ともに100年以上の歴史を誇るヴェネツィア・ビエンナーレ(1895年創設)、カーネギー・インターナショナル(1896年創設)をはじめ、2026年も世界各地で国際展が開かれる。アジア地域では、近年評判の良い内容が続く釜山ビエンナーレとホー・ツーニェンがアーティスティック・ディレクターを務める光州ビエンナーレを中心に、ディルイーヤ・ビエンナーレ、昌原彫刻ビエンナーレ、台中のアジアン・アート・ビエンナーレ、ジャカルタ・ビエンナーレ、バンコク・アート・ビエンナーレなどが開催予定。昨年終盤に始まった台北ビエンナーレやタイランド・ビエンナーレ、コチ゠ムジリス・ビエンナーレが現在も開催中。
そのほか、シドニー・ビエンナーレは昨年の国際芸術祭「あいち2025」の芸術監督を務めたフール・アル・カシミがキュレーションを担当。ホイットニー・ビエンナーレには、池添彰、石川真生、恩田晃の参加も予定されている。なお、国立アートリサーチセンター(NCAR)の「アーティストの国際発信支援プログラム」には、シドニー・ビエンナーレ、カーネギー・インターナショナル、そして、エディンバラ・アート・フェスティバルが採択されている。
Left: Nora Razian, Right: Sabih Ahmed. Photo courtesy of the Diriyah Biennale Foundation.
ディルイーヤ・ビエンナーレ2026
「Interludes and Transitions / “في الحِلّ والترحال”」
2026年1月30日(金)-4月23日(日)
https://biennale.org.sa/en/biennales/contemporary-art-biennale/diriyah-contemporary-art-biennale-2026
アーティスティック・ディレクター:ノラ・ラジアン(Nora Razian)、サビ・アフメド(Sabih Ahmed)
サウジアラビアの首都リヤド郊外のディルイーヤにある旧倉庫群を改装した現代美術の拠点JAX地区を舞台とするディルイーヤ・ビエンナーレは、2021年の立ち上げから、フィリップ・ティナリ(ユーレンス現代芸術センター ディレクター)、ウテ・メタ・バウアー(当時・南洋理工大学現代美術センター 創立ディレクター)と国際経験豊富なキュレーターを招聘してきた。3度目の開催となる本展では、ジャミール・アートセンター(ドバイ)やハイ・ジャミール(ジェッダ、サウジアラビア)を運営するアート・ジャミールのデュピティ・ディレクターを務めるノラ・ラジアンと、イシャラ・アート・ファウンデーション(アラブ首長国連邦)の前ディレクターのサビ・アフメドという中東を拠点に活動するふたりを共同キュレーターに抜擢。ラジアンとアフメドは、中東地域において、物語や歌、言語を運び、独自の韻律を育むなど、さまざまな関係や形態を生み出してきた、交易や移住、亡命といった移動に着目し、砂漠を行進(procession)する遊牧民の生活を連想させる「Interludes and Transitions / “في الحِلّ والترحال”(野営と移動)」を総合テーマに掲げる。既に発表されているラクス・メディア・コレクティヴ、ペトリット・ハリライ、タオ・グエン・ファン、ガラ・ポラス・キムをはじめ、アーティスト、ミュージシャン、映画監督、建築家、作家など70名以上が参加し、20点以上の委嘱作品も発表される予定。セノグラフィーは、国立新美術館の「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」でSANAAとともに会場デザインを務めたミラノとロッテルダムに拠点を構えるデザインスタジオ「フォルマファンタズマ(Formafantasma)」が担当する。
From left: Marian Abboud, Paula Abood, Merilyn Fairskye, Dennis Golding, Michiel Dolk, Carmen Glynn-Braun, Hoor Al Qasmi, Claudia Chidiac.
