第36回サンパウロ・ビエンナーレ

Rebeca Carapiá, Apenas depois da chuva (2025) Installation commissioned by Instituto Inhotim, Brumadinho, Brasil Foto: Ícaro Moreno / Instituto Inhotim

 

2025年9月6日より、ヴェネツィア・ビエンナーレに次ぐ歴史を誇るサンパウロ・ビエンナーレの第36回展が、「Not All Travellers Walk Roads – Of Humanity as Practice」をテーマに、イブラピエラ公園内のシッシロ・マタラッツォ・パビリオンを舞台に開幕する。

カメルーン出身のボナベンチュラ・ソー・べジェン・ンディクン(SAVVY Contemporary創設ディレクター)を中心とするキュラトリアル・チームは、本ビエンナーレのテーマをアフロブラジル作家を代表する詩人、コンセイサォン・エヴァリストの詩「Da calma e do silêncio [Of calm and silence]」から着想し、ビエンナーレ自体を3つの断片/軸からなるリサーチ・プロジェクトとして構成した。

 

Frank Bowling, 
Towards Crab Island (1983)
acrylic, acrylic gel, foam and mixed media on canvas
175,3 x 289,6 cm
Photo: Charlie Littlewood © Frank Bowling. All Rights Reserved, DACS 2023. Courtesy the artist. Heitor dos Prazeres, Untitled (1958) Coleção Lêo Pedrosa Foto: Jaime Acioli Courtesy MT Projetos de Arte

 

第一の断片/軸は、空間と時間に関するもので、速度を落とし、私たちを取り巻く環境を構成する細部や他なる存在に注意を払うことを求める。上述したエヴァリストの詩に関連づけられる第一の断片/軸は、差異を歓迎し、自然環境とその機微との再接続を示唆することによって、詩の静寂と詩に耳を傾けることのみがたどり着ける水面下の世界を探求することの重要性を呼び起こす。第二の断片/軸は、大衆に対して他者の中に己を見るように呼びかけるもので、その提案は、私たちが自分自身や他人をどのように見ているのかを問い直し、社会における障壁や境界線に向き合うことを希求する。この第二の断片/軸は、ハイチの詩人、ルネ・ドゥペストルの詩「Une Conscience En Fleur Pour Autrui」に位置付けられ、経験の相互連関性を探求し、集団的なニーズにより配慮した共存を提唱する。そして、第三の断片/軸は、河口域のような淡水と海水が混ざり合うということだけでなく、アフリカ大陸から奴隷として拉致されてきた人々が「新世界」にたどり着くといったような複数の出合いの空間に焦点を当てる。この第三の断片/軸は、植民地性、その権力構造や現代社会にまで続く影響について考察するもので、その考察は1991年にブラジル北東部のレシフェで起きたマンギビート・ムーブメントとその象徴としての「Caranguejos com Cérebro(頭脳を持ったカニ)」宣言に基づいている。

3つの断片/軸を通して見えてくるブラジルの歴史は、先住民、ヨーロッパ出身の人々、奴隷として連れてこられたアフリカ出身の人々の融合により特徴付けられており、それは根強く残る非対称性の縮図として捉えられる。本ビエンナーレでは、こうした観点とともに、パトリック・シャモワゾーとエドゥアール・グリッサンの「L’intraitable beauté du monde(世界の妥協なき美しさ)」に倣い、文化や社会がどのように差異に対応し、共存や美への新たな道を創造しうるのかを探究していく。

 

Vilanismo,
Photo from Cortejo Negro (2024)
Courtesy of the artists
Photo: Rodrigo Zaim Mao Ishikawa, Untitled [Red Flower – The Women of Okinawa Series] (1975-77) Courtesy of the artist

 

メイン会場のシッシロ・マタラッツォ・パビリオンで開かれる展覧会には、今年4月に東京(The 5th Floor、草月会館、東京大学)で開かれたプレイベント「Invocation」に参加した吉増剛造のほか、石川真生や鹿児島県出身の両親の元にサンパウロで生まれ、ロサンゼルスで活動したケンジ・シオカワ(1938–2021)など、総勢100名を超えるアーティストが参加する。会期中には、フランスとブラジルの文化交流イベント「Saison France-Brésil」の一環として、シッシロ・マタラッツォ・パビリオンのオーディトリウムにて上映プログラム「Stream of Images / Imaginaries」を開催。また、関連プログラム(トリビュータリーズ・プログラム)として、ベンジャミン・セローシ、ダニエル・ブランガ・グッベイのキュレーションの下、パフォーマンス・プログラムをカサ・ド・ポヴォ(Casa do Povo)で開催する。

