猪熊弦一郎展 Since 1955 @ 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)

展示風景「猪熊弦一郎展 Since 1955」丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、香川、2025年
猪熊弦一郎展 Since 1955
会期2025年8月1日(金) – 11月24日(月・祝)
会場丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA) [MAP]
開館時間10:00–18:00(入館は17:30まで)
休館日月曜(8/11、9/15、10/13、11/3、11/24は開館)、9/16、10/14、11/4
URLhttps://www.mimoca.jp/exhibitions/since1955/
1955年、猪熊弦一郎(1902-1993)はアメリカに渡り、ニューヨークを拠点に活動を始めます。猪熊の画家としての再出発の起点となったこの年は、開催中の企画展の出品作家である大竹伸朗(1955-)が誕生した年でもあります。大竹の膨大かつ多様な作品の中でも、透明なマチエールを特徴とする〈網膜〉シリーズにフォーカスした企画展「大竹伸朗展 網膜」にあわせて、本展では1955年を起点とした猪熊の表現の変化について、特にマチエールに着目してご紹介いたします。

絵画表現におけるマチエールとは、絵肌や画面の質感のことを意味します。猪熊は渡米をきっかけにそれまでの半具象的な表現を脱し、抽象的な絵画を開花させました。ニューヨークに渡った初めの頃は、油絵具に砂を混ぜたり、厚く盛り上げたり、絵具のかすれやにじみの効果を生かしたりした表現に挑みます。埴輪などの東洋的なモチーフや、状態やエネルギーなどをテーマに、物質感のあるマチエールをもつ絵画を描きました。
1960年代になると、猪熊はニューヨークという都市の喧騒と秩序を描くことへの関心を高めます。油絵具の質感を生かしつつも、画面の凸凹は抑え、代わりに画面全体を細かい線描で埋め尽くした絵画を描くようになります。この頃、アメリカでは抽象表現主義やポップアートの画家たちが、当時まだ新しい画材であったアクリル絵具を用いた大画面の表現を試みていました。猪熊も1964年頃より、乾きが早く、フラットな表現を可能とするアクリル絵具を用いて、自身の表現の幅を広げていきます。都市をテーマにした絵画は、直線や幾何学的な図形を組み合わせたシャープな構成へと変化していき、1970年には余白の部分と細かい描き込みの部分が独自のバランスにおいて共存する、整然たるコンポジションが結実しました。

1955年から約20年におよんだ猪熊のニューヨーク時代の作品には、それぞれマチエールの工夫と効果があり、油絵具とアクリル絵具という画材の違いもあらわれています。また、本展の作品は主に、デイヴィッド・スミスやマーク・トビーなどの第一線のアーティストを紹介していたニューヨークの画廊、Willard Gallery(1936年から1987年まで開廊)にて発表されたものです。戦後の日本人アーティストの中でも早い時期に渡米し、国際的な舞台で活動した猪熊の大胆で緻密な絵画をご体感ください。

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