あいちトリエンナーレ2019参加アーティストが「表現の不自由展・その後」の展示閉鎖に対するアーティスト・ステートメントを発表

2019年8月1日、芸術監督の津田大介が掲げるテーマ「情の時代(Taming Y/Our Passion)」の下で開幕したあいちトリエンナーレ2019。前日の内覧会より、展覧会内展覧会として参加した「表現の不自由展・その後」の展示内容をめぐり、事務局に対する一部脅迫やテロ予告ともとれるような抗議の電話やメールが殺到。8月2日に河村たかし名古屋市長が展示会場を視察し、「表現の不自由展・その後」で出品されているキム・ソギョン/キム・ウンソンの「平和の少女像」(2011)の展示の中止を大村秀章愛知県知事に求めることを表明した。同2日に津田が会見を開き、「表現の不自由展・その後」の展示全体の中止を検討している旨を発表し、翌3日にあいちトリエンナーレ実行委員長の大村秀章愛知県知事が、「表現の不自由展・その後」の展示全体の中止を発表した。

8月6日、「表現の不自由展・その後」の展示全体の中止に対し、あいちトリエンナーレ2019の参加アーティストにより、共同のアーティスト・ステートメントが発表された。以下全文。

 

アーティスト・ステートメント
あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」の展示セクションの閉鎖について

私たちは以下に署名する、あいちトリエンナーレ2019に世界各地から参加するアーティストたちです。ここに日本各地の美術館から撤去されるなどした作品を集めた『表現の不自由展・その後』の展示セクションの閉鎖についての考えを述べたいと思います。

津田大介芸術監督はあいちトリエンナーレ2019のコンセプトとして「情の時代」をテーマとして選びました。そこにはこのように書かれています。

「現在、世界は共通の悩みを抱えている。テロの頻発、国内労働者の雇用削減、治安や生活苦への不安。欧米では難民や移民への忌避感がかつてないほどに高まり、2016年にはイギリスがEUからの離脱を決定。アメリカでは自国第一政策を前面に掲げるトランプ大統領が選出され、ここ日本でも近年は排外主義を隠さない言説の勢いが増している。源泉にあるのは不安だ。先行きがわからないという不安。安全が脅かされ、危険に晒されるのではないのかという不安。」(津田大介『情の時代』コンセプト)

私たちの多くは、現在、日本で噴出する感情のうねりを前に、不安を抱いています。私たちが参加する展覧会への政治介入が、そして脅迫さえもが——それがたとえひとつの作品に対してであったとしても、ひとつのコーナーに対してであったとしても——行われることに深い憂慮を感じています。7月18日に起きた京都アニメーション放火事件を想起させるようなガソリンを使ったテロまがいの予告や、脅迫と受け取れる多くの電話やメールが関係者に寄せられていた事実を私たちは知っています。開催期間中、私たちの作品を鑑賞する人びとに危害が及ぶ可能性を、私たちは憂い、そのテロ予告と脅迫に強く抗議します。

私たちの作品を見守る関係者、そして観客の心身の安全が確保されることは絶対の条件になります。その上で『表現の不自由展・その後』の展示は継続されるべきであったと考えます。人びとに開かれた、公共の場であるはずの展覧会の展示が閉鎖されてしまうことは、それらの作品を見る機会を人びとから奪い、活発な議論を閉ざすことであり、作品を前に抱く怒りや悲しみの感情を含めて多様な受け取られ方が失われてしまうことです。一部の政治家による、展示や上映、公演への暴力的な介入、そして緊急対応としての閉鎖へと追い込んでいくような脅迫と恫喝に、私たちは強く反対し抗議します。

