
2022年4月12日、テート・リバプールが世界有数の現代美術賞として広く知られるターナー賞の2022年度の最終候補に、ヘザー・フィリップソン、イングリッド・ポラード、ヴェロニカ・ライアン、シン・ワイ・キンを選出した旨を発表した。最終候補4名が参加する展覧会は、2022年10月20日からテート・リバプールで開催される。
ヘザー・フィリップソン(1978年ロンドン生まれ)は、さまざまな素材やメディア、ジェスチャーを駆使した、自ら「量子力学的思考実験(quantum thought experiments)」と呼ぶ諸実践を展開している。選出対象となったのは、テート・ブリテンのデュヴィーン・ギャラリーズで発表した個展『RUPTURE NO 1: blowtorching the bitten peach』やロンドンのトラファルガー広場の第4の台座のための作品《THE END》。イングリッド・ポラード(1953年ガイアナ共和国ジョージタウン生まれ)は、写真を中心とした制作活動を通じて、人間と自然との関係を問い直し、「ブリティッシュネス」や人種、セクシュアリティといった概念を問いただしてきた。今回の選考にあたり、長年の制作活動への賞賛はもちろん、ミルトン・キーンズのMKギャラリーでの個展『Carbon Slowly Turning』で見せた新たな取り組みが評価された。


ヴェロニカ・ライアン(1956年モントセラト生まれ)は、彫刻やインスタレーションを通じて、強制移住や分離、疎外などのテーマを掘り下げてきた。ブリストルのスパイク・アイランドでの個展『Along a Spectrum』やロンドンのハックニー・ウィンドラッシュによる委嘱で制作した公共彫刻に見られる精緻な官能性や触知性が高く評価された。イングリッド・ポラードとヴェロニカ・ライアンは、開催中のヴェネツィア・ビエンナーレで、その個展によりイギリス館を金獅子賞に導いたソニア・ボイスや、2017年のターナー賞受賞作家のルバイナ・ヒミッドらとともにイギリスのブラック・アーツ・ムーブメントを代表する人物として知られている。そして、シン・ワイ・キン(1991年トロント生まれ)は、二極の間に存在する自分自身の経験を生かし、欲望や同一化、意識にまつわる当事者としてのリアリティを描いたフィクションをさまざまな方法で発表している。『ブリティッシュ・アートショー9』やフリーズ・ロンドンのブラインドスポット・ギャラリーでの個展形式で発表した作品における、ライブ・パフォーマンスの持つ本能的な感覚をを映像へと巧みに落とし込む手腕などが評価されての選出となった。


ターナー賞は1984年の創設以来、時代に応じて形を変えながら40年近くにわたって、イギリスの現代美術の発展に貢献するとともに、現代美術に対する幅広い関心を生み出してきた。2022年のターナー賞は、ロンドン以外の都市で初めて開催された2007年以来、15年振りのリバプールでの開催となる。テート・ブリテン館長兼ターナー賞審査委員長のアレックス・ファーカーソンは、「(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による展覧会の延期や中止を経て、本年度の選考対象期間となる)2021年5月から数々の美術館やギャラリーが再開したイギリス現代美術界が実にすばらしい12ヶ月を経験できたことは、この度の最終候補の質の高さや多様性に表れています」とコメントを寄せた。審査員は、ファーカーソンとともに審査委員長を務めるテート・リバプール館長のヘレン・レッグのほか、イレーネ・アリスティザバル(バルティック現代美術センター キュラトリアル&パブリック・プラクティス部門長)、クリスティン・アイン(セントラル・ランカシャー大学美術学部 リサーチフェロー)、ロバート・レッキー(スパイク・アイランド ディレクター)、アンソニー・スピラ(MKギャラリー ディレクター)が務める。
ターナー賞:https://www.tate.org.uk/art/turner-prize
ターナー賞2022
2022年10月20日(木)- 2023年3月19日(日)
テート・リバプール
https://www.tate.org.uk/visit/tate-liverpool