【PR】第19回台新芸術賞


YEH Ming-Hwa – The House Behind the Wall -Wang Da Hong House Theatre (2020) Courtesy Taishin Bank Foundation for Arts and Culture, Taipei.

 

台新銀行文化芸術基金は2021年7月10日、台湾国内で過去1年間に発表された視覚芸術および舞台芸術における優れた表現を表彰する芸術賞「第19回台新芸術賞」の授賞式を開催した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のため延期されていた授賞式は伝統的ガラ形式での開催を諦めて、同賞史上初のオンライン開催を実施することとなりライブストリーミングで受賞者を発表する運びとなった。視覚芸術、舞台芸術両部門の最終候補15組の中から選ばれた年間グランプリは、台北市立美術館のコミッションにより王大閎建築劇場で『The House Behind the Wall』を上演したイェ・ミンファが受賞し、賞金150万台湾ドル(約590万円)を獲得した。また、展覧会『Taipei Robot Man 2.0: Infodemic』を開催したチャン・ティントン、チェン・シェンユ、リャオ・ミンホー(DINO)が視覚芸術賞を受賞したのをはじめ、台北芸術祭で『Dances for Wu-Kang Chen』を上演したウーカン・チェンとジェローム・ベルは舞台芸術賞を受賞し、各組には賞金100万台湾ドルが授与された。

「台新芸術賞」は、2002年に台新銀行文化芸術基金が創設し、2017年以降は台湾における視覚芸術、舞台芸術の領域横断的な精神の発展、また各領域における専門性を反映するために、年間グランプリと視覚芸術、舞台芸術の両部門への賞を設けた現行の形で行なわれている。第19回の選考対象となる2020年を振り返ると、その前半はさまざまな企画や活動がパンデミックの影響により中止を余儀なくされたが、以後比較的速やかに状況は改善しその後半には数々の展覧会や公演が開催・上演された。その結果、選考対象となる作品も相当数を超え、最終候補の前段階として推薦を受けた候補者も100組を超えることとなった。

審査員を務めたのは、美術史家のチェン・クァンイー[陳貺怡]、演出家のリ・フアンシュン[黎煥雄]、キュレーターで美術批評家のル・ペイイ[呂佩怡]、詩人のフン・フン[鴻鴻]、アーティストのカオ・ジュンホン[高俊宏]、舞台美術家・劇場建築家・劇場技術者国際組織[OISTAT]エグゼクティブ・ディレクターでダンス批評家のウェイ・ワンヨン[魏琬容]、美術批評家のワン・ポーウェイ[王柏偉]の計7名で、パンデミックの影響のため、昨年に引き続き、台湾国内の有識者のみで構成されることとなった。

年間グランプリを獲得したイェ・ミンファ[葉名樺]は、台北市立美術館のコミッションによる王大閎建築劇場を題材としたサイトスペシフィックなマルチメディア・パフォーマンス『The House Behind the Wall』を上演した。内容はコンテンポラリーダンス、伝統演劇、パフォーマンス、映像を駆使して「之上(Above)」、「遊院(Strolling)」、「過日子(Living)」と題した三部作から成り、台湾を代表する近代建築の巨匠ワン・ダーホン[王大閎]の人生の再解釈を試みた。

審査員は、「そのパフォーマンスが物理的に建築の外側から内側へと移っていくと同時に、心理的には観客の役割がパフォーマンスを見ることから参加することへと変化していく」ように、物質的空間の力学と心理的相対性の力学を作品に組み込んで具現化したその手腕を高く評価した。続けて、王大閎建築劇場の複雑に入り組んだレガシーに明晰かつ複層的な方法で取り組み、身体、空間、劇場、パフォーマンス、人生というさまざまな側面を繊細かつ平衡のとれたアプローチで取り上げ、マルチメディアを用いた相互作用が観客に独特な体験をもたらすこともさることながら、受賞者にとっては互いに異質な複数の分野にまたがる芸術的探求と実践を前進させるものであったであろうとして賞賛した。

 


CHEN Wu-Kang x Jérôme BEL – Dances for Wu-Kang Chen (2020) Courtesy Taishin Bank Foundation for Arts and Culture, Taipei.


CHANG Ting-Tong, CHENG Hsien-Yu, and DINO (LIAO Ming-Ho) – Taipei Robot Man 2.0: Infodemic (2020) Courtesy Taishin Bank Foundation for Arts and Culture, Taipei.

 

舞台芸術賞を受賞したのは、イェ・ミンファの公私にわたるパートナーでグランプリ受賞作品でも重要なパフォーマーの役割を務めたウーカン・チェン[陳武康]が、フランスのコレオグラファーのジェローム・ベルと共同制作したソロ・パフォーマンス『Dances for Wu-Kang Chen』。台北芸術祭2020で初演が行なわれたこのパフォーマンスは、ベルの「スコア」をチェンが解釈し演じた10のダンス/ノンダンスで構成されている。ダンスとはなにかを問うとともに、チェン自身の人生経験をも再考する本作に対し、審査員は「このパフォーマンスは、アーティストがその表現を形成し、キャリアを積んでいく過程で、その身体に投影された痕跡に光を当てることによって、芸術家的人生の豊かさの形成と発展を体現する」ものだと評した。

