2010年記憶に残るもの 田中功起

【映画】

『キック・アス』

監督: マシュー・ヴォーン
シネセゾン渋谷他で公開中
http://www.kick-ass.jp/index.html


2010年/アメリカ・イギリス/117分/シネマスコープ/カラー/ドルビーSR・SRD/35mm/R-15+ 配給:カルチュア・パブリッシャーズ ©KA Films LP. All Rights Reserved.

今年の映画でどれをベストに上げるかといえば、たぶんこれだと思う。ぼくの見識がまずは疑われるけど。でも映画館で一番わくわくしていたのはこれを見ていたとき。「どうして誰もスーパーヒーローになろうとしないのだろう?」

『Catfish』(原題)

監督: アリエル・シュルマン、ヘンリー・ジュースト
日本未公開
http://www.iamrogue.com/catfish

Facebookの友だち申請ってまったく知らないひとからもやってくるし、そこでの出会いもきっとあるんだろう。ぼくは基本、知らないひとは受け入れませんけど。
で、このドキュメンタリー映画は見知らぬ家族とのオンライン上での出会いからはじまる。いつしかそれはその家族の長女とのバーチャルな恋愛に発展し、現実に会いにいこうとしたところからその世界は破綻する。
ミュージシャンだという彼女の歌は、だれかがアップしたYoutubeの音源をコピーしたものであり、彼女が住むという家は空き家であった。
そこには彼女がそうせざるをえないつらい現実があり、ここから物語は少々ホラー・テイストにまみれていくけれども、彼女の孤独は他人事ではない。

【本、プロジェクト】

『ハンス・ウルリッヒ・オブリスト、インタビュー Volume 1、上』

翻訳:前田岳究+山本陽子
発行:ジェイ・チュン&キュウ・タケキ・マエダ、Verlag der Buchhandlung Walther König

この本は単なる翻訳本というだけではなく、言語による格差に焦点を当て、それを顕在化させたプロジェクトだと思う。
ひとつの言葉を別の言葉にただ翻訳するだけでは実は意味が通じない。そこには文化的な背景の翻訳も必要であるからだ。
ローカルなアートシーンはグローバルなシーンとの関係で成り立つものだと思うけど、日本は言語的(+文化的)な切断によって、良くも悪くも、特殊な状況に置かれていると思う。これはつまりART iTがなぜ英語版と日本語版で内容を変えざるをえないのか、という問題とも共通する。ちなみにこの本が日本語であるにもかかわらず、日本で販売することが困難であり、それがヨーロッパで流通しているという状況自体も興味深い。

【展覧会】

アレクサンダー・カルダー 『The Paris Years 1926–1933』

2009年10月3日-2010年1月10日
オンタリオ州立アートギャラリー

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ぼくはカルダーをモービルの作家として片付けてしまって、とくに気にもとめていなかったけど、Jeppe Heinがカルダーのスタジオ・レジデンシーに参加したときの「サーカス・ヘイン」に誘われたころ、たまたまカルダーのトロントでの展覧会を見る機会があり、どんな共通点があるんだろうと見にいってみました。
カルダーはミニチュアのサーカス小屋をつくり、そのなかでワイヤーやひもなどの素材を駆使して綱渡りやライオンの火の輪くぐりを再現する。
この活動がのちのモービルにつながっていくわけで、いわば彼の活動の核となる部分がすべて「サーカス」には入っている。
展覧会ではこの「Le Grand Cirque Calder」のドキュメント映像、実際に使用したミニチュアを中心に構成されていた。


同展覧会は、ホイットニー美術館(2008年10月16日-2009年2月15日)およびポンピドゥセンター(2009年3月18日-7月20日)の共催で行われ、その後オンタリオ州立アートギャラリーに巡回した。

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