第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ、参加アーティストを発表

 

2026年2月25日、ヴェネツィア・ビエンナーレ事務局は、5月に開幕する第61回ヴェネツィア・ビエンナーレの企画展「In Minor Keys」に参加する111人/組のアーティストをはじめ、ヴィジュアル・アイデンティティや展示デザインなどを発表した。日本を拠点に活動するアーティストとしては、嶋田美子ブブ・ド・ラ・マドレーヌが参加。また、トロントを拠点に活動する日系カナダ人のアレクサ・クミコ・ハタナカや、ニューヨークを拠点に活動する日系アメリカ人のキャリー・ヤマオカ(クィア・アート・コレクティブ「フィアース・プッシー(fierce pussy)」を取り上げた展覧会「arms ache avid aeon」としてのエントリー)も選出された。

第61回ヴェネツィア・ビエンナーレは、昨年5月に急逝した同展キュレーターのコヨ・クオの遺志を受け継ぐキュラトリアル・チーム(ゲイブ・ベックハースト・フェイジョ、マリー゠ヘレン・ペレイラ、ラシャ・サルティ、シッダールタ・ミッター、ローリー・ツァパイ)が彼女と共に構想してきた展覧会の実現を目指す。生前既に「In Minor Keys(短調で)」と題したキュラトリアル・テキストを書き上げていたクオは、展覧会全体の構想から理論的な枠組みの設定、出品するアーティストや作品の選定だけでなく、ヴィジュアル・アイデンティティや展示デザインの方向性など、キュラトリアル・チームと共に展覧会制作を進めていた。展示デザインを担当するウォルフ・アーキテクツと、ヴィジュアル・アイデンティティを担当するクラリッサ・ヘルプストのふたりもクオ自身に任命されている。ケープタウンを拠点に活動するウォルフ・アーキテクツは、オルタナティブな理解や経験への入り口となる境界が有する変化をもたらす力に着目し、企画展「In Minor Keys」の会場となるジャルディーニとアルセナーレの展示空間を設計していく。また、ヘルプストはアレックス・ゾンダーレッガーと協働し、日本語の「木漏れ日」に着想したデザインを考案した。

 

Guadalupe Maravilla, ICE Age Disease Thrower #1 (2025) Courtesy the artist and P·P·O·W Gallery, New York
Nairobi Contemporary Art Institute (NCAI), Driciru C CrowdandInsects (1976)

 

「女性」のアーティストが約9割を占め、シュルレアリスム運動の再検討を試みた第59回展、国家や領土あるいは規範的なジェンダーなどの枠組みにおいて「foreigner(よそ者)」に位置付けられた人々や非欧米圏におけるモダニズムに着目した第60回展に続く、第61回展「In Minor Keys」は、その生涯にわたり、さまざまな場所で出会ってきたアーティストたちの独創性や、素材に対する実験的探求、先見的なアイディアが、同時期に活動する他のアーティストたちや運動とどのように繋がっているのかを思い描こうとしたコヨ・クオによる関係論的地理学を示す内容となる。展覧会を構成する複数のモチーフには、トニ・モリスンの『ビラブド』やガブリエル・ガルシア゠マルケスの『百年の孤独』などの文学的参照のほか、「Shrines(聖堂)」「Procession(行進)」「Schools(学校)」「Rest(休息)」「Performances(パフォーマンス)」が含まれる。「Shrines」に位置付けられたジャルディーニのセントラル・パビリオンで来訪者を最初に迎える空間では、クオに多大な影響を与えたイッサ・サムとビバリー・ブキャナンの二人のアーティストへのオマージュが捧げられる。セネガル出身のイッサ・サム(1945–2017)は、アーティスト、詩人、劇作家、そして、ダカールを拠点に活動した伝説的アーティスト・コレクティブ「Laboratoire Agit’Art」の共同設立者。サムをクオは絶対的存在、師と仰ぎ、国際的なプロジェクトにおいて、彼の実践や哲学を尊重していた。ジョージア州を拠点に活動したアフリカ系アメリカ人のビバリー・ブキャナン(1940–2015)は、ヴァナキュラー建築や記憶の場に対するアンチ・モニュメンタルなアプローチを通じて、アメリカ南部の文化や歴史を扱う芸術実践に取り組んだ。どちらも、芸術を単なる物体を超越し、従来の保存方法に収まらない、生成的なものとして認識していた。

「In Minor Keys」の参加アーティスト・リストは最下部に記載。

 

