ドクメンタ16がアーティスティック・チームを発表

The Artistic Team for documenta 16: Romi Crawford, Mayra A. Rodríguez Castro, Xiaoyu Weng, Carla Acevedo-Yates, and Naomi Beckwith (f.l.t.r.), Kassel 2025. Photo: Nicolas Wefers © documenta und Museum Fridericianum gGmbH, Foto/Photo: Nicolas Wefers

 

2025年8月18日、ドクメンタおよびフリデリチアヌム美術館は、昨年末アーティスティックディレクターに任命したナオミ・ベックウィズとともに2027年開催予定のドクメンタ16に向けて、展覧会制作や出版活動に取り組むアーティスティック・チームのメンバーを発表した。

ドクメンタ16のアーティスティック・チームに就任したのは、トランスカルチュラルな視点の下にアメリカ大陸全体の現代美術を考察してきたシカゴ現代美術館キュレーターのカルラ・アセヴェド゠イェイツ、シカゴ美術館附属美術大学で教鞭を執りながら芸術教育を再考する実践に取り組む教育者のロミ・クロフォード、詩人のオードリー・ロードや政治哲学者のジョイ・ジェイムズなどの書籍を手がけてきた編集者のマイラ・A・ロドリゲス・カストロ、世界各地の大小様々な美術機関でアーティストやその他の文化実践者との緊密なコラボレーションに取り組んできたシャオユー・ウェンの4名。ベックウィズは「現代の芸術実践の無数の領域をともに横断し、この惑星の数多くの社会的・文化的風景とその未来を形成する果てしない問題群と対話するのだと胸が高鳴ります」とドクメンタ16に向けた意気込みを語った。(アーティスティック・チームの各メンバーのプロフィールは後述

 

documenta und Museum Fridericianum gGmbH: Fridericianum, documenta 15, Foto/Photo: Nicolas Wefers

 

昨年末のアーティスティック・ディレクターの選出および今回のアーティスティック・チームの発表までの経緯を振り返ると、前回(2022年)のドクメンタ15の反ユダヤ主義問題をめぐる一連の騒動(杉田敦 ナノソート2021 #02「ドクメンタを巡るホドロジー(前)」を参照)により、会期中の7月16日にザビーネ・ショルマン事務局長が辞任。会期終了後の10月にファーディナンド・フォン・サンタンドレが暫定的に事務局長に就任し、同年11月にドクメンタのアーティスティック・ディレクター経験者(カトリーヌ・ダヴィッド、ロジャー・ビュルゲル、キャロライン・クリストフ=バカルギエフ、アダム・シムジック)を人選委員会として招集した。2023年3月、同委員会の提案に基づき、ブラカ・L・エッティンガー、ゴン・ヤン、ランジット・ホースコテー、シモン・ンジャミ、カトリン・ロンベルク、マリア・イネス・ロドリゲスが選考委員会に着任。同年5月に暫定的に事務局長を務めていたフォン・サンタンドレを引き継ぎ、アンドレアス・ホフマンが正式に事務局長に就任した。

しかし、同年11月9日に選考委員会のひとり、ランジット・ホースコテーが「ムンバイのイスラエル総領事館におけるヒンドゥトヴァ(ヒンドゥー至上主義)とシオニズムに関するイベントに対する抗議声明」(2019年8月26日)に署名した件をBDSへの支持表明として南ドイツ新聞が報道。BDSだけでなく抗議声明全文を拒否するよう迫られたホースコテーは11月12日に辞任(ホースコテーによる辞表)。一方、11月10日にはイスラエル系フランス人のブラカ・L・エッティンガーが中東情勢が落ち着かない中で協議を中断せずに進めることは困難だと辞任を発表(エッティンガーによる辞表)。すると、11月16日には残りの選考委員4名も相次ぐ辞任やドイツの社会情勢の混乱などを理由に審議の続行を不可能と判断し、全員の辞職を発表した。

その後、文化事業のコンサルティングを手がけるMETRUMによる提言やパブリックコメントの手続きを経て、経営部門と学芸部門の役割を明確にするなど、選考委員会を新たに設置するための道筋を立てた上で、2024年7月3日にイルマズ・ズィエヴォル、セルヒオ・エデルシュタイン、ンゴネ・ファル、クリッティヤー・カーウィーウォン、片岡真実、ヤスミル・レイモンドの6名が新たな選考委員会に任命される。同年12月、ドクメンタ16のアーティスティックディレクターにナオミ・ベックウィズが就任することが発表された。また、2025年に入り1月28日には、科学諮問委員会にタニア・コーエン゠ウジエッリ(テルアヴィブ美術館ディレクター)、ニコル・ダイテルホフ(ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン教授)、ズザンネ・ゲンツハイマー(デュッセルドルフ、ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館ディレクター)、ジアニ・リマ(キュレーター)、クリストフ・メンケ(哲学者)、トーマス・スパー(作家、ズーアカンプ出版編集長)の6名が就任した。

