ミン・ウォン『偽娘恥辱㊙部屋』@ アサクサ


ミン・ウォン《偽娘恥辱㊙部屋》2019年、映像スチル

 

ミン・ウォン『偽娘恥辱㊙部屋』
2019年11月30日(土)- 12月29日(日)
アサクサ
https://www.asakusa-o.com/
開廊時間:12:00-18:00
休廊日:月、火、水、木
オープニング・レセプション:11月29日(金)18:00-20:00

 

東京・浅草のプロジェクト・スペースでは2018年秋のジョシュア・オコンの個展以来となる展覧会として、アサクサは、世界各国の映画や大衆文化を再解釈した映像、パフォーマンス、インスタレーションで知られるベルリン在住のアーティスト、ミン・ウォンの個展『偽娘恥辱㊙部屋』を開催する。本展では、性愛を描く大胆なストーリーと演出で知られる成人映画「日活ロマンポルノ」を、現代のSNS上に展開する「秘めごと」を結びつけ、ポルノ映画の歴史から欲望の領域を奪い返したクイアソフトポルノという新たなジャンルを提示する最新作を発表する。

ミン・ウォンは、既存の映画を作家自身が俳優となり不完全に翻訳された再演を行なうことで、ジェンダー意識がいかにして構築され、再生産され、循環し、表象のポリティクスに流れ込んでいくのかを考察してきた。本作で取り上げる日活ロマンポルノは、1971年から1987年まで全国上映された大衆向けピンク映画。一方で、その後の日本の映像文化を支える多くの映画監督や役者を輩出したことでも知られている。ウォンは、このシリーズから、『赫い髪の女』(1979年、神代辰巳監督)で謎多き女を演じる宮下順子、『一条さゆり 濡れた欲情』(1972年、神代辰巳監督)で勝気なストリッパー役を演じる伊佐山ひろこ、過酷な緊縛シーンをこなすSMの女王 谷ナオミの3人の女優を再演する。再演において、ウォンは「偽娘(にせむすめ)」と呼ばれる異性装者に扮し、映像のワンシーンに参入することで、ファルスへの跪拝と悦楽のクライマックスに向かう男性中心の視線を侵犯し、逸脱することで、映画史が加担した性的ヘゲモニーをクイア化することを企図する。

ウォンが扮する「偽娘」の背景には、1980年代から日本の少年誌作品に見られるようになった中性的キャラクターに端を発し、女性的な容姿をもつ男性を意味する「男の娘(おとこのこ)」が、中国語で「偽娘(ウェイニアン)」と呼ばれ、2010年以降インターネット上に急激に広がったという現象がある。本作の撮影において、ウォンは偽娘がアジア圏のサブカルチャーに拡散した現代のデジタル動画の制作方法と同時に、ピンク映画の黎明期に低予算で行なわれた早撮りの手法を参照し、オンラインで購入した最低限の機材(クロマキー用のグリーンバック、リングライト、ライトボックス)と一台のiPhoneのみを使用している。

会期初日にはオープニング記念パフォーマンスとして、アーティストによる親密な会話がささやかれる「ピロートーク」を昼と夜の2回行なう。また、会場では、ミン・ウォンがポルノ女優を演じる2020年月めくりカレンダー「色歴偽娘恥辱㊙部屋」を本展カタログとして販売する。

 


ミン・ウォン《偽娘恥辱㊙部屋》2019年、映像スチル

 

ミン・ウォン(1971年シンガポール生まれ)は、南洋芸術学院を卒業したのち、ロンドンのスレイド・スクール・オブ・アートで修士号を取得。現在はベルリンを拠点に活動している。2009年にシンガポール館代表として第53回ヴェネツィア・ビエンナーレに参加し、個展『ライフ オブ イミテーション』で審査員特別表彰を受賞。以降、シドニー、光州、シンガポール、リバプール、リヨン、上海、ブリスベンなど、世界各地の国際展に参加。近年も引き続き、ダッカ、ダカール、釜山、台中の国際展に参加しているほか、2015年にはUCCAユーレンス現代美術センターで個展『Ming Wong: Next Year』を開催。2016年から2018年の間はベルリン芸術大学の客員教授を務めている。また、日本国内では、2011年に上述したシンガポール館での個展に新たな展示デザインや展示物を加えて再構成した『ミン・ウォン:ライフ オブ イミテーション』を原美術館で開催。以降も、『ゼロ年代のベルリン わたしたちに許された特別な場所の現在(いま)』(東京都現代美術館、2011-12)に参加し、2013年には資生堂ギャラリーでの個展『ミン・ウォン展 私のなかの私』で、日本映画や日本の伝統芸能に着想を得た《Me in Me》(2013)を発表。2017年には、国立新美術館と森美術館で同時開催し、福岡アジア美術館に巡回した『サンシャワー:東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで』に出品。そのほか、恵比寿映像祭(2010、2017)でも作品を展示、上映している。

 

関連イベント
オープニング記念パフォーマンス「ピロートーク」
2019年11月30日(土)
昼の部:13:00-14:00|夜の部:18:00-19:00

 

ART iT INTERVIEW ARCHIVE
反復がもたらすシネマへの提案」(2010年8月)
ミン・ウォン:旅する異邦人」(文 / フー・ファン、2010年8月)

 


ミン・ウォン《偽娘恥辱㊙部屋》2019年、映像スチル

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