Ebony G. Patterson, …fester… (2023) Hand-cut jacquard woven photo tapestry with glitter, trim, tassels, lace, metal, plastic and glass beaded pins on foam and wood armature. White blown-glass plants, black flame-worked glass plants, gold leaf on found plastic
spine, glittered resin vultures, and artist-designed vinyl wallpaper. Dimensions variable, Courtesy the artist, Monique Meloche Gallery, and New York Botanical Garden.
Léonard Pongo, Art Brussels, installation view, 2023. Photo We Document Art. Courtesy Kristof De Clercq

 

そのほか、「In Minor Keys」の枠組みで、ヴェネツィア・ビエンナーレが主催するふたつの特別プロジェクトがアルセナーレ(サーレ・ダルミ)と本土側のメストレ地区のフォルテ・マルゲーラで開催される。アルセナーレ(サーレ・ダルミ)で開かれるヴィクトリア&アルバート博物館との共同企画「応用美術館(Applied Arts Pavilion)」には、コロンビア出身で10代で家族と共にアメリカ合衆国に亡命した経験を持つガラ・ポラス・キム(1984年ボゴタ生まれ)が参加。文化遺産や文化財の持つ本来の意味が、美術館や文化機関が使用する現行の分類体系の下で忘却されたり、誤って解釈されてきた現状を問い直してきたポラス・キムが、保存修復家や学芸員を含む美術館分野のさまざまな関係者と共に、保存修復の枠組みや文化財の意味や機能に対する検討を試みる。一方、フォルテ・マルゲーラのポルヴェリエラ・オーストリアカ(Polveriera austriac)では、来訪者が横たわり物思いに耽る場となるテミタヨ・オグンビイの彫刻、ウリエル・オルローによるビエンナーレを植物の視点から眼差す地図、さらに、ファブリス・アラーニョがジャン゠リュック・ゴダールの『イメージの本』を大胆に再解釈した作品を歴史的要塞の建物内に展開する。

 

第61回ヴェネツィア・ビエンナーレ
「In Minor Keys」
2026年5月9日(土)-11月22日(日)
https://www.labiennale.org/
アーティスティックディレクター:コヨ・クオ(1967–2025)

 

