レポート:「鑑賞ナビゲーターキャンプ2022」

▼「鑑賞ナビゲーターキャンプ2022」終了!

8月6日(土)、7日(日)、鑑賞教育の専門家として研究者の伊達隆洋を講師に、対話を通して芸術作品を鑑賞する手法「対話型鑑賞」のスキルを学ぶ2日間のイベント「鑑賞ナビゲーターキャンプ2022」を開催しました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。

「対話型鑑賞」は、芸術作品になじみがないと感じる人でも作品鑑賞を楽しんでもらえるように、美術館で導入されている作品鑑賞手法です。観察力や思考力、コミュニケーションスキルなど、作品鑑賞以外の能力にも寄与するため、近年、学校教育や医療、ビジネスの現場においても注目を集めています。昨年に引き続いての開催となった本イベントでは、様々な解釈が可能な作品の鑑賞と、そのファシリテーション技術のレクチャーを実施し、対話型鑑賞の基本から実践まで本格的に学んでいきました。

初日は、対話型鑑賞の基礎的な知識をレクチャーしていきました。ひとくちに「対話型鑑賞」と言っても歴史や流れがあり、1980年代の後半にニューヨーク近代美術館(MoMA)で生まれた「VTC(Visual Thinking Curriculum)」などの対話型鑑賞のためのプログラムの特徴、定義、手法を紹介しました。その後はワークショップをおこない、講師の伊達をナビゲーターに、スライドで映し出された美術作品の画像を使った対話型鑑賞を体験しました。講師の伊達は、ファシリテーター自らが高い鑑賞能力を持つことの重要性を説き、「『みる・かんがえる・はなす・きく』の4つのポイントを軸に鑑賞や対話を終わらせない、このサイクルが周り続けるにはどうするかを考えることが大事」とコメントしました。

続く2日目は、鑑賞者たちに、より深い鑑賞を促していくためのファシリテーションの原則や対話型鑑賞の目的、基本的なファシリテーションの技法をレクチャーやワークショップを通して学びました。

この過程で、3人組(対話2人、観察者1人)が、聴くことを意識して対話を重ねるというワークショップを実施しました。そこで伊達は「言葉が伝達できても、意味までもが伝達されているわけではない」、「話が途中で途絶えて終わるのは避けなければならない」といったような対話を重ねていくうえでの重要なポイントをコメントし、参加者たちは一堂に頷いていました。その後は本物の作品を実際に見て、対話型鑑賞をおこなうことに。今回はYCAMの地下にある、contact GonzoとYCAMバイオリサーチの作品を鑑賞しました。この作品は、運のいい人たちの遺伝子をオブジェの中に閉じ込め、壁に埋め込んだものです。YCAMのエデュケーターである原泉のファシリテーションのもと、白熱した対話が繰り広げられました。

一連のプログラムが終了した後の質疑応答では、「プログラムデザインとしての対話型鑑賞を学んだ」などの感想から「現場で鑑賞者の劣等感や自己否定が始まった場合のリカバリーの仕方は?」などといった質問が相次ぎました。それでも絶えることのない質疑応答はついに1時間オーバー。こうして「鑑賞ナビゲーターキャンプ2022」は大きな盛り上がりの中、閉幕しました。

YCAMでは今後も対話型鑑賞に関するイベントを開催する予定です。2023年2月には、芸術作品をより楽しみ、鑑賞を深めるためのイベントシリーズ「わたしもアートがわからない」の第3弾として、俳優/専業主夫の渡辺健一郎を講師に迎え「わからなさ」の重さをはかる」を開催します。こちらは参加無料となっておりますので、ぜひお申し込みください。

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