディープラーニングの技術、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)をはじめとする新しいデジタルテクノロジーを積極的に取り入れた作品、2000年代よりYouTubeやオンライン上での展覧会などを主要な表現の場としてきたペトラ・コートライトの作品まで、映像表現における技術の変遷やメディアの多様性を体験できる構成となる。3DCGによる制作の可能性を長く追究してきた渡辺豪は、4K画質で初期代表作《Aevum》を東京都写真美術館、数年前から取り組むインスタレーション作品《積み上げられた本》を日仏会館ギャラリーの空間に合わせて発表する。

 


エミール・コール《ファンタスマゴリー》1908年 東京都写真美術館蔵


ペトラ・コートライト《sssss//////^^^^^^^》2011年 作家蔵[参考図版]

 

上映部門は、世界各地の映画祭でその採用がみられるオンライン開催ではなく、席数を半減させるなどの対策を講じた上で、東京都写真美術館1階ホールで多彩なプログラムを上映する。シンガポールのアジア・フィルム・アーカイヴを招聘したプログラムでは、同機関が制作を委嘱したアジアを拠点とする映像作家10人によるエッセイ映画のシリーズを「モチーフ」と「モーメンツ」のふたつのテーマで紹介。COVID-19の感染拡大の影響を受けて、制作活動が縮小し、隔離や孤独を体験する中で制作された作品群が、歴史やアーカイヴを参照し、映画、社会、自己に関わる深い考察と新たな視点を提供する。また、昨年3月の最初の緊急事態宣言により、大小さまざまな芸術・文化に関わるイベントが延期や中止に追いやられるなかで、映像表現の発表の場と提供の場を存続させる形で、Vimeoをプラットフォームとしたオンライン映像祭「Films From Nowhere」を開催した揺動PROJECTSによるプログラムも上映。ともに映像作家である佐々木友輔と荒木悠がプログラマーを務める同プロジェクトの第2弾は、「Retouch Me Not」のタイトルの下、他者の身体、とりわけ「顔」の倫理についての考察を続ける日本を拠点とする8人の映像作家の作品を紹介する。

また、アジア最大規模のショートムーヴィー映像祭のDigiCon6 Asiaからの特別プログラムに加え、今年は世界初の空港内映画祭として2014年から開催されている新千歳空港国際アニメーション映画祭の歴代受賞作品を含む傑作選を上映。ロサンゼルスのCVM視覚音楽センターによるプログラムでもオスカー・フィッシンガーの1920年代の実験アニメーションが上映されるなど、例年に比べ、アニメーションのプログラムが充実する今年の恵比寿映像祭だが、その一方で、昨年、36年の歴史の中で「世界四大アニメーションフェスティバル」という国際的地位を築いてきた広島国際アニメーションフェスティバルが、その歴史を支えてきた国際アニメーションフィルム協会(ASIFA)、ASIFA日本支部(ASIFA-JAPAN)への事前相談のないままに終了し、このプログラムに名前を連ねることができないのは遺憾でもある。近年の恵比寿映像祭は、展示/上映という発表形式の違いだけでなく、美術展を主な発表の場とする映像作品から映画、アニメーションなど多様な映像表現が一堂に会する場になり、各領域の観客が隣接する表現形式に興味を抱く入り口としての機能を果たしている。こうした機能や恵比寿映像祭の上映部門の充実の前提に、ひとつのジャンルやテーマを長く、深く扱う世界各地の映画祭の存在があることをいま一度思い出しておくべきかもしれない。

 


アーノン・ノンヤオ《A Weirdo Never Fever OverRy》2020年


釘宮由衣《Before It Will Burn Out》2009年


ふるかわはら ももか《かたのあと》2020年

 

なお、会期中のシンポジウムやラウンジトークはすべてオンラインでの開催。NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]との共同企画では、映像祭や展覧会など一過性の出来事を文化としていかに遺し、継承していくのか、映像記録とアーカイヴの方法について、異なる組織のキュレーターが参加し、具体的事例を共有しながら考える。また、日仏会館との共催企画では、「映画と人――危機のなかの映画」と題し、COVID-19の影響で大きな困難に直面するなかで、幅広い映画人によって結成されたSAVE the CINEMAなど、さまざまな取り組みを紹介しながら、未来への可能性を議論する。そのほか、地域連携プログラムでは、特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]が、さまざまな差別やヘイトクライムを経験してきた黒人LGBTQIA+の人々の力強い肖像写真が国際的に評価されているザネレ・ムホリに「アクティヴィズムとしての写真表現」について聞くオンライントークイベントを行なうなど、それぞれのスペースが独自の企画を準備している。

Copyrighted Image