2013年ヴェネツィア・ビエンナーレ日本館の作家は田中功起に



A Piano Played by Five Pianists at Once (First Attempt),
(2012), Video Installation with HD video (50min), Drawing, Temporary wall
Created with University Art Galleries, University of California, Irvine, Courtesy of the Artist, Vitamin Creative Space, Guangzhou and Aoyama Meguro, Tokyo

2012年5月14日、国際交流基金は2013年に開催される第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展の日本館キュレーターおよびアーティストを発表。キュレーターに東京国立近代美術館の蔵屋美香、アーティストには田中功起が選出された。

蔵屋は、東日本大震災を経験した日本が世界に向けてどのようなメッセージを発するべきかという問いに向き合い、田中の映像作品とインスタレーションを通して「他者の経験を自分のものとして引き受けることはいかにして可能か」というテーマに取り組む。展示プランは、震災のさまざまな側面に直接的、間接的に言及するいくつかの「練習問題(exercise)」を通して、経験共有のためのプラットフォームの実現を目指す。
今回のコンペティションには、6名中4名のキュレーターから、杉本博司、オノヨーコ、川俣正、河原温など既に国際的に高い評価を確立しているアーティストの個展形式の展示プランが提出された。しかし、実力と実績が備わった若いアーティストのさらなる飛躍という日本館が目指す方向性のもと、選考が進んだ模様。最終的に、前回の束芋と同じ1970年代生まれの石田尚志と田中功起のふたりのうち、田中が選出された。

田中功起は、現在ロサンゼルスを拠点に活動。2000年以降、国内外で数多くの個展を開催、企画展に参加している。近年開催された主な個展に『雪玉と石のあいだにある場所で』(2011, 青山|目黒)、『Dog, Bus, Palm Tree』(2011, ザ・ボックス、ロサンゼルス)、『Nothing related, but something could be associated』(2010, イエルバ・ブエナ・アート・センター、サンフランシスコ)がある。主な企画展に、ヨコハマトリエンナーレ2011、第7回光州ビエンナーレ(2008)、『笑い展』(2007, 森美術館)、『夏への扉:マイクロポップの時代』(2007, 水戸芸術館)、『国立新美術館開館記念展:20世紀美術探検』(2007, 国立新美術館)などがある。ART iTでは、2009年より『田中功起 質問する』を連載中。
蔵屋美香は東京国立近代美術館の美術課長を務め、近年では同美術館にて『ヴィデオを待ちながら—映像、60年代から今日へ』(2009)、『ぬぐ絵画 日本のヌード 1880-1945』(2011)などの企画を担当。

第55回ヴェネツィア・ビエンナーレは2013年6月開催予定。アーティスティックディレクターはマッシミリアーノ・ジオーニが務める。サラ・ジー(アメリカ合衆国)、アンリ・サラ(フランス)、ジェレミー・デラー(イギリス)、シムリン・ギル(オーストラリア)など、各国パビリオンの代表アーティストについても一部、発表されている。

ART iTの取材に対し、田中功起は以下のコメントを寄せた。

「今回、ヴェネツィア・ビエンナーレの日本館代表に選ばれてとてもうれしく思っています。ぼくと蔵屋美香さんが何を行おうとしているのかについては国際交流基金より公開される二人のステイトメント (参照リンク: 国際交流基金ヴェネツィア・ビエンナーレプレスリリース)を参照してもらうとして、ここでは少し選考に関わるシステムについて書いておきます。

国別パヴィリオン代表はそれぞれの国によって選出方法が異なるとは思いますが、日本の場合はより独特で、国際交流基金が主催する、主に国公立美術館の館長や国公立美術館学芸員経験者による数名のコミッティによって、指名コンペというかたちでまず国内の学芸員数名(今回は6名)が選ばれます。候補者である学芸員は、その後、アーティストに個展あるいは二人展等の打診をし、企画を共に考えコンペに臨むというプロセスです。ただ、あくまでも候補者は学芸員であり、プレゼンテーションを含むインタビューにはアーティストは参加しません。

提出プランは異なりますが、ぼくは前回2010年のコンペにも今回と同じ蔵屋美香さんと参加しました(参照リンク: 蔵屋美香+田中功起 ヴェネチア・ビエンナーレ日本館指名コンペ 落選案)。またこのコンペは非公開で行われます。選考委員の名前は事前に知らされますが、他の候補者やアーティストの名前は候補者間でも伏せられています。そして候補者および選考委員講評を含む情報公開は代表選出後、事後的に行われます。

ぼくはコンペというものは、選ばれる側が強調されがちですが、選ぶ側もある意味では試されている場だと思います。誰を候補者として指名するのか、あるいはあえてしないのか、どのプランを、誰を代表として選ぶのか、選ばなかったのか、そこにはどういう理由があるのか、あるいはないのか。いずれにしても情報が事後的に公開されるのならば、あらかじめそれを公開指名コンペとして行うこともできるはずです。コンペを公開することで、関心のある人びとはそれについてより多くの意見を発するでしょう。候補者の選考についても、候補者学芸員とアーティストのプランにもついてもより多くの意見が生じることでしょう。それは選考委員に対しても、候補者学芸員に対しても、アーティストに対しても、より豊かな議論の場を提供することになるでしょう。そしてそれは代表選出になにかしらの影響を及ぼすかもしれない。ぼくはその方が健全なんじゃないかなと思います。

アートはとかくひきこもりがちです。でもこの日本にも、60、70年代に美術館やギャラリーの外でアートが行われたという歴史がもうすでにあります。ぼくらもそれにあやかってそろそろ外にでかけましょう。」

国際交流基金:http://www.jpf.go.jp/
田中功起:http://kktnk.com/alter/

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連載 田中功起 質問する

(文中敬称略)

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