ニッポン国デザイン村:11

2011年11月14日
おかんアートという時限爆弾

メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアウトサイダー・アートであるとすれば、もうひとつ、もしかしたら正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォームがある。それが「おかんアート」。その名のとおり、「おかあさんがつくるアート」のことだ。なにそれ?と思うひともいるだろうが、たとえば久しぶりに実家に帰ると、いつのまにか増えている「軍手のうさぎ」とか、スナックのカウンターにある「タバコの空き箱でつくった傘」とか、あるでしょ。ああいうやつです。

どこにでもあって、だれからもリスペクトされることなく、作者本人もアートとはまったく思わず、売ったり買ったりもできず、しかしもらえることはよくあり、しかももらってもあまりうれしくない——そういうのが「おかんアート」の真髄だ。

近年、アウトサイダー・アートのほうはアートワールドの中でも地位を固めつつある。言い方を換えれば「インサイダー」になりつつあるわけだが、そうしたアウトサイダー・アート界からすら「これはアートじゃないでしょ!」と蔑まれる、究極にダサいアートフォーム。それが「おかんアート」であることに、異論を唱えるひとは少ないだろう。

もともと「おかんアート」が世に出た、というか一部の好き者から注目されるようになったのは、2003年に2チャンネル内に立てられた「脱力のオカンアートの世界」と題されたスレッドだと思われる。このスレッドは現在更新されていないようだが、まだ過去ログがまとめて見られるようになっている。実に珠玉としか言いようのない作品がたっぷりアップされているので、一見の価値あり(http://www.geocities.jp/loveokan/okanart/)。



          『おかんアート』(2010)

このスレッドに刺激されて、また同時期に日本各地で「おかんアート」に注目するひとが少しずつ増えていくのだが、神戸を拠点に探索活動を続けているグループ『下町レトロに首っ丈の会』もそのひとつ。伊藤由紀さんと山下香さんという、ふたりの神戸っ子が中心になって、神戸随一のレトロエリアというか、昭和そのままの街並みが残された、神戸の下町・兵庫区から長田区あたりをひたすら歩き回り、震災後の急激な再開発の陰で失われゆく下町情緒を再発見しようという、地道なフィールドワークを続けているグループである。

「最初は古い喫茶店や美容院や、そういうところを歩いていたんですけど、そのうちそういう場所にはやたらに”おかんアート”が飾られていることに気がついて、そうしたら今度はそっちが気になっちゃって」と話してくれたのは、フランスの政府公認建築家資格も持つ、建築家である”首っ丈の会・隊長”山下さん。

毎月第4日曜に開催されて、すでに40回を超える「下町遠足ツアー」や、「下町レトロ地図」刊行(英語版まであり!)といったプロジェクトのおりおりに「おかんアート」を収集し、制作者=アーティストを捜し出し、交流会やワークショップ、展覧会まで開き、ついに去年末には『おかんアート』(2010)なる日本初のガイドブックまで、自費出版で発表してしまった。





上段 アートに出会える場所、おかんアート地図 中段 キューピー編み物、カリスマアーティスト紹介 下段 おかんアーティスト教室、ボトル人形

通常の書籍流通にも、Amazonにものらないこの本の入手方法は、本文の最後に記しておくが、「おかんアート」の定義から始まって、さまざまなタイプの「おかんアート」の分類方法、カリスマ・アーティストの紹介、作り方のハウツウ、発見できる場所、さらに「兵庫区・長田区おかんアート地図」まで掲載されて、完璧。これ一冊持って、神戸の下町を歩き回ることを想像するだけで、すごく楽しくなる。

首っ丈の会による「おかんアート」の定義とは:

1)基本的に、非常に役に立つとは言い切れないが勢いはある。
2)いらないものの再利用(眠った子を起こす)。
3)飾る場所に困る。飾るときはビニールに入れたままにしたりする。
4)部屋のあらゆる場所に侵攻してくる。
5)センスが良いなど気にせず、セメントのズレなんかも気にしない。
6)なのに、暖かみだけは、熱いほどある。
7)作りすぎて置き場がなくなり、人への配布をスタートする。
8)置いた瞬間、どんなにおしゃれな部屋ももっさりさせる破壊力大。
9)とぼけた顔にイラッと来るか、なごまされるかはあなた次第。
10)フィーリングで作るキティとドラえもんは危険。







上段 広告箱、あくりるたわし、タオル犬 中段軍手を使って作ったピカチュウ 、安全ピン2 下段 タオル地の服、折り紙アートふくろう、牛乳パック箱

これって、読みようによっては、現代美術が(本来)目指すものと、まったくいっしょじゃないか。実用にならなくて、見るひとを困惑させて、オシャレ空間を一発で破壊して、勢いと熱さだけはあふれるほどあって。

プロのアート作品にも、アウトサイダー・アートにすら存在しない、「おかんアート」の一種独特の破壊力。僕もいまリサーチを始めたばかりだが、最初に「おかんアート」を「おかんアート」と認識して眺めたとき、まずこころに浮かんだのは「これ、ソニックユースのTシャツみたいだ!」という、唐突な連想だった。

結成から四半世紀を超えて、いまも活動中のソニックユースは、アメリカン・オルタナティブ・ロックの最重鎮的存在だが、彼らはまたクリスチャン・マークレー、リチャード・プリンス、ポール・マッカーシーなど、時代を画するアーティストたちとグラフィック面でのコラボレーションを長く続けていることでも、よく知られている。

こんなふうに見てしまうと、首っ丈の会をはじめとする「おかんアート」ファンには申し訳ない気もするが、彼らが音とグラフィックで描き出す、乾いて、暴力的で、パワフルなサバービア・ランドスケープと、母なる温もりにあふれた「おかんアート」は、一見対極の存在に見えながら、実はどれほど近くにいることか。だってマイク・ケリーの写真を使ったCDジャケットなんて、「おかんアート」そのものじゃないか。

100%の善意で作られたものが、見方をちょっと変えるだけで、冷酷なアイロニーのカタマリになったりする。かっこわるいもののはずが、突然かっこいいものに見えてきたりする。置かれる場所によって、だれにも望まれない飾り物になったり、バリバリの現代美術作品になったりする。

単一の価値観に収まりきれないものが現代美術の特質のひとつであるならば、もしかしたら「おかんアート」とはもっとも無害に見えて、もっとも危険な立体作品であるかもしれないのだ。





上段 マイク・ケリーの写真を使ったCDジャケット(参考図版) 下段 タオル犬、トイレットペーパー人形

神戸の第一人者・香坂さん

多発地帯1 駅構内

多発地帯2 商店

多発地帯3 信用金庫


『おかんアート』入手先:

【店舗販売】
海文堂書店(神戸元町商店街にある老舗書店)
〒650-0022
兵庫県神戸市中央区元町通3丁目5番10号
電話:078-331-6501
FAX:078-331-1664
http://www.kaibundo.co.jp/index.html

クレープと駄菓子の店「淡路屋」(下町レトロに首っ丈の会総本部)
〒652-0864
兵庫県神戸市兵庫区笠松通7-3-6「淡路屋」
電話&FAX:078-671-1939
http://awajiya.ko-co.jp/c6198.html

【通信販売】(メールかお電話でお申し込みください。)
下町レトロに首っ丈の会
citamatiretro@yahoo.co.jp
http://citamatiretro.com
電話&FAX:078-671-1939