 

第36回サンパウロ・ビエンナーレ
「Nem todo viandante anda estradas – Da humanidade como prática [Not All Travellers Walk Roads – Of Humanity as Practice]」

2025年9月6日(土)-2026年1月11日(日)
https://36.bienal.org.br/
シッシロ・マタラッツォ・パビリオン
チーフ・キュレーター:ボナベンチュラ・ソー・べジェン・ンディクン
コンセプチュアル・チーム:アリア・セブチ、アナ・ロベルタ・ゲッツ、チアゴ・ドゥ・パウラ・ソウザ
コ・キュレーター・アット・ラージ:ケニア・エレイソン
ストラテジー&コミュニケーション・アドバイザー:ヘンリエッタ・ガルス

 

 

参加アーティスト
アダマ・デルフィーヌ・ フウンドゥ|Adama Delphine Fawundu
アジャニ・オクプ゠エグべ|Adjani Okpu-Egbe
アイスラン・パンカラル|Aislan Pankararu
アキンボデ・アキンビイ|Akinbode Akinbiyi
アラン・パドゥ|Alain Padeau
アルベルト・ピッタ|Alberto Pitta
アリーン・バイアナ|Aline Baiana
アミーナ・アゲズナイ|Amina Agueznay
アナ・ハイランデル・マルティス・ドス・アンジョス|Ana Raylander Mártis dos Anjos
アンドリュー・ロバーツ|Andrew Roberts
アントニオ・タルシス|Antonio Társis
ベジャト・サドル|Behjat Sadr
ベレニス・オルメド|Berenice Olmedo
ベルティナ・ロペス|Bertina Lopes
カミーユ・ターナー|Camille Turner
カーラ・ゲイェ|Carla Gueye
セブデト・エレック|Cevdet Erek
シャイビア・タラル|Chaïbia Talal
クリストファー・コージエル|Christopher Cozier
チチ・ウー[武雨濛]with ユェン・ユェン[袁远]|Cici Wu with Yuan Yuan
シンシア・ホーキンス|Cynthia Hawkins
エジバル・ハモザ|Edival Ramosa
エメカ・オグボウ|Emeka Ogboh
アーネスト・コール|Ernest Cole
アーネスト・マンコバ|Ernest Mancoba
ファリド・ベルカヒア|Farid Belkahia
フィレレイ・バエズ|Firelei Báez
フォレンジック・アーキテクチャー/フォレンシス|Forensic Architecture / Forensis
フォルーグ・ファッロフザード|Forugh Farrokhzad
フランク・ボウリング|Frank Bowling
フランケチエンヌ|Frankétienne
ジェ・ヴィアナ|Gê Viana
ジェルヴァーニ・ジ・パウラ|Gervane de Paula
吉増剛造|Gōzō Yoshimasu
ハオ・ジンバン|⁠Hao Jingban
ハジラ・ワヒード|Hajra Waheed
ハムディン・カヌ|Hamedine Kane
ハミッド・ゼナチ|Hamid Zénati
エイトール・ドス・プラゼレス|Heitor dos Prazeres
ヘレナ・ウアンベンベ|Helena Uambembe
エッシー|Hessie
ユゲット・カランド|Huguette Caland
イムラン・ミール|Imran Mir
イザ・ゲンツケン|Isa Genzken
ヨアル・ナンゴ with ギリェグンピ・クルー|Joar Nango with the Girjegumpi crew
ジョゼファ・チャム|Josèfa Ntjam
ジュリアナ・ドス・サントス|Juliana dos Santos
ジュリアノックス|Julianknxx
カデール・アティア|Kader Attia
カマラ・イブラヒム・イシャグ|Kamala Ibrahim Ishag
ケンジ・シオカワ|Kenzi Shiokava
コラクリット・アルナーノンチャイ|Korakrit Arunanondchai
イケムラレイコ|Leiko Ikemura
レイラ・イバ|Laila Hida
ローラ・プロヴォスト|Laure Prouvost
レイラ・アラウィ|Leila Alaoui
リオ・アセモタ|Leo Asemota
リオネル・バスケス|Leonel Vásquez
リディア・リスボーア|Lidia Lisbôa
