SANAA

来るべき未来に向けて

取材・文:大西若人(朝日新聞記者)
ポートレート:池田晶紀

「来るべき未来に向けて、どうやって開いてゆけるか。 平面計画も、素材の質感も」
西沢立衛がこう語ったとき、久しぶりに本来の意味での「未来」という言葉を耳にした気がした。未来を語れた20世紀が終わり、21世紀はまだ未来を見い出し切れていない。その中にあって、建築ユニット SANAAの妹島和世と西沢は、未来を描きうる数少ない才能に違いない。


Rendering of design for the 2009 Serpentine Gallery pavillion
Courtesy SANNA

例えば、国内の代表作である金沢21世紀美術館 (2004年)。円盤のような薄い円筒の中にいくつもの 直方体の箱が挿入された形で構成されている。個々の立体=展示室は、ミニマルアートのようにシンプルなのに、人々が自由に行き交う館内は、都市のような顔つきを見せる。それも、未来都市のような。大きく言えば、 造形と質感のとぎすまされた抽象性、空間の透明なまでの流動性が、彼らの建築の持ち味だろう。

今年7月、2人による建築が、ロンドンのハイドパ ーク近くの公園で完成する。毎年、夏の間だけ現れるサーペンタイン・ギャラリー・パビリオンだ。ザハ・ハデ ィド、伊東豊雄、レム・コールハース、フランク・ゲーリーら、錚々たる顔ぶれに続く9組目に指名された。

アメーバのような形をした大屋根が、ベールのように曲面を描き、公園をたゆたう。これが彼らの提出した案だ。 「できるだけ、公園や木々と一体化した場所を作ろう、と。屋根が、木の間に漂う感じです」と妹島は話す。
 
屋根の素材には薄いアルミを、壁状の風よけにはアクリル板を選んだ。「どちらもまだ、20世紀には建築の素材としては理解し切れていない。そこにプラスアルファがある」と西沢。アルミの白さ、軽さ、柔らかな反射。その質感全体が、魅力だという。
 
SANAAは、妹島と妹島事務所の所員だった西沢によって95年、主に海外のコンペを闘うために設立された。それぞれが自分の事務所を持ちつつ、プロジェクトに応じて、協働する。

2人の見た目は、さながら姉と弟。弟は、いつも論理的に話す。対して姉の言葉には指示語が多い。「ここに大きな木があって、こう人を流すから」と身振りをまじえながら。言葉に、常に身体性が内包している。
 
この身体性は2人に、いやSANAAの事務所員全体にも通じるものなのだろう。だから、みんなで大量の模型を使ってスタディし、みんなで議論する。そして、弟は姉を「師」として敬している。

ニューヨークのニューミュージアムを07年に完成させ、いまフランスのランスではルーヴル美術館の分館を計画中だ。時代の羅針盤たらんとするアートや美術館が、彼らが描く「未来」を欲しているのは間違いない。


サナア SANAA (Sejima and Nishizawa and Associates)
せじま・かずよ
1956年、茨城県生まれ。81年、日本女子大学大学院修了。87年、妹島和世建築設計事務所を設立。慶應義塾大学教授。直島福武美術館財団による「犬島アートプロジェクト」の建築計画を担当(2010 年完成予定)。

にしざわ・りゅうえい
66年、東京生まれ。90年、横浜国立大学大学院修了。97年、西沢立衛建築設計事務所設立。横浜国立大学准教授。福武財団による「豊島アートプロジェクト」の一環として、 内藤礼の作品を展示するための美術館を設計(10年完成予定)。

7月2日から10月22日まで、シャーマン・コンテンポラリー・アート・ファウンデーション(シドニー)での展示と、8月1日から29日まで、小山登美 夫ギャラリー(東京)で行われるグループ展『Before Architecture, After Architecture/建築以前・建築以後』でのドローイングや模型の展示を予定。

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