連載 編集長対談5:津村耕佑(前編)

日本的アートとは:ファッションとアートの「機能」と「非機能」

「究極の家は服である」という考えのもと、サバイバルをテーマにしたファッションを創出したデザイナーは、アーティストとしても活躍している。ファッションとアート、両方のジャンルにまたがる制作活動から見えてくる日本的な表現とは何か。

構成:編集部

後編はこちら編集長対談 目次

見方によってアートにもなるし、使えば機能するものにもなる。
そういう状態に興味がありました。


津村耕佑

小崎 津村さんは「FINAL HOME」のファッションデザイナーとしてだけでなくアートシーンでも活動されていますが、そのきっかけを伺えますか。

津村 高校生のころから応募していた装苑賞を取った後、22歳で三宅デザイン事務所に入りました。そしてすぐに、次はアートの賞を取ろうと思い、『現代日本美術展』に応募して準大賞を取ったんです。布のような性質があり、立体造形も可能なパンチカーペットを使った作品で、ファッションを手がけるのに近い感覚で制作したものです。

当時、ファッション雑誌と同じように『美術手帖』も読んでいたんですが、ヨーゼフ・ボイスのピアノをフェルトで包んだ作品を見て非常に影響されました。帽子にフィッシングベストというちょっとスタイリッシュな雰囲気やパフォーマンスが、アートだけどファッションっぽく見えたんですね。ボイスの作品は、戦時中に飛行機が迎撃されて墜落したときに自分を守ってくれた毛布や脂肪など、プリミティブな素材の物質感に誘発されている。その点ではファッションデザイナーが素材にこだわるのと似ていると感じていました。

小崎 津村さんの作品は、異質な素材を組み合わせたものや、多機能のものが多いですね。ファッションの素材を転用したものもあります。

津村 例えばポケットのように、機能する場合とそうでない場合があり、機能しないときにそれは「飾り」になります。帽子やバッグなどは、身体から離して置いておくとオブジェになる。デュシャンの便器じゃないですが、見方によってアートにもなるし、使えば機能するものにもなるという状態に興味がありました。
 
日本の着物も、衣紋掛けに掛けて屏風絵のように飾ることもできれば、寝具にもなるという多機能な世界観を日本人は持っている。機能する/しないで、アートになったりそうでなくなったりするのは、非常に日本的だと思います。ところが、ヨーロッパからアートという概念が入ってきたときにアートの多機能性が否定され、ひたすらヨーロッパのスタイルを追い続けるばかりの状態になってしまったのではないかと思います。

小崎 「アート」という言葉では呼ばれていないけれども、欧米以外の国にも当然、伝統的に美しいものや視覚表現を追求したものはあった。「アート」という概念が近代化と同時に入ってきたとき、それらがどのように、そしてなぜ変わらなければならなかったか、またこれからも変わっていくのか。そういったことがこの連続対談のテーマになっています。


左:「Queen Giddra」2008年 ミクストメディア 38x42x23cm
右:「Borderless Frame」2008年 ミクストメディア 90x117x16cm
Courtesy the artist and NANZUKA UNDERGROUND

2008年にNANZUKA UNDERGROUNDで行われた津村さんの個展『夢神/MUZIN』では、ゴブラン織りを使った作品と、チープな模写の油絵に手を加えた平面作品というふたつの方向性がありましたね。

津村 ミッキーマウスの頭やキングギドラ、ハイヒールなどを果物のように皿の上に盛ったものや、キャンバスには何も描かずフレームだけにオブジェを付けて布で包んだ作品と、近代名画の模写をネットオークションで5000円くらい出して買い、その画家のタッチを絵の上から雰囲気で付け加えるという絵画シリーズを展示しました。カモフラージュプリントに侵されていくようなイメージです。ゴッホの不吉な感じの夜の絵が、日本の刺青に思えたのでタトゥーのように竜を描き加えてみたり。ゴッホはジャポニスム期に浮世絵に影響を受けているので、日本の刺青も絶対合うはずだと。


「Doragogh」2008年 61x50cm カンバス、油彩 

Courtesy the artist and NANZUKA UNDERGROUND

小崎 これらも日本的あるいは非欧米的なアートを考えるヒントになると思います。対談に際して考えたキーワードがふたつあって、ひとつは「キッチュ」。まがいものを意味するこの言葉はアートの世界でも使われます。もうひとつのキーワードは「キャンプ」。批評家のスーザン・ソンタグが「《キャンプ》についてのノート」の中で説明しているのですが、乱暴に要約して言うと、権威に対して反抗したり、既成の概念を疑ったりするときに、キッチュ的なものを盛り込むことで、権威を笑い飛ばしつつ対象化して批判する手法です。津村さんばかりでなく、日本や非欧米の少なからぬ作家たちが、キッチュ的な、あるいはキャンプの精神に基づいた表現をしていると思うんです。

後編はこちら連載 編集長対談 目次

2009年10月18日にDAY STUDIO★100(Vantan渋谷校)にて行われた対談を収録しました。

つむら・こうすけ

ファッションデザイナー。1959年埼玉生まれ。82年に第52回装苑賞受賞、翌年、三宅デザイン事務所に入社。94年に自らのブランド『FINAL HOME』を立ち上げる。第12回毎日ファッション大賞新人賞受賞。造形作家としての活動も継続して行なっており、92年「第21回現代日本美術展」にて準大賞受賞。『SAFE Design Takes On Risk』展(2005-6年、ニューヨーク)、『美麗新世界』展(北京ほか)、『TOKYO FIBER09』(ミラノ、東京)など多くの展覧会に出品。おもな個展に『夢神/MUZIN』(東京)、企画展に『THIS PLAY』(07年、東京)、『DREAM CONSCIOUS かたちになりかけた夢』(09年、東京)などがある。著書に雑誌『ART iT』での連載「妄想オーダーモード」を書籍化した『ファンタジー・モード』がある。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。

2月にNANZUKA UNDERGROUNDにて個展を開催。
『MODE less CODE』
2月20日(土)〜3月20日(土)
http://www.nug.jp/

ART iT公式ブログ:津村耕佑

Copyrighted Image