リン・ハーシュマン・リーソン|Lynn Hershman Leeson
マダム・ゾー|Madame Zo
マディハ・ウマル|Madiha Umar
マリカ・アゲズナイ|Malika Agueznay
マナウアラ・クランデスティーナ|Manauara Clandestina
マンスール・シス・カナカシー|Mansour Ciss Kanakassy
石川真生|Mao Ishikawa
マルシア・ファルカオ|Márcia Falcão
マリア・アウシリアドラ|Maria Auxiliadora
マリア・マグダレーナ・カンポス=ポンス|María Magdalena Campos-Pons
マルレーネ・アルメイダ|Marlene Almeida
マクスウェル・アレシャンドレ|Maxwell Alexandre
メリエム・ベナーニ|Meriem Bennani
メッタ・プラクリティ|Metta Pracrutti
ミケーレ・チャッチョフェーラ|Michele Ciacciofera
ミン・スミス|Ming Smith
ミニア・ビアビアニー|Minia Biabiany
モファット・タカディワ|Moffat Takadiwa
モハメド・メレヒ|Mohamed Melehi
モイゼス・パトリシオ|Moisés Patrício
イ・グスティ・アユ・カデク・ムルニアシ|I Gusti Ayu Kadek Murniasih (Murni)
ミリアム・オマル・アワジ|Myriam Omar Awadi
ミルランデ・コンスタント|Myrlande Constant
ナジャ・タクアリー|Nádia Taquary
ナリ・ワード|Nari Ward
グエン・チン・ティ|Nguyễn Trinh Thi
ノール・アベド|Noor Abed
サンテ・スピー|Nzante Spee
オリヴィエ・マルブフ|Olivier Marboeuf
オル・オギュイベ|Olu Oguibe
オスカー・ムリーリョ|Oscar Murillo
オトボン・ンカンガ|Otobong Nkanga
ペラジー・バギディ|Pélagie Gbaguidi
ポル・タブレット|Pol Taburet
プレシャス・オコヨモン|Precious Okoyomon
ラウクラ・トゥレイ|Raukura Turei
レイヴェン・チャコン、イゴール・カヴァレラ&ライマ・レイトン|Raven Chacon, Iggor Cavalera & Laima Leyton
ヘベッカ・カラピア|Rebeca Carapiá
リシアニー・ラトゥーフ|Richianny Ratovo
ルース・イゲ|Ruth Ige
サディク・ウクペジョ|Sadikou Oukpedjo
サリザ・ホーザ|Sallisa Rosa
サラ・セジン・チャン(サラ・ヴァン・デル・ハイデ)|Sara Sejin Chang (Sara van der Heide)
セルヒオ・ソアレス|Sérgio Soarez
セルタオ・ネグロ|Sertão Negro
シャロン・ヘイズ|Sharon Hayes
シュヴィナイ・アシューナ|Shuvinai Ashoona
シムニキウェ・ブルング|Simnikiwe Buhlungu
ソン・ドン[宋冬]|Song Dong
スチトラ・マタイ|Suchitra Mattai
タンカ・フォンタ|Tanka Fonta
タニア・ピーターセン|Thania Petersen
テオ・エシェトゥ|Theo Eshetu
セオドア・ディウフ|Théodore Diouf
テレサ・アンコマー|Theresah Ankomah
チュオン・コン・トゥン|Trương Công Tùng
トゥアン・アンドリュー・グエン|Tuấn Andrew Nguyễn
ヴィラニスモ|Vilanismo
ワラワラ・リキン|Werewere Liking
ヴォルフガング・ティルマンス|Wolfgang Tillmans
ゾジモ・ブルブル|Zozimo Bulbul

トリビュータリーズ・プログラム at カサ・ド・ポヴォ
キュレーター:ベンジャミン・セローシ、ダニエル・ブランガ・グッベイ
アレクサンドル・ポリケヴィーチ|Alexandre Paulikevitch
ボクセ・アウトノモ|Boxe Autônomo
ドロテ・ムニャネーザ|Dorothée Munyaneza
マルセロ・エヴェリン|Marcelo Evelin
MEXA|MEXA

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