レポート:「黒澤明の映画術」

きのう(17日)、特集上映「生誕111年 黒澤明 傑作4選」の関連イベントとして、「黒澤明の映画術」を開催しました。ご来場いただいた皆さま、ありがとうございました。

撮影:ヨシガカズマ

本イベントでは、映画評論家である西村雄一郎さんをお招きし、上映作品の「天国と地獄」や「羅生門」の面白さの秘密に迫りました。
「天国と地獄」は初めて黒澤映画を観る人におすすめの作品で、西村さんは100回近く見た今もなお、新しい発見があるそうです。魅力の秘密は、その構成の大胆さ。冒頭54分間、密室を中からのみ映し続けることで、観客も登場人物といっしょに閉じ込められている感覚に誘い込まれます。
時折鳴り響く電話のベルを際立たせるため、54分間一度もBGMが流れません。外に出た瞬間、沈黙を切り裂いてやって来る新幹線の轟音は、まるで怪獣の咆哮のよう。初めて音楽が鳴るのは、物語が大きく転換する時でした。音楽を使うタイミングを絞ることで、音の効果が倍増しているのです。
「羅生門」は日本を代表する映画制作スタッフが集結した一本。特に注目したのは、撮影で黒澤とタッグを組んだ、カメラマン・宮川一夫です。彼はたとえば、白い背景だと目立たない雨を、墨汁を混ぜて黒く強調しました。
「夏の暑さが人を狂わせる様を描きたい」という黒澤のイメージは、強い日差しでできる濃い影で現わされます。舞台は暗い森の中で、濃い影は本来できにくいのですが、宮川は普通のレフ版ではなく、姿見の鏡を使うことで解決しました。鏡で反射した日光を直接当てているので、はっきりした枝の影が役者の顔に落ちています。
「黒澤明は音楽と映像を自在に操った。彼ほど映画とは何かを分かっている人はいない」と西村さんは語りました。ホワイトボードを使って熱心に続けられるレクチャーに、観客は聞き入ります。質問の時間では、黒澤明の「隠し砦の三悪人」が、ジョージ・ルーカス監督の「スターウォーズ」に大きな影響を与えた話で盛り上がりました。

撮影:ヨシガカズマ

生誕111年 黒澤明 傑作4選」の上映は、明日19日(日)まで。皆様のご来場を心よりお待ちしております。

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