参加アーティスト
ピオ・アバド|Pio Abad
フィリップ・アギーレ・イ・オテギ|Philip Aguirre y Otegui
アキンボデ・アキンビイ|Akinbode Akinbiyi
ローリー・アンダーソン|Laurie Anderson
ファブリス・アラーニョ|Fabrice Aragno
アームズ・エイク・アヴィッド・イオン(ナンシー・ブルックス・ブロディ、ジョイ・エピサラ、ゾーイ・レオナルド、キャリー・ヤマオカ、フィアース・プッシー、ジョーイ・タン)|arms ache avid aeon(Nancy Brooks Brody, Joy Episalla, Zoe Leonard, Carrie Yamaoka, fierce pussy, Jo-ey Tang)
カデール・アティア|Kader Attia
サミー・バロジ|Sammy Baloji
ランティ・バム|Ranti Bam
アルヴァロ・バーリントン|Alvaro Barrington
エリック・ボードレール|Éric Baudelaire
サビアン・バウマン|Sabian Baumann
ブラックスタルライン・クマシ|blaxTARLINES KUMASI
ビバリー・ブキャナン|Beverly Buchanan
セーニ・アワー・カマラ|Seyni Awa Camara
ニック・ケイヴ|Nick Cave
キャロリーナ・カイセド|Carolina Caycedo
アナリー・デイヴィス|Annalee Davis
ブブ・ド・ラ・マドレーヌ|BuBu de la Madeleine
ドーン・デドー|Dawn DeDeaux
ノーラン・オズワルド・デニス|Nolan Oswald Dennis
デニストン・ヒル|Denniston Hill
ボニー・デヴァイン|Bonnie Devine
ゴッドフリード・ドンコル|Godfried Donkor
マルセル・デュシャン|Marcel Duchamp
エドゥアール・デュヴァル゠カリエ|Edouard Duval-Carrié
トルクワセ・ダイソン|Torkwase Dyson
ラナ・エルネムル|rana elnemr
テオ・エシェトゥ|Theo Eshetu
レイチェル・ファロン(with アリス・マーハー)|Rachel Fallon (with Alice Maher)
G.A.S.ファウンデーション|G.A.S. Foundation
ソフィア・ガリサ・ムリエンテ|Sofía Gallisá Muriente
アデブンミ・バデボ|Adebunmi Gbadebo
レオニルダ・ゴンサレス|Leonilda González
リンダ・グッド・ブライアント|Linda Goode Bryant
ジョアナ・ハッジトマス&ハリール・ジョレイジュ|Joana Hadjithomas & Khalil Joreige
アレクサ・クミコ・ハタナカ|Alexa Kumiko Hatanaka
アイルソン・エラクリト|Ayrson Heráclito
クラリッサ・ヘルプスト&ドミニク・ルスト|Clarissa Herbst & Dominique Rust
ニコラス・ホロボ|Nicholas Hlobo
カールステン・ヘラー|Carsten Höller
ソーラブ・フラ|Sohrab Hura
アルフレッド・ジャー|Alfredo Jaar
ムハンマド・ジョハ|Mohammed Joha
マイケル・ジュー|Michael Joo
ニナ・カチャドリアン|Nina Katchadourian
ボディス・イセク・キンゲレス|Bodys Isek Kingelez
サンドラ・クネヒト|Sandra Knecht
マルシア・キュレ|Marcia Kure
ナタリア・ラサール・モリージョ(in collaboration with グロリア・モリージョ)|Natalia Lassalle-Morillo (in collaboration with Gloria Morillo)
フロランス・ラザル|Florence Lazar
ダン・リー|Dan Lie
ワラワラ・リキン|Werewere Liking
ルガール・ア・ドゥダス|lugar a dudas
ダニエル・リンド゠ラモス|Daniel Lind-Ramos
アリス・マーハー|Alice Maher
マリア・マグダレーナ・カンポス=ポンス&|Maria Magdalena Campos-Pons & Kamaal Malak
センゼニ・マラセラ|Senzeni Marasela
グアダルーペ・マラヴィーヤ|Guadalupe Maravilla
マニュエル・マチュー|Manuel Mathieu
ジョージナ・マキシム|Georgina Maxim
ティオナ・ネキア・マクロデン|Tiona Nekkia McClodden
ビッグチーフ・デモンド・メランコン|Big Chief Demond Melancon
アヴィ・モグラビ|Avi Mograbi
ワンゲシ・ムトゥ|Wangechi Mutu
ナイロビ・コンテンポラリー・アート・インスティテュート| Nairobi Contemporary Art Institute (NCAI)
エウスタキオ・ネヴェス|Eustaquio Neves
トゥアン・アンドリュー・グエン|Tuấn Andrew Nguyễn
タミー・グエン|Tammy Nguyen
オトボン・ンカンガ|Otobong Nkanga
カロキ・ニャマイ|Kaloki Nyamai
テミタヨ・オグンビイ|Temitayo Ogunbiyi
ポーリン・オリヴェロス|Pauline Oliveros
カンブイ・オルジミ|Kambui Olujimi
ハガル・オフィール|Hagar Ophir
ウリエル・オルロー|Uriel Orlow
エボニー・G・パターソン|Ebony G. Patterson
ラジニ・ペレラ&|Rajni Perera & Marigold Santos
タニア・ピーターセン|Thania Petersen
アラン・フィーラン|Alan Phelan
ジョハネス・ポケラ|Johannes Phokela
レオナール・ポンゴ|Léonard Pongo
ワリッド・ラード|Walid Raad
ムハンマド・Z・ラーマン|Mohammed Z. Rahman
RAWマテリアル・カンパニー|RAW Material Company
タビタ・レザール|Tabita Rezaire
グアダルーペ・ロザーレス|Guadalupe Rosales
ヨ・イ・リョウ|Yo-E Ryou
カレド・サブサビ|Khaled Sabsabi
ローズ・サレーヌ|Rose Salane
イッサ・サム|Issa Samb
アミナ・サウディ・アイット・カイ|Amina Saoudi Aït Khay
キャリー・シュナイダー|Carrie Schneider
ハラ・シュケール|Hala Schoukair
ベルニ・サーレ|Berni Searle
マハボ・マプラ・ヘレン・セビディ|Mmakgabo Mmapula Helen Sebidi
ワルダ・シャビール|Wardha Shabbir
嶋田美子|Yoshiko Shimada
ヒマリ・シン・ソイン&ダヴィッド・ソイン・タッペサー|Himali Singh Soin & David Soin Tappeser
ブシュレベジェ・シワニ|Buhlebezwe Siwani
コーリーン・スミス|Cauleen Smith
ヴェラ・タマリ|Vera Tamari
蔡明亮[ツァイ・ミンリャン]|Tsai Ming-liang
ヴィクトリア゠イドンゲシット・ウドンディアン|Victoria-Idongesit Udondian
セリア・バスケス・ユイ|Celia Vásquez Yui
ケマン・ワ・レフレーラ|Kemang Wa Lehulere
ケネディ・ヤンコ|Kennedy Yanko
ラエド・ヤシン|Raed Yassin
サワンウォン・ヤンフェ|Sawangwongse Yawnghwe
ビリー・ザンゲワ|Billie Zangewa

応用美術館(Applied Arts Pavilion)
ヴェネツィア・ビエンナーレおよびヴィクトリア&アルバート美術館による特別企画
ガラ・ポラス・キム|Gala Porras-Kim

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