私たちは抑圧と分断ではなく、連帯のためにさまざまな手法を駆使し、地理的・政治的な信条の隔たりを越えて、自由に思考するための可能性に賭け、芸術実践を行ってきました。私たちアーティストは、不透明な状況の中で工夫し、立体制作によって、テキストによって、絵画制作によって、パフォーマンスによって、演奏によって、映像によって、メディア・テクノロジーによって、協働によって、サイコマジックによって、迂回路を探すことによって、たとえ暫定的であったとしても、それらさまざまな方法論によって、人間の抱く愛情や悲しみ、怒りや思いやり、時に殺意すらも想像力に転回させうる場所を芸術祭の中に作ろうとしてきました。

私たちが求めるのは暴力とは真逆の、時間のかかる読解と地道な理解への道筋です。個々の意見や立場の違いを尊重し、すべての人びとに開かれた議論と、その実現のための芸術祭です。私たちは、ここに、政治的圧力や脅迫から自由である芸術祭の回復と継続、安全が担保された上での自由闊達な議論の場が開かれることを求めます。私たちは連帯し、共に考え、新たな答えを導き出すことを諦めません。

あいちトリエンナーレ2019 参加アーティスト 72名
artiststatementaichi2019@gmail.com

賛同者一覧(2019年8月6日現在)
青木美紅、伊藤ガビン、石場文子、市原佐都子、今津景、今村洋平、イム・ミヌク、岩崎貴宏、アンナ・ヴィット、碓井ゆい、エキソニモ、越後正志、遠藤幹子、大浦信行、大橋藍、大山奈津子(しんかぞく)、岡本光博、ピア・カミル、レジーナ・ホセ・ガリンド、ドラ・ガルシア、ミリアム・カーン、キュンチョメ、葛宇路(グゥ・ユルー)、クワクボリョウタ、小泉明郎、こまんべ(しんかぞく)、小森はるか、澤田華、白川昌生、嶋田美子、菅俊一、スタジオ・ドリフト、高嶺格、高山明、田中功起、津田道子、Chim↑Pom、TM(しんかぞく)、dividual inc.、ハビエル・テジェス、戸田ひかる、富田克也、トモトシ、永田康祐、永幡幸司、パク・チャンキョン、半坂優衣(しんかぞく)、広瀬奈々子、ジェームズ・ブライドル、キャンディス・ブレイツ、タニア・ブルゲラ、藤井光、藤原葵、ヘザー・デューイ=ハグボーグ、BeBe(しんかぞく)、星ヲ輪ユメカ(しんかぞく)、桝本 佳子、アマンダ・マルティネス、クラウディア・マルティネス・ガライ、繭見(しんかぞく)、三浦基、ミヤタナナ(しんかぞく)、ジェイソン・メイリング、モニカ・メイヤー、袁廣鳴(ユェン・グァンミン)、弓指寛治、吉開菜央、よしだ智恵(しんかぞく)、梁志和(リョン・チーウォー)+黄志恒(サラ・ウォン)、鷲尾友公、和田 唯奈(しんかぞく)、ワンフレーズ・ポリティクス(しんかぞく)
(2019年8月7日追加)
安世鴻、イェツェ・バーテラーン、キム・ソギョン、キム・ウンソン、カタリーナ・ズィディエーラー、パンクロック・スゥラップ、藤江民、ホー・ツーニェン、マネキンフラッシュモブ、ユザーン、レニエール・レイバ・ノボ
(2019年8月8日追加)
ネイチャー・シアター・オブ・オクラホマ、ミロ・ラウ
(2019年8月10日追加 計87名)
ウーゴ・ロンディノーネ、趙延修
(2019年8月10日以降 計88名)
アンナ・フラチョヴァー

 

 


 

あいちトリエンナーレ|「表現の不自由展・その後」について津田大介芸術監督によるステートメント(2019年8月2日)

表現の不自由展・その後

あいちトリエンナーレ2019「情の時代」
2019年8月1日(木)-10月14日(月・祝)
https://aichitriennale.jp/
愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、名古屋市内のまちなか(四間道・円頓寺)、豊田市(豊田市美術館及び豊田市駅周辺)
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