「幽霊たち」 ジョン・ケスラー + ポール・オースター展

[タイトル] 幽霊たち
[アーティスト名] ジョン・ケスラー + ポール・オースター
[会期] 2004年2月24日~5月9日

最初にポール・オースターの作品が思い浮かびました。というのも、ポールの著作はまさしくカラーとファンタジーという概念を美しく具現化しているからです。この本に出てくる人物には色にちなんだ名前がつけられていて、また、本の中には色に触れた美しい描写がいくつも見られます。言葉を読んで読者の頭に思い浮かぶ連想という遊びと視覚的なイメージはそれだけで想像を刺激します。ポール・オースターは探偵小説を脱構築したことで知られています。私の方は、その反対に脱構築されたものを構築することに興味があります。しかしその構築とは、本展示の中の、本のページやビデオや録音音声には表われないかもしれない徴のようなものを使ってのものです。
ポールとは前にも『ワード・ボックス』(1992)という作品でコラボレートしたことがあります。ポールから文章をもらい、友人のクリストファー・ウールにパネルへ色を塗らせ、箱形に組み立てました。
メゾンエルメス、フォーラムのインスタレーションには、日記のような要素があります。その中で私は妻の実家のあるミネソタ州で3人の義兄弟の体の石膏型を作りました。私の家族の経歴を簡単に説明しておきますと、ハストヴェット家は、ミネソタ州ノースフィールドのノルウェー系アメリカ人の一家です。父親のロイド・ハストヴェットはセント・オーラフ大学の教授でしたが、今年の2月2日に他界しました。義父とその妻のエスターとの間には4人の子供がいて、全員娘でした。長女のシリはよく知られた作家で、ポールと結婚しました。次女のリヴは作品中「ホワイト」を演じるスティーヴ・レメスの奥さんです。そして私の妻であるアスティがいて、末っ子が本作品中「ブルー」役になったブルース・カトラーと結婚したイングリットとなります。娘夫婦のうち3組はニューヨークに暮らしているので、私たちは毎年クリスマスにはノースフィールドの実家に戻り、ツリーに本物のキャンドルを灯し、代々伝わるレシピで作ったケーキやクッキーの山に囲まれて、伝統的なノルウェー式の休日を過ごします。ポールと私が『幽霊たち』の録音をしたのもこの実家でしたし、全員が十分リラックスした中で、鼻にストローを差して息をしながら、20分ほど石膏で顔を固めたのもこの家でした。今回の展覧会は義父に捧げるつもりです。
このインスタレーションは、ポールと私がシガーやシングルのモルトウイスキーを片手に、書籍・映画・映像情報間の違いについていろいろ交わした会話から誕生しました。私たちふたりとも、それぞれの仕事で大切にしているのは遊びと偶然です。ですから、今回のインスタレーションで、ビデオカメラで写真や文章や色紙をランダムに映していくようにしたのも、そんな理由からでした。
さらにありがたいことに、ポールの著書を日本で翻訳している柴田元幸氏が参加してくれました。このような公私に渡るつながりで人生が築かれていくことを、私たちは大切に思っています。私個人にしても同様に、1992年に大阪で初出展した際にオーストリアのギャラリーの紹介で初めて出会った藤本幸三氏が今もなお友人であり、私のプロジェクトに賛同してくれています。

ジョン・ケスラー
2004年2月

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