視覚芸術賞は、チャン・ティントン[張碩尹]、チェン・シェンユ[鄭先喻]、リャオ・ミンホー[廖銘和](DINO)が、従来型の自身のアートスタジオの「Cube Art Space」と実在の生鮮市場の「龍泉市場」、そしてオンラインメディアをネットでつないでパンデミック下の社会的風景を映し出そうと試みた『Taipei Robot Man 2.0: Infodemic』が受賞した。このプロジェクトの中心的課題は、チェンが設計したネット上のトロール(荒らし・釣りネタ)の発言やフェイクニュースを取り込み、ライブデータストリームに変換するプログラムを核に、そのデータによって「Cube Art Space」スタジオ内のチャンのインスタレーションのキネティックな動く器械装置や、龍泉市場に設置された「光と匂いの装置」を制御しようとするもの。審査員は、これを「ウイルス感染の温床」のメタファーとして解釈し、この展覧会は「芸術的創造性によって、炎上するネットのメッセージの持つ煽動的な力や人間の無力さといった、今のパンデミック下の世界の脆弱性を顕著に表現している」と評した。

なお、ライブストリーミングされた授賞式では、台新銀行文化芸術基金董事長のサイモン・チェン[鄭家鐘]が「パンデミック下、従来のような形式での授賞式は叶いませんでしたが、私たちはそれより重要なのはアーティストを奨励することだと信じています」と述べ、各受賞者への賞金や受賞を逃した最終候補への奨励金(10万台湾ドル)が活動の一助となることを望んだ。また、同エグゼクティブ・ディレクターのヤーリー・チェン[鄭雅麗]は「私たちみんなにとって2021年は大いなる挑戦の年になります。しかし、私たちが直面するいかなる状況にもその経験は必ず価値のあるものとなり、そのような制約や困難に出会うときアートはより大きな力を発揮するでしょう」と授賞式を締めくくった。

公式ウェブサイトでは当日の授賞式の様子を視聴することができる。

 

第19回台新芸術賞https://award.taishinart.org.tw/

台新銀行文化芸術基金http://www.taishinart.org.tw/

 

 

最終候補(視覚芸術)
チャン・シールン[張世倫]『An Open Ending: Huang Hua-Cheng』(2020/5/9-11/8、台北市立美術館)
チャン・ティントン[張碩尹]、チェン・シェンユ[鄭先喻]、リャオ・ミンホー[廖銘和](DINO)『Taipei Robot Man 2.0: Infodemic』(2020/9/19-11/1、Cube Art Space、龍泉市場)
タン・ホァンジェン[湯皇珍]『Completed-in-Forgetting Old Lady, Tang, Huang-Chen 2019 Action Plan』(2020/2/3-3/2、新浜碼頭藝術空間(Sin Pin Pier)|2/22-3/15、駁二芸術特区(PIER-2 Art Center)|6/3-6/24、北師美術館)
ワン・シャンリン[王湘靈]『Take Me Somewhere Nice-Hsiang-Lin Wang Solo Exhibition』(2020/3/7-5/31、台北市立美術館)
ホァン・リーフイ[黃立慧]『My Mom is a Good German』(2020/3/7-5/31、台北国際芸術村百里廳)
タカモリ・ノブオ[高森信男『The Secret South: from Cold War Perspective to Global South in Museum Collection』(2020/7/25-10/25、台北市立美術館)
リウ・ユー[劉玗]『If Narratives Become the Great Flood』(2020/11/27-2021/1/30、台湾洪建全基金会 覓計畫Project Seek)
シャ・リン[林亭君]、シェリル・チャン[張欣]、リアム・モルガン『Sun Moon Lake is a Concrete Box—2020 Taipei Arts Festival』(2020/11/27-2021/1/30、台北試演場(Taipei Backstage Pool))※舞台芸術部門にも重複してノミネート。

最終候補(舞台芸術)
シャ・リン[林亭君]、シェリル・チャン[張欣]、リアム・モルガン《Sun Moon Lake is a Concrete Box》『2020台北芸術祭』(2020/11/27-2021/1/30、台北試演場(Taipei Backstage Pool))※視覚芸術部門にも重複してノミネート。
聚合舞(ポリマーDMT)《Better Life?》『2020桃園地景芸術祭』(2020/8/15、桃園アートセンター)
テアトル・デ・ラ・サルディン[沙丁龐客劇團]《White snake?! The final struggle of the clowns》(2020/11/13、台湾戯曲センター)
ライ・ホンジョン[賴翃中](ホン・ダンス[翃舞])《See You》(2020/11/6、台北水源劇場)
フォルモサ・サーカス・アート[FOCA福爾摩沙馬戯団]《Moss》(2020/10/24、Cloud Gate Theater[雲門劇場])
アワー・シアター[阮劇團]x シアター・スペース[劇場空間](香港)《The State & Denki》『2020夏至藝術節』(2020/9/4、新営文化​センター)
イェ・ミンファ[葉名樺]《The House Behind the Wall –Wang Da Hong House Theatre X Ming Hwa Yeh》(2020/5/29, 6/19, 8/8、王大閎建築​劇場)
ウーカン・チェン[陳武康]、ジェローム・ベル《Dances for Wu-Kang Chen》『2020台北芸術祭』(2020/7/31、台北市中山堂)

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