2010年記憶に残るもの ダン・キャメロン

私にとって2010年は純粋な視覚芸術の面で記憶に残る一年間ではなかったので、このリストを作るにあたり殆どの美術展を省いてしまった。しかし、視覚芸術と音楽・映画・舞台とのコラボレーションで視覚的に印象深いものはたくさんあった。以下に挙げた例の殆どはその「狭間」のカテゴリーに当てはまる。

1月15日(金) テッド・リーデラー『Never Records』


Ted Riederer – Installation view of Never Records (2010) for “Never Can Say Goodbye” at the former site of Tower Records, corner of Broadway and W 4th Street, New York, 2010. Courtesy No Longer Empty.
この日から2週間の間、ニューヨークの美術家・音楽家のテッド・リーデラーによるインスタレーション『Never Records』がブロードウェイと4丁目のタワーレコードがあった場所で開催された。見た目や雰囲気は元のレコード店を真似ているが、実際の音楽商品の代わりにコンセプチュアルなプロジェクトを陳列し、私たちがかつて音楽を消費していた方法に対するかすかなノスタルジアと巧みな不条理とを組み合わせ、ポップミュージックとコンセプチュアルな作品はしばしば緊密に繋がっているという議論を力強く提示していた。
展覧会情報: グループ展『Never Can Say Goodbye』の一環として開催。企画: ノー・ロンガー・エンプティー(NLE)、旧タワーレコード ソーホー店、ニューヨーク 2010年1月16日–2月13日

2月16日(火) オノ・ヨーコ、プラスチック・オノ・バンド再結成

オノ・ヨーコが77歳の誕生日を記念してブルックリン音楽アカデミー(BAM)でのプラスチック・オノ・バンドの再結成を実現させた。このイベントは私にとって唯一無比のものであった。ベット・ミドラー、ポール・サイモン、サーストン・ムーアとキム・ゴードンらのほか、音楽界を去りグラフィックデザイナーに転身したドイツ人ベーシストのクラウス・フォアマンなど、かつてのオノ・ヨーコとジョン・レノンのバンドの忘れかけられていたメンバーもゲストミュージシャンとして迎えられた。ノスタルジックな要素も充分にあったが、それ以上にオノ・ヨーコのこの時代の文化への貢献はまだまだ続いていることを知らしめる、めまぐるしく変化してゆく音の体験(a sonic roller coaster ride)であった。
イベント情報:「We Are Plastic Ono Band: Live」BAMハワード・ギルマン・オペラハウス 2010年2月16日

3月11日(木) ウィリアム・ケントリッジ、オペラ『鼻』上演


Scene from Act II of Dmitri Shoshtakovich’s The Nose as staged at
the Metropolitan Opera, New York, 2010. Photo Ken Howard/Metropolitan Opera.

この晩、ウィリアム・ケントリッジのオペラ『鼻』をメトロポリタン・オペラで観た。ゴーゴリの短編小説を基にショスタコーヴィチが作曲したオペラである。私が今まで経験した中で一番濃密な、まるで音とイメージとの集中砲撃のような体験で、終わったその瞬間にもう一度観たいと思ったほどであった。ニューヨーク近代美術館で開催されていた大規模な個展、そして『パフォーマ09』のための映像付き独演と併せて、この南アフリカのルネサンス的教養人は、彼こそが今、世界中で活動をしている中で最も目を放せない美術家なのかもしれないことを知らしめた。
公演・展覧会情報: ドミートリイ・ショスタコーヴィチ作曲オペラ『鼻』(メトロポリタン・オペラ、ニューヨーク 2010年3月5日–25日)、『William Kentridge: Five Themes』(ニューヨーク近代美術館 2010年2月24日–5月17日、2009年3月よりサンフランシスコ近代美術館から欧米を巡回)、レクチャー/パフォーマンス『I am not me, the horse is not mine』(『Performa 09』の一環として開催、2009年11月9日–10日)

3月30日(火) シリン・ネシャット『男のいない女たち』

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シリン・ネシャットの映画『男のいない女たち』(2009)の同市初上映がニューヨーク近代美術館で行われた。初めての長編映画に関わらず、力強く感情に訴える様に驚いた。ネシャットはもちろん美術家として既に確立されているが、映画作家としては殆どの視覚芸術家が決して届くことのない高みに至った。1953年に米中央情報局(CIA)が民主的に就任したイラン首相の暗殺計画を支援した事件を中心とする出来事を基にしているが、本作では政治問題については殆ど避け、システムが転覆させられたときに、その中で必死に生きようとしている一般の人々の生活に巻き起こるカオスに焦点を合わせている。

4月11日(日) ワンゲチ・ムトゥ、ミス・セーラ・ラスティの家


Exterior view of Ms Sarah Lastie’s house, New Orleans, 2010.
Courtesy Gladstone Gallery, New York.

ミス・セーラ・ラスティの新しい家がニューオーリンズのロウワー・ナインス・ワードにあるホーリークロスという地区に建った。通常、このような出来事は特に美術と関係ないように思われるだろうが、この度完成したラスティの新居は美術家ワンゲチ・ムトゥの『Prospect.1』ビエンナーレへの参加の最終形態であった。『Prospect.1』ビエンナーレはその18ヶ月前に開催され、私が企画している。
前の家はニューオリンズの大洪水で崩壊してしまい、しかもその後は無節操な請負業者に大金を騙し取られ、ミス・セーラが家を取り戻す日は来ないように思われた。そこでムトゥは彫刻作品から始まり、次は彫刻の版画作品を作り、その版画作品を売ることで資金を集め、最終的にその資金でこの家を建てるという連鎖する出来事から成るプロジェクトを行なったのである。
展覧会情報: 『Prospect.1 New Orleans』(ニューオーリンズ市内各会場、2008年11月1日–2009年1月18日)

8月22日(日) 雲住寺


Photo Dan Cameron.
韓国、光州近郊の古刹(恐らくは石工の学校)の遺跡、雲住寺(ウンジュサ)を訪れた。有名な臥仏を見ることが訪問の目的だったが、月面のような風景の中に点在する韓国流の石塔「ソクタプ」のまれに見る美しさに文字通り言葉を奪われた。雲住寺の美しさより印象的だった唯一のことは、その場所が韓国の主要な考古学的な遺跡のひとつと見なされていないということだ。つまり、観光客や地元の住民に邪魔されることもなくその広大な遺跡を歩き回ることができるのだ。

12月4日(土) ヴィック・ムニーズによるコラボレーションプロジェクト、映画『Waste Land』

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アート・バーゼル・マイアミ・ビーチでヴィック・ムニーズのコラボレーションプロジェクトのドキュメンタリー映画が上映された。リオデジャネイロで一番広い埋め立て地でゴミを漁る人々とのコラボレーションを記録する映画『Waste Land』ルーシー・ウォーカーが二人の共同ディレクターと共に制作した。美術にはそれが何か全く知らない人たち——もちろん、それはムニーズという根気強く楽天的な人が彼らの前に現れるまでのことだが——の生活さえも変えられる力があることを、今まで見た中で一番説得力のあるかたちで提示する作品であった。

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