
2024年11月16日より、台中の国立台湾美術館を舞台に東アジア有数の国際展として注目を集めるアジアン・アート・ビエンナーレが、「How to Hold Your Breath(呼吸の止め方)」のテーマの下で開催される。
アジアン・アート・ビエンナーレは、2007年の第1回開催以来、アジアの同時代の社会現象や美的問題を概観しながら、幅広い文化の変容や発展を議論し、世界におけるアジア的視座を持ったプラットホームの創出を目指してきた。近年は学際的な背景を持つ複数のキュレーターを招聘した共同キュレーションを特徴に、アジアとは何か?あるいはアジアとはどこからどこまでを指すのか?といった問いを再検討するとともに、アジアの芸術実践や芸術的視野の多様性の提示を試みている。
9回目となる本展の共同キュレーションを担うのは、台湾出身のキュレーター兼批評家のファン・イェンシャン[方彥翔]、前回のヴェネツィア・ビエンナーレでアルメニア館のキュレーターを務めたアン・ダビディアン、マニラを拠点に活動しヨコハマトリエンナーレ2020にも参加したサウンドアーティストでもあるキュレーターのマーヴ・エスピナ、第60回ヴェネツィア・ビエンナーレのシンガポール館や釜山ビエンナーレ2022のキュレーションを手がけ来年の六本木クロッシングのゲストキュレーターにも名を連ねるキム・へジュ、そして、イスタンブールとパリを拠点に活動するキュレーターのアスル・セヴンの5名。
呼吸という生命に直結する身体機能を自分の意志で一時的に止めること、不確実性を前にしても希望を持ち続けること、こうした行為が持つ緊張感を伝える「How to Hold Your Breath」というテーマは、「期待しないで/気長に待って/そんなに焦るな」を意味するお決まりのフレーズ「Don’t hold your breath」を捩ることで、「ゆっくりとだが、変化は可能だ」という潜在的な希望を見出そうとするもの。呼吸を静め、気持ちを整える行為を、ある現実からもうひとつの現実へと移り変わるための準備、聴こえないとされているものに耳を傾け、自分の身体のリズムと地球のリズムを調整し直すためのインターバルに位置付ける。


20以上の国や地域出身の35人/組の参加アーティストが、「私たちを結びつけることができるのは、いかなる非抑圧的な共同体や政治的形態なのか」という問いを探求の核に、関係性、相互作用性、応答可能性に根ざした知識や生き方に着想した政治的、美学的な世界秩序のオルタナティブな表現を発表する。日本からは地主麻衣子や丹羽良德が参加。19の委嘱作品を含む83作品の出品が予定されている。
既に発表されている出品作品として、台湾とベルリンを拠点に活動するグオ・チンユン[郭敬耘]は、台湾の山岳地帯とベトナム中央高原からインドの東北部にかけて広がる丘陵地帯「ゾミア」の歴史的なつながりを掘り下げながら、統治の技術が創り出す風景の類似性について検討した新作プロジェクト《Watching Pacifies》を発表予定。自身の活動拠点でもあるマレーシアのポート・ディクソンで、地元コミュニティとともに石油精製所と石炭火力発電所が引き起こした生態系への影響に向き合うシャロン・チンは、人間と土地との関係をめぐる新作インスタレーション&パフォーマンス《Portal》を発表する。
ヴェネツィアやドクメンタへの出展をはじめ国際的な注目も高いウズベキスタン出身のサオダット・イズマイロボは、現在進行中の映像プロジェクト「A Seed Under a Tongue」より、神話上の土地や先祖代々の知が蓄積する土地、原型や非人間的な知性の入り口として語られてきた森の歴史的記憶や幻影的記憶に分け入った映像作品《アルスタンバプ》を発表。エジプト出身でパリを拠点に活動するトルコ人アーティストのニル・ヤルターは、あらゆるノマディズムを讃える映像インスタレーション《I AM (Circular Rituals)》(1992)を発表。本展では、台湾を拠点に活動するフィリピン出身のラッパー、Ar-Em Sicat、Angelito、TheThirdが、同作内のヤルターの詩をリリックとして制作したトラックが加えられる。


