日産アートアワード2020は、潘逸舟が受賞


潘逸舟《where are you now》2020年、機材協力:東京藝術大学大学院映像研究科、撮影:木奥惠三

 

2020年8月26日、横浜・みなとみらい21地区のニッサン パビリオンで開催中の日産アートアワード2020のグランプリ発表とオンライン授賞式が行なわれ、潘逸舟がグランプリを受賞、賞金300万円(ファイナリストの賞金100万円を含む)と海外レジデンスの機会を獲得した。9月5日(土)には、潘逸舟のスタジオと日産アートアワードの会場を中継でつなぎ、実際に制作しているスタジオの様子や今後の活動について、展覧会来場者やインターネット視聴者が質問や感想を直接聞くことのできる企画「グランプリに聞いてみよう!」が行なわれる。

潘逸舟(1987年上海生まれ)は、社会と個の関係の中で生じる疑問や戸惑い、また、社会を形成する秩序やそこから生じる境界などについて、自らの身体や身の回りの日用品を用いて表現してきた。家族とともに9歳のときに青森に移住した経験を持つ潘の作品の多くに「移動」を通じて見えない変化を捉えるという特徴が認められるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止の影響により人の移動が制限される中での作品制作となった。日産アートアワード2020が企画したNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト]のキュレーター、堀内奈穂子との対談でも、テレビやインターネットなどメディアからの情報だけで、社会を想像するという状況が続くという制作環境が新作に与えた影響は大きかったと語る。『日産アートアワード2020』に出品された新作は、海岸や河川沿いに並ぶ消波ブロックの一群から離れたひとつが海の中に旅立つというフィクションを構想し、映像作品と銀色のエマージェンシーシートを素材とした消波ブロックを模した約3メートルの立体作品によって表現した。グランプリを受賞した潘は、発表と受賞の機会を与えてくれた日産アートアワード関係者に感謝するとともに、制作のために家の空間のほとんどを占有してしまい、生活に不便を与えた家族に感謝の言葉を述べた。

 


日産アートアワード2020 潘逸舟 × 堀内奈穂子(日産自動車株式会社公式アカウントより)

 

オンライン授賞式では、国際審査員を務めたスハーニャ・ラフェル、ウテ・メタ・バウアー、ジャン・ド・ロワジー、ローレンス・リンダー(時差のため代読)が各ファイナリストの作品に対するコメントを述べ、審査委員長を務めた南條史生が「新型コロナウイルスのパンデミックの只中での展示、審査、受賞発表という流れになり、先が見えない時代の空気を反映したアワードになったのではないでしょうか。海外の審査員は来日できず、オンラインで鑑賞し議論を行なうというこれまでにない審査風景となりました。受賞した潘逸舟氏による《where are you now》(2020)は今日の社会に蔓延している混乱や孤立といった感情を簡潔、そして、鮮烈に形象化し、個人的な体験を普遍的で詩的な作品へと昇華させたというふうに解釈されました。極めてシンプルな表現に豊かな感性を織り込んで、見る人に幅広く奥行きのある問題を想起させるという点が高く評価されました。ファイナリストの作品には、ほかにもパンデミックによる閉塞したムードや見えない脅威に対する感覚を反映するさまざまな作品がある一方で、社会問題や環境問題などについて言及する作品もあり、そこに救いも感じられました。各作品の充実度を見ると、全員が受賞してもおかしくない内容だったと思っております。今回のこの困難な状況の中でこのアワードに参加し、展示を実現していただきました作者5人に審査員を代表しまして感謝の意を表したいと思います。また、企業にとっても極めて困難なこの時代にこのようなアワードを継続し、日本の現代美術の発展に貢献していただいている日産にも感謝の意を表したいと思います」と総評を述べた。グランプリの潘逸舟をはじめ、風間サチコ、三原聡一郎、土屋信子、和田永といったファイナリストによる新作展示は引き続き、9月22日まで開催。そのほか、日産アートアワードでは、各ファイナリストと候補者推薦委員との対談「#ファイナリスト・トーク」、展覧会会場および出品作品を撮影した「#おうちで美術鑑賞」といった映像コンテンツをYouTubeの日産自動車株式会社の公式アカウントで公開している。

日産アートアワードは、「人々の生活を豊かに」という企業理念のもとに、日産自動車が現代美術における優れた日本のアーティストの支援と、次世代へと続く日本の文化発展への貢献を目的に2013年に設立。これまでに、宮永愛子、毛利悠子、藤井光がグランプリを受賞。ファイナリストに選出された岩崎貴宏が第57回ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館(2017)で個展を実現、久門剛史が第58回ヴェネツィア・ビエンナーレ企画展(2019)にアピチャッポン・ウィーラセタクンとの共同作品を出品するなど、国内外で更なる活躍を見せている。

 


日産アートアワード2020 #おうちで美術鑑賞(日産自動車株式会社公式アカウントより)

 

日産アートアワードhttps://www.nissan-global.com/JP/CITIZENSHIP/NAA/

日産アートアワード2020
2020年8月1日(土)- 9月22日(火・祝)
会場:ニッサン パビリオン(神奈川県横浜市西区みなとみらい6-2-1)
参加アーティスト:潘逸舟、風間サチコ、三原聡一郎、土屋信子、和田永

グランプリに聞いてみよう!
登壇者:(日産アートアワード2020 グランプリ受賞者)
2020年9月5日(土)11:00-12:00

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