森村泰昌モリエンナーレ/まねぶ美術史

2010年7月27日
『森村泰昌モリエンナーレ/まねぶ美術史』
高松市美術館
2010年7月17日–9月5日


手前: 田中敦子「電気服」(オリジナル1956/再制作1986)、奥: 森村泰昌「光と熱を描く人/田中敦子と金山明のために」(2010)

瀬戸内芸術祭が華々しく始まった香川県(芸術祭は岡山県にある犬島も含む)では、芸術祭の開催に先立つ7月17日、高松市美術館で『森村泰昌モリエンナーレ/まねぶ美術史』がスタートした。個展『なにものかへのレクエイム』が全国を巡回(現在は豊田市美術館で開催)している森村泰昌の、これまで未発表だった高校時代からデビュー前の作品を集めた展覧会である。

この展覧会では、高松市美術館が所蔵する日本近現代美術を中心としたコレクション作品を通して、それらの作品が当時森村に与えた影響と、森村が「まねぶ」(まなぶ・まねるの語源)ことを通じて表現手法やコンセプトを拡張し、自身の作法を確立していった過程を見ることができる。

展覧会の入口に展示されているのは森村が高校1年の時に描いた石膏デッサン。技術的に未熟であるこの作品を嚆矢に展覧会は始まる。展覧会場には森村が影響を受けたであろう作品と森村の作品が対になって展示され、さらに現在の森村による、当時の思いを端的につづった、時に自虐的とも見えるコメントがキャプションと併記されている。

本展は、一般にデビュー作とされている「肖像 ゴッホ」(1985)に行き着くまで、作家森村が如何に試行錯誤していたかが見て取れる。悩み多き時代の作品を露にしたという点で画期的であるが、森村の意図(決してあきらめるな、といった若い作家へのエール)とは逆に、アーティストが生まれながらにアーティストであるということを、図らずも証明している。つまりここで森村が見せているのは、技法の類似を通じた組み合わせを呈示しているにもかかわらず、彼の創作活動における模倣技術の発展といったような技術的なことではない。むしろ、美術に対する態度や、真摯な試みといったような、極めて理念的なことである。「まねぶ」技術が高じて現在、美術作品、映画女優、報道写真の登場人物に「巧く」なりきることができた、というような鑑賞者が期待する成功物語を見事に裏切る。



左: 岡本太郎「生成」(1961)、右: 森村泰昌「絵画の国へ2」(1976)

「まねび」の反復が生み出した作品、さらにそれらの作品が同時代の作品群に相似していたという「発見」の反復は森村にとって非常に重要であった。つまりこの反復の反復が、創作活動における主観性と客観性の双方を維持させ、あのデビュー作となる「肖像 ゴッホ」へと、技術ではなくコンセプトの発展によって繋がっている。もちろんこの展覧会では作家が自らを(少なくとも技術的には)天才と見なしていない謙虚な態度を持ってその過去のトレースを行っている。しかし、これほど常に美術および美術史を丹念に検証しつづけ、自らの作品をもって美術史と向き合っている作家は希有であり、その意味では、決して凡人には真似ができない、という事実が本展覧会を通じて顕然となっている。

一方で、作品以前の作品、つまり作家本人がこれまで発表すべき作品として認めていなかったものを美術館で展示することには矛盾をはらむ。作家が如何に自分の作品が美術史に沿っていたかと喧伝している展覧会、と悪意のある解釈も可能である。さらに形状や図柄が近似したものを並べていることで、キャプションから得られる制作年などの情報や、展覧会のコンセプトに対する理解が前提にあってこそ成立する組み合わせも存在する。作品として自立しない作品を作品たらしめているものが何か、美術館、作家、作品の定義について、観る者それぞれが考える必要があるだろう。

展示室の多くは「肖像 ゴッホ」以前の作品であるが、数点デビュー作以降の作品も含まれる。さらに最終展示室には、今回の展覧会のために制作した新作「蝶覚の彫刻/三木富雄のために」(2010)を三木富雄の「耳」(1964–65)と、「光と熱を描く人/田中敦子と金山明のために」(2010)を田中敦子の「電気服」(オリジナル1956年、再制作1986年)と共に展示している。「電気服」を使った後者の作品では、高松市美術館所蔵の、日本美術史においても重要なこの作品を、作家自身が使用していたように森村が使用し、作品化している。森村の「まねぶ」行為は彼自身が影響を受けた作品と一体化するという、究極の目的を果たしたように見える。

展覧会の最後に出品されているのは、高松市美術館に収蔵された森村の「ボデゴン(鼻付き洋梨)」(1992)と、その作品の修復研究の目的で制作した佐藤寛子の「森村泰昌《ボデゴン(鼻付き洋梨)》の複製」(2008)。「まねぶ」側から作品との「一体化」を経て、「まねばれる」側になった森村による見事なまでの物語の完結と言えよう。



手前: 小島信明「立像」(1990)、左: ジャスパー・ジョーンズ「二つの旗」(1980)、右: 森村泰昌「On Photographs Vol-3」(1981)

カタログ『まねぶ美術史』は赤々舎より発行。
本展覧会は今後、岩手県立美術館、高岡市美術館、北九州市立美術館分館ほかに巡回予定。

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