そのほか、「How Breath Moves」と題したスクリーニング・プログラムでは、「呼吸」を集団的な映画装置、生命やリズムの共有源として捉え、イメージやサウンド、記憶、集団的な物語りの循環について探究していく。第8回横浜トリエンナーレの大規模なインスタレーションも記憶に新しいユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ[你哥影視社]や、記憶の構築やアーカイブの政治性などのテーマを扱ってきたエルサレム出身のパレスチナ人アーティストのノール・アブラフェをはじめとする8人/組の、植民地主義の永続的遺産に抗う生存や創造性の戦略について取り組んだ作品が上映される。
アジアン・アート・ビエンナーレ2024
「How to Hold Your Breath」
2024年11月16日(土)-2025年2月28日(金)
https://asianartbiennial.ntmofa.gov.tw/2024/
国立台湾美術館、台中
ファン・イェンシャン[方彥翔]、アン・ダビディアン、マーヴ・エスピナ、キム・ヘジュ、アスル・セヴン

参加アーティスト
ノール・アベド|Noor Abed
アジア・フェミニスト・スタジオ・フォー・アート・アンド・リサーチ|Asian Feminist Studio for Art and Research(AFSAR)
マルワ・アルサニオス|Marwa Arsanios
アンドリウス・アルチュニアン|Andrius Arutiunian
シャロン・チン|Sharon Chin
チュウ・ハオ・ペイ|Chu Hao Pei
キリ・ダレナ|Kiri Dalena
ファン・ウェイウェン[方偉文]|Fang Wei-Wen
タオ・レイ・ゴフ|Tao Leigh Goffe
ヒット・マン・グルン|Hit Man Gurung
マシンカ・フィルンツ・ハコピアン|Mashinka Firunts Hakopian
エムレ・ヒュネル|Emre Hüner
サオダット・イズマイロボ|Saodat Ismailova
地主麻衣子|Maiko Jinushi
グオ・チンユン[郭敬耘]|Cetus Kuo Chin-Yun
イ・ウソン|Woosung Lee
ミレー・マファリウ|Milay Mavaliw
ナタリー・ムチャマド|Nathalie Muchamad
ナム・ファヨン|Hwayeon Nam
丹羽良德|Yoshinori Niwa
パク・シュウン・チュエン[白雙全]|Pak Sheung Chuen
ネフェリ・パパディムリ|Nefeli Papadimouli
ナタリア・パパエヴァ|Natalia Papaeva
Ri|Ri
ジュリア・サリセティアッティ|Julia Sarisetiati
キリル・サフチェンコフ|Kirill Savchenkov
アジザ・シャデノヴァ|Aziza Shadenova
イーワン・ソン|Yehwan Song
チュオン・クエ・チー&グエン・フォン・リン|Trương Quế Chi & Nguyễn Phương Linh
ワン・ユーソン[王煜松]|Wang Yu-Song
アピチャッポン・ウィーラセタクン|Apichatpong Weerasethakul
ジャスミン・ヴェルナー|Jasmin Werner
チチ・ウー[武雨濛]|Cici Wu
ニル・ヤルター|Nil Yalter
ギャリー・ゼクシー・ザン[張哲熙]|Gary Zhexi Zhang
スクリーニング・プログラム
バニ・アビディ|Bani Abidi
ノール・アブラフェ|Noor Abuarafeh
チンギズ・アイダロフ|Chingiz Aidarov
リチャード・フォン|Richard Fung
ロジダ・トゥールル|Rojda Tugrul
パラヴィ・ポール|Pallavi Paul
サナズ・ソフラビ|Sanaz Sohrabi
ユア・ブラザーズ・フィルムメイキング・グループ[你哥影視社]|Your Bros. Filmmaking Group(So Yo-Hen, Tien Zong-Yuan, Liao Hsiu-Hui)
過去10年のテーマとキュレーター
2021年(第8回)「Phantasmapolis」
ノブオ・タカモリ、ホゥ・ユークァン、テッサ・マリア・グアゾン、アヌシュカ・ラジェンドラン、タナウィ・チョーパラウィット
2019年(第7回)「The Strangers from beyond the Mountain and the Sea」
シュウ・ジャウェイ、ホー・ツーニェン
2017年(第6回)「Negotiating the Future」
窪田研二、アデ・ダルマワン、ワッサーン・アル・フダイリ、リン・シャオユー
2015年(第5回)「Artist Making Movement」
アイリス・シューピン・ホアン
2013年(第4回)「Everyday Life」
アイリス・シューピン・ホアン