一方、2025年2月3日、ドクメンタおよびフリデリチアヌム美術館はウェブサイトに「行動規範」を公開。新しい行動規範には「ドクメンタは自らの指針に従い、寛容と人間の尊厳の尊重を掲げる。ドクメンタは反ユダヤ主義、人種主義、その他あらゆる集団に関連する嫌悪に積極的に反対する。ドクメンタは国際ホロコースト記憶連盟(IHRA)による反ユダヤ主義の基礎的定義、国連人種差別撤廃条約の人種差別の定義を拘束力を持つものとみなす」とあり、その適用範囲は展覧会を含むドクメンタ組織全体に及ぶこととなる。IHRAによる反ユダヤ主義の定義(2016)に反論し、ホロコースト、ユダヤ研究、中東研究の専門とする数百人を超える学者が署名した「反ユダヤ主義に関するエルサレム宣言」(2020)が提唱する反ユダヤ主義の定義ではなく、シオニズムへの反対やイスラエルによるジェノサイドを反ユダヤ主義と捉えうるIHRAによる反ユダヤ主義の定義の使用は、2023年11月にドイツ連邦議会が可決した「Never Again is Now: Protecting, Preserving and Strengthening Jewish Life in Germany」(反ユダヤ主義決議)に倣うものと考えられる。

 

documenta und Museum Fridericianum gGmbH, Artistic Direction documenta 16, Naomi Beckwith, Kassel 2024, Photo: Nicolas Wefers

 

ナオミ・ベックウィズをはじめ、アーティスティック・チームのメンバーのプロフィールは以下の通り。

ナオミ・ベックウィズは、2021年より現職のニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館および同財団デュプティ・ディレクター兼チーフキュレーターを務める。現代美術における領域横断的な諸実践に見られるブラックカルチャーの影響や反響をテーマにした数々の展覧会を企画し、特にハーレム・スタジオ美術館時代にキュレーションを手がけた「30 Seconds off an Inch」(2009-2010)や「Lynette Yiadom-Boakye: Any Number of Preoccupations」(2010-2011)、シカゴ現代美術館時代に共同キュレーションを手がけた「The Freedom Principle: Experiments in Art and Music, 1965 to Now」(2015)、「Howardena Pindell: What Remains to Be Seen」(2018)、キュラトリアル・チームの一員として参加した「Grief and Grievance: Art and Mourning in America」(ニューミュージアム、ニューヨーク、2021)は、ベックウィズのキャリアにおける重要な仕事に位置付けられる。昨年、アフリカ系アメリカ美術に対する貢献を評価されて、アトランタのハイ美術館が主催するデイヴィッド・C・ドリスケル賞を受賞。2025年、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館で開催中の2025年は、現在開催中の「Rashid Johnson: A Poem for Deep Thinkers」(ソロモン・R・グッゲンハイム美術館)に続き、秋よりパレ・ド・トーキョーにて「American Season」が控えている。

カルラ・アセヴェド゠イェイツは、トランスカルチュラルな視点の下にカリブ海、ラテンアメリカ、アメリカ合衆国を中心に「Americas(アメリカ大陸全体)」の現代美術を専門に扱う。ミシガン州立大学ブロード美術館やシカゴ現代美術館でキュレーター職を歴任。主な企画に「Forecast Form: Art in the Caribbean Diaspora 1990s – Today and entre horizontes: Art and Activism Between Chicago and Puerto Rico: Art and Activism Between Chicago and Puerto Rico」(シカゴ現代美術館、2022–2023ほか)など。近年は、社会的・政治的活動を想像し直す文化生産の場としてのディアスポラをテーマに、展覧会企画や出版活動、講演に取り組んでいる。

教育者兼文筆家として活動、シカゴ美術館附属美術大学の視覚および批評研究学部の教授を務めるロミ・クロフォードは、作品制作を通じた知識生産に関心を持ち、応答的、協働的、回復的、動的、そして、しばしば実験的な形式を採り入れた美術史研究のあり方を探求してきた。教育やキュレーションの実践を通じて、協働的な作品制作の歴史的事例をリサーチ、その実践自体が協働的かつ世代を超えた取り組みとなっている。また、不均等な社会・経済的条件から生まれる芸術的な技術や戦略、そのような環境が促進する、即興的、制度横断的な事例を含む新しいジャンルや制作方法、構造に継続的な関心を寄せてきた。クロフォードは、1960、70年代の芸術実践に欠かせない教育学的活動に対する研究を通じて、「Black Arts Movement School Modality」や「New Art School Modality」を立ち上げ、芸術教育の価値観を再考する拠点を置かない無料のプラットフォームとして運営している。

文筆家兼編集者のマイラ・A・ロドリゲス・カストロは、これまでの仕事を通じて、アーカイブや詩、歌などに潜在する文を丁寧に追い、詩人や文筆家、哲学者の遺産に関心を寄せてきた。近年、編集などで携わった書籍に『Dream of Europe: Selected Seminars and Interviews: 1984-1992』(オードリー・ロード著、2020)、『In Pursuit of Revolutionary Love』(ジョイ・ジェイムズ著、2023)、『Another Sun』(フランソワーズ・ヴェルジェス著、2026刊行予定)がある。

キュレーター兼文筆家のシャオユー・ウェンは、アーティストやその他の文化実践者との緊密なコラボレーションを通した仕事に取り組み、幅広い学問分野や文化的文脈にわたる同時代の実践を重視した異文化混淆的な枠組みを開発している。これまでにソロモン・R・グッゲンハイム美術館、オンタリオ美術館(トロント)、ウラル・インダストリアル・ビエンナーレ(エカテリンブルク)、カディスト・アート・ファウンデーション(サンフランシスコ、パリ)などでキュレーター職を歴任。主要な美術機関からビエンナーレやオルタナティブな活動に至るまで、そうした活動を通じて、親密な関係、新たな関係性を生み出す国際的なネットワークを構築している。

 

ドクメンタ16
2027年6月12日(土)-9月19日(日)
https://documenta.de/en/documenta-16
アーティスティックディレクター:ナオミ・ベックウィズ

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