道草展:未知とともに歩む @ 水戸芸術館現代美術ギャラリー


ロー・ヨクムイ《殖物》2019年

 

道草展:未知とともに歩む
2020年8月29日(土)- 11月8日(日)
水戸芸術館現代美術ギャラリー
https://www.arttowermito.or.jp/
開廊時間:10:00-18:00 入場は閉館30分前まで
休廊日:月(ただし9/21は開館)
企画:後藤桜子(水戸芸術館現代美術センター学芸員)

 

水戸芸術館現代美術ギャラリーでは、人間の営みが環境に与える影響に対する社会的意識の高まりを背景に、植物への関心やフィールドワークから生まれた現代美術の作品を通して、人間がその環境とともに歩んできた道のりを考察する展覧会『道草展:未知とともに歩む』を開催する。

本展タイトルの「道草」は、目的に向かう途中でほかの物事にかかわって時間を費やす行為、また、道端の植物というふたつの意味を持つ。加えて、本展においては、人間の営みによる環境への影響が看過できない岐路にあるなか、進歩の歩みを少し緩め、私たちをとりまく環境に耳をすまし、現在地に至った過程に改めて目を向けることが必要なのではないかという思いがこの言葉に託される。上村洋一、ロー・ヨクムイ、ミックスライス、ウリエル・オルロー、露口啓二、ロイス・ワインバーガーという6組の「人間とその環境とのつながり」を掘り下げる実践は、自然との境界において立ち現れる、支配構造や歴史の忘却、社会的不公正など「第二の自然」としての人間社会における矛盾やねじれに対する批判的な視点をも映し出す。

 


ロイス・ワインバーガー《ワイルド・エンクロージャー》のためのドローイング、2020年 Courtesy of Studio Lois Weinberger and Krinzinger Gallery, Vienna


上村洋一《息吹のなかで》のためのドローイング、2020年

 

ロイス・ワインバーガー(1947年オーストリア、チロル州シュタムス生まれ/2020年ウィーンにて永眠)は、荒地に生殖する植物に目を向けた詩的かつ政治的なアクションを通じて、また、作品の創作過程でフィールドワークを重視した先駆的存在として、芸術と自然の議論に大きな影響を与えてきた。「植物の扱い方は社会そのもののあり方を物語る」と語ったロイス・ワインバーガーは、2020年4月に惜しまれつつも他界。本展では、水戸芸術館広場のために構想された遺作となる屋外インスタレーション《ワイルド・エンクロージャー》(2020)を、アーティストの長年の共同制作者であるフランツェスカ・ワインバーガーの協力の下に実現する。さらに、彼が1988年から99年にかけて収集した624点の雑草のスライドからなる《ガーデンアーカイヴ》(1988-1999 ※本展ではデジタル化した複製版を展示)など、フィールドでの実践を通して植物に向けられたそのまなざしを辿る。ワインバーガーと同じくフィールドワークをその創作過程で重視し、「瞑想的な狩猟」としてフィールドレコーディングを行なう上村洋一(1982年千葉県生まれ)は、北海道大学CoSTEPの協力を受けながら取り組んだ知床半島の流氷の調査経験を基に、環境の変化により現在では聴くことができなくなってしまった「流氷鳴り」をモチーフにした新作インスタレーション《息吹のなかで》(2020)を発表する。自らの経験に基づいた目に見えないものとの対峙のための空間を、「自然とも人工とも言えない、掴みどころのない曖昧なもの」に浸る、没入感のあるサウンドスケープとして構成する。

 


ウリエル・オルロー《ムティ(薬)》2016-18年

 

日本初展示となるロー・ヨクムイ(1982年香港生まれ)は、自身の故郷であり、さまざまな人種や文化が交差する場所・香港の風景や地理に目を向け、その歴史と急速な社会変化を映し出す詩情豊かな作品を制作している。本展出品作品の《殖物》(2019)は、英国統治時代の香港植物園で撮影されたファウンドフッテージと中国古典演劇のひとつである昆劇の役者が男性から女性へと姿を変える過程が伏線となり、情感を湛えた自然描写で知られる戯曲『牡丹亭』を参照した3部構成の映像作品。ミハイル・カリキスとの共同作品であいちトリエンナーレ2016に参加した経験を持つウリエル・オルロー(1973年チューリッヒ生まれ)も単独では日本初展示となる。本展では、南アフリカ共和国と植民地宗主国との間にあった占領の歴史や今日に至る貿易交流の関係を、植物の視点を通して読み解く「植物の劇場」プロジェクトから、ロベン島刑務所の菜園と黄金色の極楽鳥花の栽培というネルソン・マンデラに関する象徴的なエピソードを基に、南アフリカの歴史に対する詩的アプローチとして制作された《グレイ、グリーン、ゴールド》(2015-17)をはじめとする5作品や、コンゴ共和国ルブンバシで制作した近作《アルテミシアから学ぶ》(2019)を発表する。そのほか、北海道を拠点に、文献や資料をたよりにひとつの場所を繰り返し訪れ、環境のなかに身を置くことで、そこに起こり続ける変化を写真により捉えてきた露口啓二(1950年徳島県生まれ)は、代表的な連作「自然史」(2011~)と「地名」(1999~2017)を再構成し、場所に起こり続ける「ずれ」や「ねじれ」、そして「切断」に焦点をあてたインスタレーションを発表。ソウルを拠点とするミックスライス(2002年結成)は、これまでに一貫して扱ってきた移住、労働、共同体などといったテーマを、土地開発で移植された樹木の軌跡をたどり、その物言わぬ存在にまつわる複数のナラティブを多彩な形式を組み合わせて物語る《つたのクロニクル》(2016)を発表する。

また、本展は水戸市内を拠点とする茨城大学 地球・地域環境共創機構(GLEC)と連携し、環境に関する専門的な研究と市民の身のまわりの関心をつなぐ試みとして「道草資料室」を開設し、気候変動や環境の変化に関する資料展示、一般の人々から地球環境に関する情報を募るオンライン企画などを予定。そのほか、関連プログラムとして、写真家の北野謙、香りと植物の研究家・アロマセラピストの和田文緒をゲストに迎え、「秋の道草らぼ」を開催する。

 


露口啓二「自然史」より《東北太平洋岸・南相馬市・井田川浦》2015年


ミックスライス《つたのクロニクル》2016年

 

同時開催の「クリテリオム」では、京都を拠点に活動する肥後亮祐(1995年北海道生まれ)の作品を現代美術ギャラリー第9室で紹介する。京都市立芸術大学大学院の博士前期課程に在籍中の肥後は、『第41回公募キヤノン写真新世紀』(東京都写真美術館、2018)のほか、関西を中心に作品を発表しており、2020年7月にはKUNST ARZTで個展『バードカービング』を開催している。本展では、「Google Map上に誤記載された幻島」を題材に、社会や個人が無自覚にまたは意図的につくりだす「虚構」とその伝播について考察し、新たなかたちでの継承を試みる作品を発表する。

 

関連プログラム
多世代向けプログラム「秋の道草らぼ」
講師:北野謙(写真家)、和田文緒(香りと植物の研究家・アロマセラピスト)
北野謙ワークショップ
2020年10月24日(土)、25日(日)
和田文緒ワークショップ
2020年10月31日(土)、11月1日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー ワークショップ室ほか
参加方法:要申込・抽選
※詳細は公式ウェブサイトを参照

 

 


 

クリテリオム97 肥後亮祐
2020年8月29日(土)- 11月8日(日)
水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室
企画:井関悠(水戸芸術館現代美術センター学芸員)

 


肥後亮祐《Sandy Island》2020年

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