この、原美術館ARCという時間芸術

【展覧会の見どころ】
1. 特別企画として、ジャネット カーディフの初期代表作 「40声のモテット」 を、磯崎新設計の原美術館ARCギャラリーAに展示。人工照明を用いず、天窓からの自然光の下でのサウンドインスタレーション体験
2. 原美術館コレクションから、2024年高松宮殿下記念世界文化賞を受賞したソフィ カルの 「限局性激痛」を展示
3. 展示室のみならず、屋外作品や自然環境を含めた原美術館ARC全体を詩や音楽のような時間芸術として鑑賞

【展覧会概要】
原美術館ARCは時間芸術なのではないか?

春には花びらが舞い、鳥がさえずり、初夏には草木が萌え、風が坂をわたり、盛夏には山から雲が沸き、夕立の後には東の空に虹がかかり、西には雲間から陽光のはしごが下りる。移ろう自然の中で翼を広げる磯崎新建築の端正さに心動き、天窓からの自然光の下で個性あふれる作品と出会い、回廊では黙々と草を食む羊の群れを遠くに眺め、屋外に出てはシロツメクサの咲く庭に点在する宮脇愛子の「うつろひ」や多田美波の「明暗」に環境とともにある作品のあり方を観る――ここにあるひとつひとつの要素がここにいる時間とともに緩やかに繋がってゆく原美術館ARCという美術館は、それ自体が詩のような、音楽のような芸術、つまり時間芸術なのではないかと思うのです。

会期序盤には、特別企画としてジャネット カーディフによるサウンドインスタレーション「40声のモテット」をギャラリーAにて期間限定で展示いたします(5月11日まで)。トマス タリス(16世紀イングランド王国の作曲家、王室礼拝堂オルガン奏者)作の40声の楽曲を再構成した本作は、2001年の発表以来、世界各地で展示されているカーディフの初期代表作です。楕円形に立ち並ぶ40台のスピーカーの一台一台から一人一人の声が聞こえ、徐々に声が重なり合い、やがて40人が今ここで歌声を響かせ合っているかのような臨場感のある場へと変化してゆきます。言葉にすれば数行ながら、音が構築する彫刻的空間の体験は圧倒的であり、アートが言葉ではすくいきれないものであることを実感します。

磯崎新が設計したギャラリーAは、杉柱4本に支えられた高さ12mの天窓から自然光が降り注ぎ、太陽の面前を雲が横切る度に光が移ろう展示室です。現代美術作品に適したホワイトキューブの特徴を備えながらも自然の息遣いを感じられます。「間」という日本的な時間・空間の美意識を論じた磯崎が設計したこの空間と「40声のモテット」との出会いをどうぞお楽しみください。

ギャラリーBとCには当館の収蔵作品からソフィ カルによる「限局性激痛」を展示いたします。カルの“人生最悪の日”までのカウントダウンと、自身の心の痛みを他人の苦痛と交換することで徐々に痛みが薄れてゆく過程を観る/読むことで、カルのみならず鑑賞する我々の感情にも変化が生じてゆきます。

なお、5月16日からのギャラリーAには、李禹煥が当館での個展(1991年)用に制作した大作の三連画「風と共に」や山本糾の「落下する水」シリーズなど、制作にも鑑賞にも時間の流れを伴う作品群を収蔵作品から選びます。ここにしかない、原美術館ARCという時間芸術を存分にご堪能ください。

【特別企画】「ジャネット カーディフ:40声のモテット」
展示室:ギャラリーA 展示期間:2025年3月15日(土)-5月11日(日)

ジャネット カーディフ 「40声のモテット」×磯崎新=ここにしかない光景

トマス タリス(16世紀イングランド王国の作曲家、王室礼拝堂オルガン奏者)が作曲した「40声のモテット」と呼ばれる多声楽曲をもとに制作されたカーディフの同名の作品は、2001年の発表以来、ニューヨーク近代美術館(MoMA)を始め世界各地で展示、日本でも銀座メゾンエルメス フォーラム(2009年)などで紹介された彼女の初期代表作であり、その作品力は鑑賞者の心を大きく揺さぶります。

原美術館ARCでは、その前身である原美術館(東京・品川)時代から、自館の建築や環境と作品によって “ここにしかない” 時空間が立ち現れることを鑑賞体験として重視してきました。かつてオラファー エリアソンの個展「影の光」が、蜷川実花の「うつくしい日々」が、リー・キットの「僕らはもっと繊細だった。」展が原美術館と見事に共鳴したように、「40声のモテット」と原美術館ARCのギャラリーAも、ここにしかない輝きを放つ一期一会の展示となることでしょう。

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