レポート:「松井至オンライントークイベント」

▼「松井至オンライントークイベント」終了!
7月23日、特集上映「周縁に生きる人々を知る」に関連し、映画「私だけ聴こえる」の上映後、監督の松井至さんによるオンライントークイベントを開催し、終了しました。ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。
ろうの親から生まれた、耳の聴こえる子どもたち、コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults)。家族とのやり取りで育んだ手話やスキンシップが、聴こえる人の前でも自然に出て不思議がられ、孤立することが少なくありません。耳が聴こえるのでろう者のコミュニティにも入れず、居場所を探し続けるコーダたちの姿を、「私だけ聴こえる」は映し出します。本作は、コーダという言葉が生まれたアメリカで、揺らぎながら成長していく10代のコーダたちを、3年に渡って追いました。
トークショーでは、ドキュメンタリーをつくる時に、取材相手の人生を分かった気になって「物語化」しないよう気を付ける難しさや、言葉が持つ意味を超えて、取材相手が発している「響き」そのものを伝える映像の力について語られました。
撮影:谷康弘
トークはその場で文字に書き起こされ、リアルタイムでモニターに映し出されました。こうした「要約筆記」を取り入れたイベントは、YCAMシネマでは初の試みです。ある難聴のお客さんは「手話が苦手なので、きっと手話通訳だけでは、監督の話の深いところまで分からなかった」と、要約筆記があることを喜びました。また、「音声が聴き取りづらいので、そもそも普段は映画館で映画を楽しむこと自体難しい」と打ち明けます。
本作の字幕は、セリフはもちろん、話している人の名前や、鳴っている音などすべての情報が字幕で表示されるバリアフリー字幕です。こうしたバリアフリーの上映は、他の多くの映画だと全日程の内、数回しかありません。松井監督は「もし自分がバリアフリー上映しか見られない立場だったら、他の人より機会が少ないことを苦しく感じる」と考えて、配給会社と相談し、全国の劇場の全ての回で、バリアフリー字幕付き上映を実現しました。
また、こうした試みに賛同した、ある上映会場のスタッフが「自分たちも聴こえにくい人に映画を楽しんでもらいたいが、どう対応すればいいか分からない。本作の上映を機に学びたい」と熱意を見せたことをきっかけに、聴こえにくい人が来場した時の対応を考える講習会を開催します。上映が始まってからは、観客の半数がろうの人だった回もありました。聴こえる人と聴こえにくい人、2つの世界を隔てるバリアが、他者の立場に立って想像することで和らいだことに、松井監督は感銘を受けたそうです。「他者の立場に立つことは本作のテーマでもある。コーダという他者を、完全には理解できないと葛藤しながら、コーダに少しだけ“なってみる”ことができるような、感覚に訴える映画を創りたかった」と語りました。
撮影:谷康弘
「私だけ聴こえる」は8月7日(日)まで上映。全日程で『UDCast』方式による音声ガイドに対応し、バリアフリー字幕が付きます。ぜひご覧ください。YCAMシネマではひきつづき、さまざまな特集上映やトークイベントを行います。詳細はYCAMのウェブサイトや、YCAMシネマの上映スケジュールをご覧ください。みなさまのご来場を心よりお待ちしております。

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