三宅砂織

2010年2月19日
人の感覚はもっと大きい輪郭を持っている



美術関係者による推薦を受けた40歳以下の若手現代美術家たちが、多様な平面作品を出品するVOCA展。2010年の大賞を受賞した作家に、独特な制作方法と表現について聞く。

聞き手・文:松浦直美



「内緒話」2009年(VOCA賞受賞作品) 
145×165×5cm ゼラチンシルバープリント 撮影:©上野則宏



——星空に夢を投影したような三宅さんの作品は、黒地に白で描いたドローイングのように見え、フォトグラムの技法を用いた写真と知って驚く人も多いと思います。まずは制作方法について教えて下さい。


フォトグラムはカメラを使わないのが特徴です。印画紙の上に直接、物を置いて光を当て、影を落として像を得る、いわば原始的な写真です。私は透明フィルムに黒で絵を描き、それを印画紙の上に置いて感光させます。するとネガポジが反転し、黒で描いた部分は白く、絵の具を乗せなかった部分は黒くなります。フィルムごとに光の当て方を変えてみたり、フィルムをぶらしてみたりと、10回くらいはいろいろ試します。現像液に浸けて初めて像が見えてくるので、トライアルではかなり有機的な調節をします。


——「フィルムごと」ということは、1枚の作品を作るために絵を描いたフィルムを何重にも重ねるということですか。


1枚ずつ別々に感光させることはできないので、1作品につき3〜7枚くらい重ねて一度に感光させます。


画面との距離を保つために


——大学では版画専攻でしたね。初期の作品は版画や絵で、徐々に版画と絵画の間のようなものへと移行して、写真へと行き着いたのでしょうか。


美術への入口は日本画でした。絵を描いていると、どこで完成なのかがわからず、自分に近すぎて見えなくなっていると感じました。その点、版画なら「版を作る」「刷る」という行為があるので、自分と距離を取れると思って選びました。リトグラフという、絵を描くのと近い感覚で版画を作れる技法を使っていましたが、あるとき手描きのフィルムをそのままシルクスクリーンの版にする方法を試す機会がありました。版画用の版を作るための、前段階の絵をフィルムに描いたわけですが、これを印画紙に焼けば写真作品になるかもしれないと思いました。基本動作は描くことなのですが、写真は現像液に浸けて像が浮かび上がるまでどんな絵になっているか正確には分からないので、「自分との距離」という意味では、かなり遠くを見越して描く行為をしていると思います。


聴覚や視覚は、空中に点在している


左:「空気4」2008年 ゼラチンシルバープリント36.5x44.5cm
右:「空気の色 color of the air/pink」2009年 ゼラチンシルバープリント、カラーインク 61x50.8cm


——2008年の『LOCUS』展のカタログで「知覚と感情の異化と同化」をテーマに制作をしていると発言していますね。


知覚と感情は相互作用する関係にあると思うのですが、私はこの関係の流動性や重層性に興味があります。知覚を星のような点的な感覚の集合とすれば、感情は星座のように想像力を働かせて作られたものではないかと思います。


——過去作品を見てみると、2002〜03年のリトグラフから画面に点々が現れます。なぜ大小の点をつなげて描こうと思ったのですか。


もともと線好きで、良い輪郭線を引くことが目標でした。でもあるとき、例えば人の輪郭をなぞっていても、実はその人の感覚はもっと大きい輪郭を持っているんじゃないかと思い、輪郭の捉え方を考え直すようになりました。そこで実線で完全に仕切れない部分に点線の輪郭を使うようになりました。丸い点は方向性が曖昧なので、あらぬ方向につながって面白かった。徹底的に点で写し取ると、もとの像がぼんやりとして、空間的な連続性がぐちゃぐちゃになって、違うつながりになることがあります。これと星座のイメージが重なりました。


「チアガール2」2003年 リトグラフ 39x53cm

——それは後のラインストーンを使った作品にもつながりますか。


その通りです。以前は「意識の点」と呼んでいましたが……。皮膚感覚より身体から距離のある聴覚や視覚は、空中に浮かんでいるように思い、ラインストーンで表しています。


——モチーフはどのように選択しますか。ベッドルームなど、住空間の中に女の子がいたり、いなかったりしますが。


住空間も女の子も身近なもので描きやすい。筆触を何か別のものに見立てて描く場合に、布、層状のもの、襞などは合うと思い、家の中で布がたっぷりある、ベッドとかカーテンを描いています。


制約を外してアイデアを実現する


「ベッド」2009年(VOCA賞受賞作品) 
145×165×5cm ゼラチンシルバープリント 撮影:©上野則宏


——VOCA賞受賞作品を含め、近作は以前より大きさの面でも表現の面でも、伸びやかで大胆になりましたね。何か変化があったのでしょうか。


制限を外し、浮かんだアイデアを実現していったのはすごく大きいかもしれません。それと単純な技術の向上もあり、かなりのびのびできるようになったと思います。VOCA賞を頂いた2点の作品は、印画紙の幅に限界があるため2枚をつなげました。その場合も、継ぎ目の濃淡の違いを作品に取り込もうと思い、絵を描いたフィルムの縁の線も活かすようにしました。


——印画紙の大きさという限界を逆手に取ったわけですね。今後はどんなことをしたいですか。前回の個展からは、インスタレーションもやりたいのかなと思いましたが。


見方の自由度を上げて、振り幅を大きくしたいので、作品を床に置いたり、別の素材を取り込んだりして、少し立体的な展示も試みています。フォトグラム作品を含め、絵やドローイングは続けていくと思いますが、別のメディアに挑戦するかもしれません。機会とアイデアがあれば、なんでもしたい。フォトグラムに手彩色は既に少し試みていますが、絵を動かしたいと思うかもしれませんね。


みやけ・さおり
1975年、岐阜県出身。2010年、VOCA賞受賞。高校時代から日本画を始め、京都市立芸術大学大学院で版画を専攻。リトグラフやシルクスクリーン、フォトグラムなどの技法と、線描を活かした細微な表現により幻想的な画面を生み出す。近年の主なグループ展に『LOCUS 五人の作家が紡ぎだす軌跡』(08年、神戸アートビレッジセンター)、個展に『CONSTELLATION2』(09年、ユカササハラギャラリー)など。『VOCA展2010』(3月14日〜30日、上野の森美術館)に出品。今後はlammfrommでの個展(3月13日~4月20日、東京)、ART OSAKA(7月9日〜11日、堂島ホテル)への出品(FUKUGAN GALLERYより)を予定している。

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