第25回シドニー・ビエンナーレ
「Rememory」
2026年3月14日(土)-6月14日(日)
https://www.biennaleofsydney.art/rememory-overview/
アーティスティック・ディレクター:フール・アル・カシミ(Hoor Al Qasimi)
昨年の国際芸術祭「あいち2025」の芸術監督フール・アル・カシミをアーティスティック・ディレクターに迎えた第25回シドニー・ビエンナーレは、抹消されたり抑圧されたりした歴史を再訪、再構築、再生するための手段として、アフリカ系アメリカ人作家トニ・モリスンによる造語「再記憶(rememory)」を総合テーマに掲げ、記憶がアイデンティティや帰属意識の形成にもたらす影響を再考するとともに、今日のオーストラリアを形成する先住民コミュニティやさまざまなディアスポラの物語の展開を目指す。展示会場は、前回より加わった旧火力発電所「ホワイトベイ・パワーステーション」をはじめ、ニューサウスウェールズ州立美術館、シドニー大学チャウ・チャック・ウィン美術館、キャンベルタウン・アーツセンター、ペンリス・リージョナル・ギャラリーの5カ所。シドニー中心部から離れた2会場、キャンベルタウン・アーツセンターでは、新作委嘱を受けたベルフーズ・ブーチャーニ、ホダー・アフシャール、ヴァーノン・アー・キーが、勾留された先住民の若者の声や経験を中心に、オーストラリアの収容制度の非人道性を通じて、植民地政策の持続的影響に対峙したプロジェクト〈Code Black/Riot〉を発表。ペンリス・リージョナル・ギャラリーでは、国際芸術祭「あいち2025」にも参加したオーストラリア西部の先住民インジバルンディの長老で言語学者のウェンディ・ヒュバートが、先祖代々にわたり食用、薬用、儀式用に用いてきた在来植物による庭を開設、さまざまなコミュニティが集まり、学び、語り合う場を創出する。また、会場は未発表だが、内臓や生殖器を模したソフトスカルプチャーを通して、歴史的語りにおいて不在化されてきた女性の存在を見つめ直してきたナーム/メルボルン在住の在日コリアン三世のエマ・シンも参加アーティストに名を連ねている。
El Anatsui, Three Angles (2017) 57th Carnegie International, Pittsburg, 2017, Photo: ART iT
第59回カーネギー・インターナショナル
2026年5月2日(土)-2027年1月3日(日)
https://carnegieart.org/exhibition/59th-carnegie-international/
キュラトリアル・チーム:ライアン・イノウエ(Ryan Inouye)、ダニエル・A・ジャクソン(Danielle A. Jackson)、リズ・パーク(Liz Park)
カーネギー・インターナショナルは、創立1896年という北アメリカ地域で最も長い歴史を有し、正式名称や形式、開催頻度(現在は3〜5年に一度)を変えながらも100年以上にわたり継続してきた。第59回展のキュレーションを手がけるのは、カーネギー美術館国際美術部門のライアン・イノウエと同館現代美術部門のリズ・パーク、そして、ニューヨークのアーティスツ・スペースでキュレーターを務めるダニエル・A・ジャクソンの3名。このキュラトリアル・チームは、アーティストのみならず、さまざまな協力者や参加者とともに、人々を対話へと導き、観客の内なる衝動や確信を呼び起こす豊かな空間を創出する21世紀における美術館の在り方を検討していく。第1弾の参加アーティストリストとして、草月流を立ち上げ前衛いけばな運動を主導、前衛芸術運動とも深く交流した勅使河原蒼風、キルティングを中心とした参加型プロジェクトやクィアZINE「LTTR」の創刊などで知られるジンジャー・ブルックス・タカハシ、2017年のヴェネツィアのブラジル館でグレーチングを敷き詰めた空間にブラジルの社会・政治状況を詩的に連想させる彫刻や映像作品を配した展示により特別表彰を受賞した経験を持つシンシア・マルセレ、ペルーの日常に残る植民地主義の影響に着目して制作活動に取り組むクラウディア・マルティネス・ガライなどの参加が発表されている。2026年2月にすべての参加アーティストが発表される予定。
