ヴィルヘルム・サスナル インタビュー (序文)

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インタビュー・文/アンドリュー・マークル(編集部)  

1972年にポーランド、タルノフで生まれたヴィルヘルム・サスナルは1989年共産主義から民主主義への転換後に出現した新しい世代の現代美術作家のひとりである。彼自身が撮影したもの、もしくは書籍、映画、インターネットなどから見つけた写真イメージを基にし、抽象と具象の要素を組み合わせた絵画作品がよく知られている。
これらの絵画作品は個人的親密性とある種の隔たりを持ったアイロニーの間で繊細なバランスを保っている。サスナルの作品に共通する主題には彼自身の家族や、体験といったものに加え、ポーランドの歴史、同国の第二次世界大戦中のホロコーストにおける役割について触れたものなどがある。またしばしばミニマリスト的なジェスチャーを通じて雰囲気を伝える、表現的な絵筆運びで彼自身が生まれ育ったタルノフ周辺の風景も「記録」しているが、例えばメキシコ人の報道写真家、エンリケ・メティニデスが撮影した航空機事故写真にソースをとりながら、実写真の後景に何人かが彷徨っている場面を除いてすべて灰色で霞ませた「Untitled (After Metinides)」(2003年)に見られる、ソースとなっているイメージから鍵となる細かい部分の痕跡を故意に消し去った作品もある。サスナルの作品は主題が多少なりとも個人的であるかどうか、もしくは皮肉っぽいか否かを決めつけるのは難しい。


Untitled (Metinides), (2003), oil on canvas, 130x110cm, courtesy Sammlung Goetz
Photographer: Wilfried Petzi, Munich

ひとつ言えるのは彼が人間の環境や営みに極めて敏感な観察者であるということであり、そしてそれは映像製作者としてのもうひとつの彼の実践においても明らかである。主に16mmカメラで撮影したものを、粘着的な行動や人工的な世界をひとつにする飴のような接着剤に調和する絵画的な目で映像作品を満たしていく。例えば「Marfa」(2005年)において、カメラは、作家が改造した車から流れ出し、巨大な機械のむき出しで肉付きのよい整備工に滲む油を長回しで撮影し続ける。また「Ranch」(2006年)では、新鮮な切り取ったばかりの牛の睾丸を間に合わせのグリルで焼き、男達が注意深く指で焼き上がる肉を掴む姿に照準を定めつつ幼い雄牛の角をとり去勢をする、牧場で働く人々の平常的な残酷さに魅せられ作品を制作した。
アートイット編集部はサスナルが前述の「Marfa」の他「Love Songs」(2005年)「Centrum」(2004年)と共に最近の絵画も含んだ、ラットホール・ギャラリーでの個展『16mm films』のオープニングのため来日した際に彼のインタビューを行なった。主に彼のフィルムと風景、絵画との関係やポーランドで過ごした青春時代、そして彼のポーランドの歴史に対するスタンスなどについて話を聞いた。サスナルの絵画そして映像制作という連携するふたつの実践を考えると、彼に風刺家や風変わりな民族学者的な部分が同居するのかと考えたくなる。しかしながら、作家が社会情勢について全包囲的に表現を実践しようとしていると我々が考えたとしても、作品に彼自身の主観的な見方が含まれている事実がその見方を常に崩してしまう。
本人が語るように、彼は物事の合理的な秩序から逃れる見方や感じ方という直観を使って世界に応じている。瑣末なことと重要なことの間に横たわる唯一の広がりを見つけている点において彼の作品は他のものと区別される。

ヴィルヘルム・サスナル インタビュー
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序文 | I. 1940年代生まれの世代といえば皆エルヴィスのファンで、私の母もその一人でした。
II. 静かな風景が語りだす | III. 不満を抱いたまま太陽が沈まないように »

第1号 選択の自由

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