「テニスのT」 アナロジアプロジェクト

【タイトル】 テニスのT
【アーティスト名】 アナロジアプロジェクト
【期間】 2013年3月20日~2013年5月21日

1988年、フランスの哲学者ジル・ドゥルーズは、様々な概念をアルファベット順に構成し、対話形式で語る映像作品『アベセデール(L’Abécédaire)』を発表しました。この作品のなかで彼はTの項目をすべてテニス(Tennis)に捧げ、テニスこそ「人間の戦略能力と創造性を高めるスポーツ」であると述べています。
この哲学者の言葉にインスピレーションを受け、テニスの美しくエレガントな動きに注目したのは、イタリア人デザイナーの二人組、Analogia Projectのアンドレア・マンクーゾとエミリア・セッラです。彼らは独自の視覚言語を駆使し、このスポーツの本質を表現することで、エルメスの年間テーマ「スポーツは素敵!(Chic, le sports!)」を解釈しました。
正面ウィンドウでは二つの物語を示唆しながら、テニスの試合にまつわる瞬間を表現しています。左側のウィンドウには、ロッカールームの様子が描かれています。そこには、この空間を去っていった誰かの存在をほのめかすかのようにエルメスの製品が置かれています。ロッカールームは試合の重要な瞬間を生む場所です。人はここで精神を集中し、日常の衣服を脱ぎ捨て、プレイヤーとなるのです。実物のオブジェクトであるエルメスの製品の数々は、かつてここにいた人間の存在を物語っています。我々はそのオブジェクトを通して、その人の好みやライフスタイルを思い描くのです。
右側のウィンドウでは、まさにテニスの試合が行われています。試合中の一瞬が切り取られ、空中に黒い線となって描かれている様は、テニスの優雅な動きが目前で凍り付いたかのようです。手前のテニスコートでは、ラケットの軌道がボールを追い、ボールがネットの反対側に落ちていきます。その向こうには試合を観戦している人、そして傍らのベンチには、たった今まで、他の誰かがいたような気配さえ・・・。
エルメスの製品のほかに、ウィンドウのなかには描かれた線しかありません。ここではリアルなものこそが鍵となっています。それは、我々を黒い線描の世界へと運び、そこに存在していたであろう人物について想像するように導いてくれるのです。

Analogia Project アナロジアプロジェクト
アナロジアプロジェクトは、デザイナーのアンドレア・マンクーゾと建築家のエミリア・セッラの長年のコラボレーションによって誕生した。専門の違う二人が共同することで、空間とオブジェという二つの領域を探求することとなった。このプロジェクトの目的は、コンピューターを使用したプロセスとクラフトマンシップを融合し、空間とオブジェの新たな視覚言語に関する実験をすることである。コンピューターによって設計された線にしたがって、透明な糸を空間に張りめぐらし、その上に黒いウールを使用して図像のスケッチをする。その結果、空中にオブジェが浮いているように見せることで、普段、人々が慣れ親しんだ空間感覚を問うような架空のスペースを作っている。

■過去のウィンドウ・ディスプレイ一覧

Copyrighted Image