第34回京都賞思想・芸術部門にジョーン・ジョナス


Joan Jonas Mirage (1976/2018) performance, Tate Modern, London, England, 2018. Photo by Lewis Ronald All images:写真提供:稲盛財団

 

2018年6月15日、公益財団法人稲盛財団は、科学や文明の発展、また人類の精神的深化・高揚への著しい貢献を讃える国際賞「京都賞」の受賞者を発表した。思想・芸術部門の受賞者には、パフォーマンスとニューメディアを融合させた芸術表現に先駆的に取り組み、50年近くにわたり、さまざまな表現手段を駆使して独自の視覚言語を創造してきたアーティスト、ジョーン・ジョナスが選出された。

ジョーン・ジョナス(1936年ニューヨーク生まれ)は、1960年代後半から70年代前半にかけて、ニューヨークのダンスやパフォーマンスの実験的なムーブメントに関わり、1970年の来日時に購入したポータパックを採り入れ、彫刻のみならず、ビデオ、身体表現、ドローイング、詩、歌、音楽など多様な要素が入り組んだ新しい表現に取り組む。その表現は、身体表現と生成プロセスの重視、異質な要素を受け入れ、 ストーリーを持たないノンリニア・ストラクチャー(非線形構造)が大きな特徴となっている。なかでも、1972年に発表した「Vertical Roll」は、現前のパフォーマンスのビデオ映像を、舞台上のTVモニターにリアルタイムで映すもので、ライブパフォーマンスと映像の混在、鑑賞者の視線とカメラのズレによる時間と空間の齟齬、そして電気的なシステムの遅延の可能性をも導入した構造を持ち、発表以降、多くの作家が研究や参照の対象としている。また、2000年代の代表作「Reanimation」(2010/2012/2013)は、アイスランドの自然や 神話、ドローイング、音響、過去の自作の映像断片などが織りなす迷宮的で、さまざまな要素が重層的に加算されていき、鑑賞者に単一な解釈を求めるものではなく、むしろ鑑賞者が主体的に作品を解読し、誤読を含む多様な解釈を獲得することを促す、極めて今日的な物語構造を内包している。

 


Joan Jonas Reanimation (2012) performance at Hangar Bicocca, Milan, Italy, Light Time Tales, 2014. Photo by Moira Ricci

 

ジョナスは、2012年のドクメンタ13を含む過去6度のドクメンタへの参加をはじめ、これまでに世界各地で数々の展覧会や国際展で作品を発表。2015年には第56回ヴェネツィア・ビエンナーレにアメリカ館代表として参加、特別表彰を受けた。現在もロンドンのテート・モダンにて大規模な回顧展が開かれている。また、1998年からマサチューセッツ工科大学で教鞭を執り、教育者としても後続の育成など多大な貢献を果たしている。

今回の京都賞では、ジョナスのほか、先端技術部門は、光遺伝学の創成と因果関係を証明するシステム神経科学の展開に貢献したスタンフォード大学教授兼ハワード・ヒューズ医学研究所研究員のカール・ダイセロス博士が本賞史上最年少で受賞、基礎科学部門は、D加群の理論の基礎からの展開をはじめ、現代数学諸分野への多大な貢献をもたらした京都大学数理解析研究所特任教授の柏原正樹博士が受賞した。授賞式は、11月10日に国立京都会館で開催し、各受賞者にはディプロマと京都賞メダル、賞金1億円が授与される。また、11月11日には各受賞者による記念講演会を開催する。

 

京都賞https://www.kyotoprize.org/

稲盛財団https://www.inamori-f.or.jp/

 

 


Joan Jonas Stream or River Flight or Pattern (2016-2017) video still


Joan Jonas They Come to Us without a Word (2015) U.S. Pavilion, 56th Venice Biennale, 2015. Photo by Moira Ricci

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