第23回バロワーズ賞


Helena Uambembe, Courtesy Art Basel

 

2022年6月14日、バーゼルに本社を置く保険会社バロワーズ・グループが、アートバーゼルのステートメント部門で作品を発表する新進のアーティストを対象とした「バロワーズ賞」の受賞者を発表した。1999年の設立以来23度目となる本年度の受賞者に選ばれたのは、ジャーメク・コンテンポラリー・アート(ルアンダ、アンゴラ)から出品したヘレナ・ウアンベンベと、チャプター・ニューヨーク(ニューヨーク)から出品したトルマリン。

バロワーズ賞を受賞したヘレナ・ウアンベンベとトルマリンには、それぞれ賞金3万スイスフラン(約396万円)が授与されるほか、バロワーズ・グループが購入した作品がフランクフルト近代美術館(MMK)とルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]に寄贈される。同賞を主催するバロワーズは、アートバーゼルのステートメント部門の支援のほか、同賞受賞者が美術機関で開催する展覧会に対して、毎年25万スイスフラン程度の経済的支援を実施している。

 


Helena Uambembe, Jahmek Contemporary Art, Photo: ART iT

 

ヘレナ・ウアンベンベ(1994年ポンフレット、南アフリカ共和国生まれ)は、アンゴラ内戦を逃れて南アフリカ共和国に移った両親の下に育ち、父親が所属していた旧南アフリカ国防軍第32大隊、同隊解散後の退役軍人が住民の大半を占めるポムフレット、家族から継ぐアンゴラの文化遺産を主なテーマに、さまざまな象徴を結びつけたり、アーカイブ資料を織り交ぜたりしながら、歴史や場所をめぐる物語を探究している。2010年代後半より南アフリカ共和国を中心に作品を発表。現在はヨハネスブルグとプレトリアに拠点を置く。個人の制作活動のほか、パートナーのテレザ・クタラ・フィルミーノとのコレクティブ「Kutala Chopeto」としての活動も行なう。

ルアンダ(アンゴラ)のジャーメク・コンテンポラリー・アートのブースでは、空間を二分し、両親が暮らすリビングルームを模した空間に、自身が所有する花瓶やティーカップ、絵などのオブジェが配置。ウアンベンベは、オブジェやインスタレーション、絵画やパフォーマンスなど、さまざまな方法を駆使して、ポムフレットでの子供時代の記憶の再構築を試み、歴史や個人的な体験がオブジェや物体に刻まれるだけでなく、本来の文脈から引き剥がされうることを示した。

 


Tourmaline, Pollinator (video still), (2021–22) Courtesy of the artist and Chapter NY, New York


Tourmaline, Chaper NY, Photo: ART iT

 

トルマリン(1983年ボストン生まれ)は、ブラック、クィア、トランスジェンダーのコミュニティの肖像を、型にはまらず詩的かつ個人的なかたちで描き出し、それらのコミュニティが持つ経験や影響力を、さまざまな活動を通じて示している。現在はニューヨーク在住。アーティストのみならず、映像作家、ライター、アクティビストとして幅広い活動を展開している。2010年代中頃より数多くの展覧会やスクリーニングに参加、現在も第59回ヴェネツィア・ビエンナーレ企画展をはじめ、メトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館などで作品を発表している。

チャプター・ニューヨークのブースでは、ニューヨークのブルックリン美術館のエドワード朝時代の部屋や隣接する植物園にいるトルマリンの姿を捉えた「Pollinator」シリーズから、映像作品と写真作品を出品。洗練された衣装を身にまとうトルマリンは、繁茂した自然環境と情熱的にふれあい、庭園を快楽の場へと拡張していく。個人的な映像やファウンドフッテージを交えたその映像作品は、1960年代後半のニューヨークのクィアシーンにおける伝説的な存在、マーシャ・P・ジョンソンに対するトルマリンの心からの賛辞を呈した内容となっている。

本年度は、審査委員長のウィーン・ルートヴィヒ財団近代美術館[MUMOK]のカロラ・クラウスをはじめ、ルクセンブルク・ジャン大公現代美術館[MUDAM]のマリー・ノエル・ファルシー、フランクフルト近代美術館[MMK]のズザンネ・フェファー、フォン・マイス・コレクションのスザンヌ・フォン・マイス、ベルン美術館/パウル・クレー・センターのニーナ・ツィンマーの5名が審査員を務めた。

 

バロワーズ賞https://art.baloise.com/
アートバーゼル2022https://www.artbasel.com/basel

 


過去の受賞者
2022|ヘレナ・ウアンベンベ(Helena Uambembe)、トルマリン(Tourmaline)
2021|キャメロン・クレイボーン(Cameron Clayborn)、ハナ・ミレティッチ(Hana Miletić)
2020|実施せず
2019|ジュリア・チェンチ(Giulia Cenci)、シンイー・チョン(Xinyi Cheng)
2018|ハン・ソギョン(Suki Seokyeong Kang)、ローレンス・アブ・ハムダン(Lawrence Abu Hamdan)
2017|サム・ピュリッツァー(Sam Pulitzer)、マーサ・アティエンザ(Martha Atienza)
2016|サラ・スウィナー(Sara Cwyner)、マリー・レイド・ケリー(Mary Reid Kelley)
2015|ベアトリス・ギブソン(Beatrice Gibson)、マチュー・クレイベ(Mathieu Kleyebe)
2014|ジョン・スクーグ(John Skoog)
2013|ジェニィ・ティシャー(Jenni Tischer)、ケマン・ワ・レフレーラ(Kemang Wa Lehulere)
2012|サイモン・デニー(Simon Denny)、カールステン・フェーディンガー(Karsten Födinger)
2011|アレハンドロ・セサルコ(Alejandro Cesarco)、ベン・リヴァース(Ben Rivers)
2010|クレア・フーパー(Claire Hopper)、サイモン・フジワラ(Simon Fujiwara)
2009|ゲルト・ゴイリス(Geert Goiris)、ニナ・カーネル(Nina Canell)
2008|ダンカン・キャンベル(Duncan Campbell)、トリス・ヴォナ=ミッシェル(Tris Vonna Michell)
2007|ヤン・ヘギュ(Haegue Yang)、アンドレアス・エリクソン(Andreas Eriksson)
2006|ケレン・シッター(Keren Cytter)、ピーター・ピラー(Peter Piller)
2005|ジム・ドレイン(Jim Drain)、ライアン・ガンダー(Ryan Gander)
2004|アレクサンドラ・ミル(Aleksandra Mir)、ティノ・セーガル(Tino Sehgal)
2003|モニカ・ソスノフスカ(Monika Sosnowska)、サスキア・オルドウォーバース(Saskia Olde Wolbers)
2002|キャシー・ウィルクス(Cathy Wilkes)、ジョン・ピルソン(John Pilsen)
2001|ロス・シンンクレア(Ross Sinclair)、アニカ・ラーソン(Annika Larsson)
2000|ユルーン・デ・レイケ+ウィルム・デ・ローイ(Jeroen de Rijke & Willem de Rooij)、ナヴィン・ラワンチャイクン(Navin Rawanchaikul)
1999|ローラ・オーウェンス(Laura Owens)、マシュー・リッチー(Matthew Ritchie)

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