8_ムナム アパン 「ホームアゲイン」展作家解説[原美術館]

「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」展出品作家メールインタビュー。2009年に滞在制作をしムナム アパンは、無意識や偶然性にまかせて手を動かし幻想的な世界を紡ぎ出しています。聞き手: NPO法人アーツイニシアティヴ東京[AIT/エイト] *この文章は展示室にも掲示されております。


本展記者会見にて 撮影:木奥惠三

ムナム アパン Minam Apang インド 1980年生
インドのゴア在住。ムンバイの美術学校で修士号を取得。無意識や偶然性にまかせて手を動かすことで生まれる幻想的な世界を、紙や糸を使い、小さいながらも緻密なドローイングで描きだす。そこに映し出されるのは、アパンの出身地であるインド北東の部族が口頭伝承で語り継いできた物語である。アパンは、そうした物語を文字や符号、シルエットの数々に置き換えることで、物語の意味や情景を幾通りにも紡いでいく。東京滞在中(2009)には、丁寧に描き込まれたドローイングを折り曲げたり立てたりすることで平面的表現を立体作品へと展開させた作品を制作。

問1:あなたの作品は故郷の神話や民間伝承に深い関係がありますね。なぜそういったものが重要なのでしょうか?いわば夢の風景のようなものなのでしょうか。

わたしが自分の地域の神話などに目を向けたきっかけは、神話を通して自分自身の歴史や「家」との関係に回帰する絆を得られるからです。創世のお話というのは、わたしたちと自然環境との関係を理解するための、想像による前科学時代的な方法を提供してくれます。こうした物語の柔軟で非論理的な構造は、わたし自身の家との複雑な関係をつつみこんで、そうですね、神話の流動的で想像による世界から、探検すべき意味ありげな夢の風景が出されてくるのです。

問2:東京で制作した作品には、忠犬ハチ公など日本で見つけた題材がありますね。こうした作品を通して新しい物語を紡ぐつもりなのですか、背景の異なる伝説などを混ぜ合わせて? 

日本滞在中、死後の世界や死者との関係を探求することに興味がありました。わたしの作品の中でも、ハチ公(実は前にも探求したモチーフで今回そこに戻ってきたわけですが)はそのてっぺんに来るもので、過去と現在をつなぐ、ある種の入口のような橋の始まりと言えます。流布している著名なお話に拮抗する新しいお話を自分が書いているとは思いません。こうしたお話をいわば自分のものとして再活用し、自分の言葉で語り直すことで、そこにある思想をさらに探求しようとしています。


ムナム アパン 「ヒルサイド・ストーリーズ:影を運ぶ犬―ハチ公の記憶」
綿糸、糊、紙、タモ材台座 2008年 26 x 56 x 15 cm(作品)、52 x 90 x 40 cm(台座) 個人蔵 撮影:木奥惠三

問3:作品に使う神話・説話はどうやって選んでいますか。 生と死や、あるいはあなたの出自に固有のものに関連するものが多いですね。

必ずしもアルナーチャル プラデーシュ州(インド北東部にある作家の出身地)のお話ばかりというわけではありません。初期の作品では、創造する力というものに興味があったので、創世や誕生のお話を選んで使っていました。そのあと旅とか変化にまつわるお話にも惹かれましたが。同時に、神話的空間の中で交換可能または循環するような、生と死のお話にも興味を持ちました。時には生ではなく死を、今ここの実体ではなく亡霊を見つめることで、逆に生を肯定できる・・・眼前にあるものを理解するために反対の面を見るというやり方をしています。

問4:あなたは今日では神話・説話が忘れられつつあると思いますか。あなたの作品は何かを忘れないようにするものなのでしょうか。

私が神話・説話を取り入れるようになった当初は、アディ族社会では文字で書かれた説話がないために、忘れられようとしているというのがありました。そうした物語を思い出し、イメージし直すプロセスでした。なぜなら、そうしたお話自体が、別の時代の一種の痕跡であり、自分たちが生きる世界についての前科学的知覚だからです。歴史、物語、ドローイングとイマジネーションがひとつになって全く予期しない何かになるような、開かれた実践に興味を惹かれています。

問5:今回の展覧会で展示する新作について。

今回発表している作品は、2011に制作した「熱帯雨林の中の死」からの一部です。私の作品の多くが物語や神話を読み直したものを表現していたと考えると、これらの作品は、描くという行為そのものの黙想録だと考えられます。形状や表現の構造そのもの、またそれらがどのように解釈できるかに興味がありました。いわばこの作品は、オリジナルの精巧な模倣ではなく、想像を介して木の幹や動物のように変化し、フィクショナルなものとして浮かび上がります。対称的な描き方は、自らを映し出す思考における鏡と、自己と現実を映し出す鏡を表しており、この作品の重要な部分を示唆しています。

Tumbler本展特設サイト http://homeagain2012.tumblr.com/
*BLOGにて作家や展覧会の動向を随時更新します。

————————————————————–
「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」
8月28日[火]-11月18日[日]

「MU[無]―ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」
12月7日[金]-2013年3月10日[日]

原美術館とハラ ミュージアム アークはTwitterで情報発信中。
http://twitter.com/haramuseum (@haramuseum)
http://twitter.com/HaraMuseumARC (@HaraMuseumARC)

原美術館とハラ ミュージアム アークは割引券一覧iPhoneアプリ「ミューぽん」に参加。
http://www.tokyoartbeat.com/apps/mupon

原美術館ウェブサイト
http://www.haramuseum.or.jp
http://mobile.haramuseum.or.jp

原美術館へのアクセス情報はこちら

Copyrighted Image