Biennale Arte 2026 Photo by Andrea Avezzù, Courtesy of La Biennale di Venezia
第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ「In Minor Keys」
2026年5月9日(土)-11月22日(日)
https://www.labiennale.org/
アーティスティックディレクター:コヨ・クオ(Koyo Kouoh, 1967–2025)
過去2回の開催はともに70万枚以上の鑑賞チケットを売り上げ、もはや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行以前と比べても大幅に入場者数が増加したヴェネツィア・ビエンナーレ。シュルレアリスム運動をジェンダーの視点から再検討したチェチリア・アレマーニ、根強く浸透している欧米中心のモダニズムの規定や記述を問い直したアドリアーノ・ペドロサに続き、アフリカおよびアフリカン・ディアスポラの現代美術を専門に、アートにおける脱植民地化の問題に長く取り組んできたコヨ・クオがどのような理論的枠組み、展覧会制作を試みるのかに注目が集まるなか、昨年5月の記者会見の直前にその訃報が美術界を駆け巡った。ビエンナーレ事務局は、遺族の全面的な協力を得て、「In Minor Keys(短調で)」のテーマとともにクオが構想した展覧会を、彼女とともに準備に取り組んでいたメンバーが引き継ぎ、実現することを決定した。企画展の参加アーティストは2月末に開かれる記者会見で発表される予定。また、アーティストの荒川ナッシュ医のみならず、キュレーターの高橋瑞木と堀川理沙も含めた3名全員が日本国外在住者となる日本館をはじめ、国別参加方式のナショナル・パビリオンの情報も続々と発表されるなど、5月の開幕に向けてその歩を進めている。
Manifesta 16 Ruhr Artistic Team 2025 © Manifesta 16 Ruhr Charlotte Ernst
マニフェスタ16 ルール
2026年6月21日(土)-10月4日(日)
https://manifesta16.org/
ファースト・クリエイティブ・メディエーター:ジョゼップ・ボイガス(Josep Bohigas)
セカンド・クリエイティブ・メディエーター:ルネ・ブロック(René Block)、レオニー・ヘルヴェグ(Leonie Herweg)、へンリー・メイリック・ヒューズ(Henry Meyric Hughes)、マイケル・カーツ(Michael Kurtz)、アンダ・ロッテンベルク(Anda Rottenberg)、クシシュトフ・コシチュチュク(Krzysztof Kościuczuk)、ギュルソイ・ドータシュ(Gürsoy Doğtaş)
都市巡回型のプラットフォームとして、2年に一度、開催地を変えながらヨーロッパの文化的地勢図を観察してきたマニフェスタ。2026年は開催地域をルール地方4都市(デュイスブルク、エッセン、ゲルゼンキルヒェン、ボーフム)に選定し、同地域の重要な戦後建築である教会を舞台に、新たなコミュニティや交流の再生について掘り下げていく。ヨーロッパ有数の石炭と鉄鋼の生産拠点として栄えたルール地方は、第二次世界大戦中に戦略爆撃の標的となり、広範囲にわたる破壊を経験したが、戦後、西ヨーロッパの重工業の中心として急速に復興を遂げた。その戦後復興において、地域社会の人々により建設され、市民参加や民主主義の象徴となったのが教会だった。しかし現在、そうした教会の多くが老朽化による閉鎖、取り壊し、あるいは売却の危機に瀕している。ファースト・クリエイティブ・メディエーターに就任したカタルーニャ出身の建築家/都市設計家ジョゼップ・ボイガスは、2024年より事前リサーチに取り掛かり、マニフェスタの会場にそうした状況に直面している12の教会を選び、幅広い世代からなる学際的なアーティスティック・チームとともに、芸術、連帯、そして新たなかたちの集合的想像力の場への変容を試みる。
2026年注目の国際展(2)は1月3日(土)公開予定。
