「イサム・ノグチ、ランドスケープへの旅」 イサム・ノグチ展

[タイトル] イサム・ノグチ、ランドスケープへの旅
ボーリンゲン基金によるユーラシア遺跡の探訪
[アーティスト名] イサム・ノグチ
[会期] 2004年9月7日~10月17日

第二次世界大戦後、ノグチは芸術の意味に対して信頼を失い、ポスト核時代における芸術の適切性を問題視した。そして、根本的な社会問題や社会的価値との関係を失ってしまった芸術に対して、新たな定義を探求することを決意していた。1949年に、ノグチは「余暇(leisure)の環境とその意味、利益、また社会への関連性」を研究するために、ボーリンゲン財団の助成金に出願した。その企画は、人々が共同で楽しむ余暇の空間に焦点を当て、「余暇の静観的使用法(心のレクリエーション)と幼年期の遊びの世界」に特に注目した。この主題における彼の興味は、余暇の時間や空間が様々な文化の中でどのように存在しているかというものだった。余暇とは、直接参加だけでなく静観的でもありえることを、ノグチは理解していた。また、それは宗教と関係があるかもしれないが、その最終的な特性は遊びであり、芸術と密接につながっているものだと考えた。余暇の空間は、巡礼の場、家、寺院、洞窟、飛行機などどこにでも存在しえるが、それはギリシャやインドや日本などどこにおいてであっても、常に大きさと規模の感覚を共有していた。

本展覧会は、ノグチが爆発的創造性を発揮した期間の道程を追う。ボーリンゲン助成金を通して、ノグチは何百もの写真やデッサンによって、世界旅行を記録した。旅行中に集めた材料の豊かさと種類は、ノグチの他の文化に対する鋭い眼識、強い好奇心、また高い評価を示す。ボーリンゲン・ジャーニーは、ノグチのプロジェクトを広い視野から捉えた上で、その旅行が彼のその後の芸術作品、公共の庭、公園、広場、遊び場などに及ぼした影響を紹介しようと試みるものである。

この展覧会はまた、1949年から1956年というボーリンゲン時代の、ノグチの感情的、心理的、知的進化を扱う。戦後は、大混乱の時代だった。日本のアイデンティティーの意味はすでに過激な時期を経て、その時代には破壊は復興へと移り始めていた。この旅行を通してノグチが提示する芸術家の変遷、また余暇の空間の背後にある思想― つまり、宗教的・冗談・受動的・能動的であるかに関わらず人々をひきつける場であるという思想― は、より深い要望の共鳴であると思われる。展覧会の中を進みながら、この旅行の様々な語りの糸を熟考し始めると、それはノグチにとって内面的成長の道のりであり、芸術への精神的探求により近づかせたものだったであろうことが、明らかになってくる。

ノグチは「余暇(leisure)」を、こう定義した。
「自由な時間、生活に必要なことから逃れ、人生を味わい楽しむことの出来る時間。それはリラクセーションとレクリエーションの時間。余暇とは遊びであり、祈りであり、または何もしないことでもある。

遊びに様々な段階や種類があるように、余暇にも段階や種類がある。感覚を敏感にさせることによって時間や空間をより明敏にしてくれたり、我々の知覚を深めることによって全ての時間を忘れさせてくれたり、余暇は微妙な方法で我々を養育する。それは聖者の目的であると同じに、子供の目的でもある。余暇に対する本物の認識や楽しみとは芸術であり、それは我々のひたむきな姿勢を要する創造的なプロセスなのである。

現世または来世について考える神秘主義者、合理的に解釈する哲学者、またあらゆる種類の科学者、芸術家、詩人にとって、我々を最終的に自由に解き放ってくれる真実を定義すること以外に何の目的があるだろうか。また、大切なのは探求なのか、それともゴールなのかという問題以外に。これこそが、我々がこの地球上で知りえる余暇なのである。」

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