9_エリカ ヴェルズッティ 「ホームアゲイン」展作家解説[原美術館]

「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」展出品作家メールインタビュー。2010年に滞在制作をしたブラジル出身のエリカ ヴェルズッティは、今回の来日中、卵をモチーフにした新作「半熟」(2012年 33 x 33 x 7 cm)を制作しました。聞き手: NPO法人アーツイニシアティヴ東京[AIT/エイト] *この文章は展示室にも掲示されております。


本展記者会見にて 撮影:木奥惠三

エリカ ヴェルズッティ Erika Verzutti ブラジル、1971年生
ブラジルのサンパウロ在住。ロンドンのゴールドスミス カレッジで学ぶ。東京都現代美術館の「ネオ・トロピカリア:ブラジルの創造力」展(2008)にも出品。ブロンズや粘土、セメント、紙とともに、本物あるいはフェイクの野菜や果物、既製品など、さまざまな素材を自由に組み合わせ、自由自在で有機的なイメージを持つ彫刻や絵画を制作する。東京滞在中(2010)には、フェルトペンを使ったドローイングとコンクリートによる彫刻を制作。

問1:2010年の東京滞在では、日常的なモチーフを一連のドローイング作品として制作しましたね。それらはユーモアに溢れた視点で描かれていたり、時に奇妙な要素もあったように見えます。

ドローイングや絵画を自由な気持ちで描くのはとても難しいことです。この時のドローイングも、実際はとても真剣に取り組んでしまいました。東京にいるからこその集中力に後押しされ、とにかく日課のようにドローイングを描きました。そして、ユニークなものを描こうと意識しました。このときに制作した一連のドローイングは、それぞれが違う表され方をしているのが特長です。滲んだ絵具の様子が面白いものもあれば、「銀座」のように、地下鉄の駅の往来で見た奇妙なブロンズ像を描いた、モチーフとしての面白さもあります。

問2:東京で作品を制作したとき、灰色一つでも何種類もの色調に分かれたペンのほか、紙、粘土、ビーズなど、さまざまな素材を楽しんでいる様子でした。こうした素材やそのときの実験的な制作は、その後の作品にも反映されていますか。

灰色のペンの色調の豊かさを知ったことは、その後の私の制作にとってとても重要です。灰色がとても好きな色であることにも気づきましたし、それによって表現できる自然な影の色や、冷たさをたたえた影の色などにも気づきました。そして灰色はまた、東京で制作した彫刻作品で使った素材とも繋がります。東京では粘土を使ってみたり、それをコンクリートと混ぜる工夫も行い、その楽しさを知りました。「カルボナーダ」という彫刻は作るのに骨が折れましたが、勉強になりました。


展示風景 撮影:木奥惠三

問3:彫刻は、銅像のような記念碑的なものではなく、どちらかというと日常の延長にあるものとしてとらえているのでしょうか。素材使いの妙も一つの特長ですね。

確かに、通常はアート作品に使わないようなものを取り入れた彫刻を好んでいます。そうした素材は、質感や色、それが持つ温度などがとても魅力的です。もちろん、粘土や石などの純正な素材は好きですが、たまにアイスクリームなどの素材を使えないかと考えることがあります。一方で、既製品やテキスタイルなどは、その素材に好奇心はあっても、制作という視点でみると、私の表現には合致しません。

問4:なぜ、動物や果物がたびたび作品に使われているのでしょう。時に不思議な形をしているものもありますし、私たちがそこから特定の何かを想像できるものもありますね。

その質問を聞くと、いろんな形が別のものに見えることが本当に多いと思います。有機的で、不均整なもの、上品過ぎないもの、そういった私たちの感覚を豊かにしてくれる形が好きです。フルーツは、特にこうした複雑な形状を表現するのにうってつけで、自然の形を再現することは決してできません。私は、フルーツにあえて幾何学的な表現を織り交ぜることで、人間が創造できる形の限界も表そうとしているのです。それと同時に、自然を再現しようという試みにおいて、彫刻はある種ユートピア的な造形言語になり得るところが好きです。私はこの可能性と不可能性の間で表現を行っているのだと思います。

Tumbler本展特設サイト http://homeagain2012.tumblr.com/
*BLOGにて作家や展覧会の動向を随時更新します。

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「ホームアゲイン―Japanを体験した10人のアーティスト」
8月28日[火]-11月18日[日]

「MU[無]―ペドロ コスタ&ルイ シャフェス」
12月7日[金]-2013年3月10日[日]

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