
世界有数の近現代美術のアートフェア「アートバーゼル」が、主要部門に参加するギャラリーや新部門の開設、メッセプラッツのサイトスペシフィック・プロジェクトを担当するアーティストなど、2025年6月19日から22日の4日間にわたり、42カ国/地域から291軒のギャラリーが集まり開催される「アートバーゼル2025」のラインナップを発表した。
来場者を最初に迎えるメッセプラッツのプロジェクトは、色鮮やかなアクリルを吹きつけた絵画や大規模な彫刻作品、壁画を含む野外プロジェクトなどで知られるカタリーナ・グロッセが担当。キュレーションは、ロンドンのサーペンタインの建築およびサイトスペシフィック・プロジェクト部門のナタリア・グラボウスカが務める。新設されたプレミア部門(Premiere)は、出品作家数が3人以内、近年5年以内に制作された作品という条件で展示内容を構成。動物解放、人間と動物の関係、環境保護責任などの問題に取り組みながら2023年に逝去したリン・メイ・サイードを紹介するJacky Strenz(フランクフルト)、アジア太平洋地域出身のタロイ・ハヴィニとパトリシア・ペレス・ユスタキオの作品を紹介するSilverlens (マニラ、ニューヨーク)、そして、沖潤子の新作を紹介するKOSAKU KANECHIKA(東京)など、10軒が出展する。

世界最高峰のアートフェアの核となるギャラリー部門(Galleries)には、国際的な現代美術のマーケットを牽引する239軒が出展する。日本からは例年同様のタカ・イシイギャラリー、タケニナガワ、東京画廊+BTAPに加え、サードギャラリーAya(大阪)が昨年のフィーチャー部門から昇格。日本に支店を持つファーガス・マカフリー、ブラム、ペロタン、そして昨年麻布台ヒルズに出店したペースも参加。サードギャラリーAyaは山沢栄子、岡上淑子、石内都という日本写真史における重要な女性写真家3名の紹介に注目が集まる。
歴史的観点を踏まえた展示内容が求められるフィーチャー部門(Feature)には17軒のギャラリーが参加(共同出展が1組)。1960、70年代のニューヨークを拠点に活躍し、ゴードン・マッタ゠クラークらと共同運営したレストラン「FOOD」でも知られるティナ・ジルアードを取り上げるAnat Ebgi(ロサンゼルス)、バーゼルを拠点に活動するアネッテ・バルセロの80年代後半から90年代に制作した作品群に再注目するMadragoa(スペイン)、かつて女性だけのパンクバンドKleenex(後にLiliput)のボーカルなどを務めたことでも知られるアーティスト、クラウディア・シフレの絵画や彫刻をGalerie Mueller(バーゼル)と共同で紹介するGalerie Oskar Weiss(チューリッヒ)などが出展する。

3万スイスフランの賞金や美術館への寄贈を目的とした作品購入の対象となるバロワーズ賞の対象となるステートメント部門(Statements)は、新進アーティストの個展形式が条件となる。富田正宣を個展形式で紹介するKAYOKOYUKI(東京)など初参加8軒を含む18軒がエントリー。そのほかの出品作家には、Nir Altman(ミュンヘン)から新作映像作品を3.5メートルのLEDディスプレイで発表するンデイエ・クアグー、Jahmek Contemporary Art(ルアンダ)から1977年にモザンビークのシモイオで起きた虐殺事件と解放闘争におけるヒーラーの役割について掘り下げたインスタレーションを発表するフェリックス・シュンバ、ROH Projects(ジャカルタ)からインドネシアのシドアルジョの泥火山噴火に言及するインスタレーションを発表するバグース・パンデガらの名前が並ぶ。
エディション部門(Edition)には、版画芸術における多大な功績を残したケネス・タイラーが設立したGemini G.E.L.(ロサンゼルス)やそのタイラーがニューヨークからシンガポールに工房を移転して立ち上げたSTPI(シンガポール)など、版画芸術を扱うギャラリーを代表する7軒が参加。そのほか、昨年に続きニューヨークのスイス・インスティテュートのディレクターを務めるステファニー・ヘスラーがキュレーションを手がけるパルクール部門(Parcours)や、従来のアートフェアのブースでは展示不可能な大型作品や広い空間を必要とする展示を紹介するアンリミテッド部門(Unlimited)、シュタットキノ・バーゼルを会場にさまざまな映像作品を上映するフィルム部門(Film)などの詳細は後日発表を予定している。

最後に本年度のアートフェア開催時期のバーゼル市内の注目の展覧会は次の通り。バイエラー財団美術館は、蜘蛛の巣、海、夜空、砂漠といった自然を緻密で繊細な筆致で描いた絵画やドローイングで知られるヴィヤ・セルミンスの大規模回顧展を開催。1960年代から現代に至るまで、セルミンス自身が「3次元絵画」と呼ぶ彫刻や、最新作などが一堂に会する貴重な機会となる。近年は展覧会を隔年で開催しているシャウラガーは、2013年の「City of Cinemas」以来となるスティーヴ・マックイーンの個展を開催。現在ニューヨークのディア・ビーコンで発表している最新作、光、音、色彩といった要素が空間の物理的な認識や心理的な認識に与える影響を探求した没入型のインスタレーションをシャウラガーの展示空間に合わせて再構成する。
バーゼル市立美術館では、普段はキュレーターや修復家など限られた専門家しか見ることのできない、コンラート・ヴィッツ、ハンス・バルドゥング・グリーン、ハンス・ホルバインら、14世紀から18世紀に活動した画家の絵画作品を表面だけでなく裏面も鑑賞できる状態で展示する企画展「Verso」や、ウィーン・ルートヴィヒ財団近代美術館[MUMOK]からの巡回となる近代彫刻を代表するメダルド・ロッソの実験的かつメディア横断的なアプローチに焦点を当てた回顧展を開催。クンストハレ・バーゼルでは、国際芸術祭「あいち2025」への参加も発表されているレバノン出身のダラ・ナセル、ジョージアのトビリシを拠点とするMargo Korablevaパフォーマンス・シアターとの共同制作に取り組むロサンゼルス出身のサー・サーパスという共に90年代生まれのアーティストの個展を開催。バーゼル州立美術館は、私たちが現在直面している気候危機や政治状況における新たな物語を、複数のアーティストの作品を通じて模索する展覧会「Whispers from Tides and Forests」、ティンゲリー美術館では、スザンヌ・レイシーの個展「By Your Own Hand」とジュリアン・シャリエールの個展「Midnight Zone」をそれぞれ開催予定。
アートバーゼル2025:https://www.artbasel.com/basel
