市川孝典展:VINTAGE BROWN
2009.6.17-30
PLSMIS(南青山)
http://www.plsmis.com
文:内田伸一(編集部)

撮影:木奥恵三
前情報無しに作品に向き合うと、どういう手法で「描いて」いるのかがちょっとわからないかもしれない。市川の作品は線香の微かな火と熱を使い、紙を焦がしながら描かれる。
13歳でトビ服を着てニューヨークに単身渡ったという作家は、以来放浪の旅を続けた。作品はすべて自身の体験からくる記憶が出発点になるが、単なる思い出の再現、というのでもない。ニューヨークで暮らしたライブハウスの屋根裏部屋に浮かび上がった、下階のミュージシャンたちが吹き鳴らす管楽器の影。あるいは、一晩の宿を求めて忍びこんだフランスの古城で、偶然出会ったふたりの娼婦とふたつの部屋を巡る奇妙な思い出……エトセトラ、エトセトラ。そうした記憶から紡ぎだされたイメージが、線香で紙に穿たれた穴や焦げ目で像を結んでいく。
彫刻や映像にも取り組みながら、自分の求めるイメージに最も「近い」表現法を探る中で、いまこの線香画が作家の「いちばん見せたいもの」だという。鉛筆や筆に幾多の種類があるように、いまでは様々な線香を使い分けながら描いているとのこと。下書きなどはなく、いきなり筆をーーもとい、線香を入れていく。
美しいレースのようでも、虫食いのようでもあり、子供のころ図画工作の時間に挑戦した「あぶり出し」の思い出を喚起させられたりもする。そんな繊細さは、作家の豪快な人生や天衣無縫なキャラクターとは好対照を成すものだ。ただしそれは、ノスタルジーとは明らかに違うもののようである。近づいて観たとき、また再び離れてふと部屋の中のその絵を観たときに感じる一種異様な佇まいは、これらの作品が記憶を糧にしながら別の何かに変化しようと蠢くような妖しさも漂っている。燃やして焦がすことによってーーつまり破壊をもってーーイメージを創り出そうというアプローチも、このあたりと無関係ではないのかもしれない。
PLSMIS(南青山)
http://www.plsmis.com
文:内田伸一(編集部)

撮影:木奥恵三
前情報無しに作品に向き合うと、どういう手法で「描いて」いるのかがちょっとわからないかもしれない。市川の作品は線香の微かな火と熱を使い、紙を焦がしながら描かれる。
13歳でトビ服を着てニューヨークに単身渡ったという作家は、以来放浪の旅を続けた。作品はすべて自身の体験からくる記憶が出発点になるが、単なる思い出の再現、というのでもない。ニューヨークで暮らしたライブハウスの屋根裏部屋に浮かび上がった、下階のミュージシャンたちが吹き鳴らす管楽器の影。あるいは、一晩の宿を求めて忍びこんだフランスの古城で、偶然出会ったふたりの娼婦とふたつの部屋を巡る奇妙な思い出……エトセトラ、エトセトラ。そうした記憶から紡ぎだされたイメージが、線香で紙に穿たれた穴や焦げ目で像を結んでいく。
彫刻や映像にも取り組みながら、自分の求めるイメージに最も「近い」表現法を探る中で、いまこの線香画が作家の「いちばん見せたいもの」だという。鉛筆や筆に幾多の種類があるように、いまでは様々な線香を使い分けながら描いているとのこと。下書きなどはなく、いきなり筆をーーもとい、線香を入れていく。
美しいレースのようでも、虫食いのようでもあり、子供のころ図画工作の時間に挑戦した「あぶり出し」の思い出を喚起させられたりもする。そんな繊細さは、作家の豪快な人生や天衣無縫なキャラクターとは好対照を成すものだ。ただしそれは、ノスタルジーとは明らかに違うもののようである。近づいて観たとき、また再び離れてふと部屋の中のその絵を観たときに感じる一種異様な佇まいは、これらの作品が記憶を糧にしながら別の何かに変化しようと蠢くような妖しさも漂っている。燃やして焦がすことによってーーつまり破壊をもってーーイメージを創り出そうというアプローチも、このあたりと無関係ではないのかもしれない。
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