光―呼吸 時をすくう5人 @ 原美術館


リー・キット《Flowers》2018年、プロジェクターの光、段ボールにアクリル、エマルジョン塗料、インクジェットインク、鉛筆 ©Lee Kit Photo: Shigeru Muto

 

光―呼吸 時をすくう5人
2020年9月19日(土)- 2021年1月11日(月・祝)
原美術館
http://www.haramuseum.or.jp/
開館時間:11:00-16:00(土日祝は17:00まで)
休館日:月(9/21、11/23、1/11は開館)、9/23、11/24、年末年始(12/28-1/4)

 

原美術館では、先行きが不透明な中でも静かに自身の立ち位置から社会を省察し、見る人の心に深く語りかける5人の作家を紹介する『光―呼吸 時をすくう5人』を開催する。なお、本展は1979年に開館した東京・品川にある同館の最後の展覧会となる。

2018年、原美術館を運営する公益財団法人アルカンシエール美術財団は、1938年の竣工から80年以上を経た建物の老朽化に際し、2020年12月末をもって同館の閉館を発表した。以来、19年前の展示をそのままに再現したソフィ・カルの個展や、同館の歴史と関わりの深いチェ・ジェウン[崔在銀]による企画展や、加藤泉、森村泰昌の個展などが開かれてきた。そして、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止の影響もあり、当初の日程が変更されるなか、2021年1月11日の本展会期終了をもって群馬に拠点を移す。慌ただしさの中で視界から外れてしまうものに眼差しを注ぎ、心に留め置くことはできないかという想いから企画された本展は、同館にまつわる記憶だけでなく、手に余る世界の情勢に翻弄され、日々のささやかな出来事や感情を記憶する間もなく過ぎ去ってしまいそうな 2020年の記憶を心に留めるための展覧会となる。

 


今井智己《Semicircle Law #42 2018.9.11 / 33km》2020年、26.9×37.4cm、C-print ©Tomoki Imai


城戸保《光と蜜柑》2019年、C-print ©Tamotsu Kido

 

出品作家は、今井智己、城戸保、佐藤時啓、佐藤雅晴、リー・キット[李傑]の5人。今井智己(1974年広島県生まれ)は、都市や森、室内など日常的な風景を対象とした静謐さを湛えた写真作品を発表している。本展では、「真昼」(2001)や「光と重力」(2009)といった初期作品のほか、東日本大震災以降に取り組んでいる福島第一原子力発電所から30km圏内の山頂から原発建屋の方角にカメラを向けた「Semicircle Law」(2013-)に、原美術館から同方角を捉えた新作を展示する。城戸保(1974年三重県生まれ)は、「光」をあるひとつの状態を意識化した視点で定着できる表現としての写真に関心を持ち、色や光による構図の追求や技術的実験を試みる。本展に際し、城戸は原美術館での撮影も行ない、日常生活の延長線上に現れる豊かな世界を作品化した新作を発表する。佐藤時啓(1957年山形県生まれ)は、80年代より光、時間、空間、身体、生命をテーマに、ピンホール・カメラやカメラ・オブスクラ、長時間露光などを駆使した写真表現に取り組んでいる。原美術館では複数の展覧会に参加するだけでなく、ワークショップなども手掛けてきた。本展では、長時間露光を駆使し、光と自身の移動の軌跡を描き出す代表作「光―呼吸」を、品川の原美術館と群馬・渋川のハラ ミュージアム アークをモチーフに試みた新作を発表する。

上述した本展のための新作を発表する3人の写真家に加え、昨年亡くなった佐藤雅晴(1973年大分県生まれ/2019年没)が、5年前の「ハラドキュメンツ10」で、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて変わりゆく東京を描いた新作として発表した《東京尾行》(2015-2016、原美術館蔵)を展示。実写映像を忠実にトレースしたアニメーションで知られる佐藤の作品は、実写とアニメの微かな差異が虚実の曖昧な新たな視覚体験を見る者にもたらすとともに、そこに描かれた風景が観客の頭の中で想像もしなかった2020年の風景と重ねられる。そして、最後の出品作家は、ヴェネツィア・ビエンナーレ香港代表の経験を持つ台湾在住のリー・キット[李傑](1978年香港生まれ)。制作する土地や展示空間の声を聞きながら日用品と絵画・映像を組み合わせる詩的な作品は、社会や政治への問題意識を含み持つ。2018年の個展『僕らはもっと繊細だった。』の際に、リーは光の状態や音の環境など、原美術館の空間の性質を掴むため、数日間にわたってその場を歩きながら、展覧会を構成した。本展には、展示室に差し込む自然光と人工光が相まった静謐なインスタレーション《Flowers》(2018、原美術館蔵)が出品される。

 

関連イベント
鼎談:今井智己 x 城戸保 x 佐藤時啓
2020年9月20日(日)
※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のため、観覧者の一般募集はなし。本イベントの様子を収録し、後日YouTubeにて配信を予定。

 


佐藤時啓《光-呼吸》2020年、ピグメントプリント ©Tokihiro Sato


佐藤雅晴《東京尾行》2015-2016年、12チャンネル ビデオ ©Masaharu Sato

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