2014年3月21日より、第19回シドニー・ビエンナーレが、シドニー現代美術館(MCA)やニュー・サウス・ウェールズ州立美術館を中心に開幕する。アーティスティック・ディレクターはオーストラリア現代美術センター・ディレクターのジュリアナ・エングバーグが務める。
エングバーグは、アーティストを「メタファーや物語、詩によって観客をこの世界の探求へと引き込んでいく能動的な哲学者」として捉え、「You Imagine What You Desire」というテーマのもと、参加アーティストの創意や欲望を通じて、現代における美的経験や世界の探求へと迫るビエンナーレを試みる。参加アーティストには、エングバーグがシニア・キュラトリアル・アドバイザーを務めた2007年の第52回ヴェネツィア・ビエンナーレのオーストラリア館での展示に参加したスーザン・ノリーやカラム・モートンをはじめ、エングバーグと共同でプロジェクトや個展を実施した経験を持つアーティストや、ダグラス・ゴードンやワエル・シャウキーといった国際展の常連アーティストなど、世界31の国や地域から90名が並ぶ。
メイン会場のひとつであるシドニー現代美術館では、ピピロッティ・リストが今回のビエンナーレのために制作したサイト・スペシフィックな映像インスタレーションや、ダグラス・ゴードンの「Phantom」(2011)をはじめとするシュルレアルかつ想像力を刺激するような作品を展示。ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館では、ドゥアン・インメイ[段英梅]の会期中を通して行なわれるパフォーマンスやミルチャ・カントルの「Sic Transit Gloria Mundi」(2012)など、人間の多様性や地政学、文化行為を探求する作品が展開される。また、今回初めて会場として使用される元鉄道車両工場を改装したキャリッジワークスでは、ヤエル・バルタナ、マティアス・ポレドナらの映像作品の上映のほか、タシタ・ディーンの新作の世界初上映が予定されている。そのほか、世界遺産に登録されているコッカトゥー島でのサイト・スペシフィックな作品、市内中心部の劇場などで行なわれるパフォーマティブな作品が発表され、ネイサン・コリーの作品は複数の会場にわたって展開する。
今回のビエンナーレ開催にあたり、今年1月、シドニーで美術教育に関わるマシュー・キームが非人道的な事業を営む企業からの助成金という倫理的問題を問う抗議声明を発表し、続いて、地元のアーティストやビエンナーレ参加アーティストらが声明に賛同してボイコットを表明した。主なきっかけは、同ビエンナーレ運営委員長のルカ・ベルジオルノ・ネティスが役員を務め、同ビエンナーレのスポンサーでもあるトランスフィールド社の関連会社が、マヌス島(パプアニューギニア)にオーストラリアが設置した隔離方式による難民収容施設の運営の請負契約を受注したことによる。その後、ソーシャルメディアを巻き込んだ事態に発展していくと、3月7日に抗議声明を受ける形で、ベルジオルノ・ネティスは自身の辞任とトランスフィールド財団のスポンサー降板を発表することとなった。
なお、トランスフィールド社は1959年にトランスフィールド・アート・プライズを創設、1973年の同ビエンナーレ設立やその後の運営に対し、40年以上にわたって支援を続けていたため、同ビエンナーレの次回以降の開催が危ぶまれるとともに、オーストラリアの他の美術機関への支援への影響も心配されている。また、今回の騒動に対し、エンバーグはマヌス島などの隔離方式の難民収容施設への懸念は当然であると理解を示しつつも、その抗議活動の標的はビエンナーレではなく、政府であるべきではなかったかとのコメントを寄せている。
第19回シドニー・ビエンナーレ
2014年3月21日(金)-6月9日(月)
http://www.biennaleofsydney.com.au/