50:唐津から、唐津へ — 梶原靖元の冒険(後編)

「当時と同じ素材と焼成」などと聞くと、どれほど大変な制作プロセスかと想像してしまうが、梶原メソッドはつねに明快で合理的である(*1)。考えてみればあたりまえなのだが、どんな古窯でも一定の生産システムとして稼働していた以上、非合理に長い焼成時間(三日三晩徹夜!など)や面倒くさい手順(長い乾燥時間など)がありえたはずはない。しかし探求の末に梶原が見出すあっけらかんとした合理主義は、従来の唐津焼(に限らず陶芸)の巨匠たちが蓄積してきた精神主義やオーラを吹き飛ばしてしまうのみならず、焼き物の用語法自体の再考を促すものである。

例えば、日本の焼き物の世界では陶器を「土もの」、磁器を「石もの」と呼ぶ。陶器は土を捏ねた粘土で、磁器は陶石という特殊な石から作った粘土でできている、と。しかし唐津の「土味」を「石」で実現する梶原にとって、この区別は意味をなさない。実際、窯の中で焼く以上、有機質の土(腐葉土など)は問題にならないわけで、焼締まる無機質の土とは要するに風化した岩石であるから、結局のところ、土とは常にすでに石なのだ(*2)。石を砕き、水簸して粘土になる成分を抽出し、それを捏ねて成形し、釉薬をかけて焼く。「土もの」「石もの」の区別は無意味であり、「陶器」「磁器」の区別も無意味である(*3)


以下全て梶原靖元作。白蓮井戸茶碗(白蓮は井戸茶碗の古窯址)


頭洞里茶碗(頭洞里も井戸の古窯址)

さて、従来の梶原陶芸には一つの空白があった。絵付けや装飾である。すでに述べたように、梶原は古陶磁の原理を反復するのであって、古陶磁を写すのではない。言い換えれば、その器形や高台は、古陶磁風には見えるが、実は意外と自由に作られている。しかし、絵唐津や鶏龍山の「絵」は歴史上の様式でありモチーフである。皆がそれと認識する李朝や唐津の美を犠牲にしないのであれば、つまり、唐津や鶏龍山と無関係なポップな絵付けをしないのであれば、伝世品に見られる模様や柄(*4)を、多かれ少なかれ「写す」ほかはない。だから純粋な原理主義者としては、絵付や装飾に手を染めることはかなり稀であったし、たとえ現代の絵唐津を目指して一歩踏み出したとしても、きわめて遠慮がちに一筆加えただけの「絵(?)」が多かったのである(*5)


絵唐津湯呑


左:市ノ瀬絵唐津皿 右:絵唐津盃

しかし、2014年の1月に始まり、今月(6月)大阪と東京の三箇所で開催された梶原靖元の新作展(*6)には、より積極的に絵付け・装飾へと向かう新しい傾向が見える。古陶磁風でありつつ実は自由に作られている形態と同じように、絵唐津、鶏龍山、定窯を思わせつつ「写し」にはならない、自由な「絵」や刻花のバランスが開拓されつつあるのだ。


鶏龍山徳利


鶏龍山徳利


絵唐津大皿

これら、鶏龍山ではあるが決して伝世の鶏龍山には現れない、何だかよくわからない「絵」は、端的に言えば抽象文である。古唐津の絵は基本的に何か具象(木賊、松、葡萄など)を紋様化したものであり、その限りで一種の抽象化であるが、梶原はさらに、具象がほとんど消える地点にまで抽象化を推し進めたと言えるだろう。従来の絵付けが、筆先と器面の接点上に紋様を描き出すとすれば、梶原流絵付けは、言わばカメラのピントを前後にずらせるように、微妙に器面を筆先より遠ざけたり(筆先から滴らせる=一種のポーリング)、近づけたり(筆中で描く=絵柄を押し潰す)するのであろう。絵柄のピントを合わせないというこのバランスから、大胆にしてどこかユーモラスな軽みを湛えた「絵」が発生しているのである。


1. 言うまでもなく、レシピがあれば誰でも一流シェフの味を実現できるわけではないように、梶原メソッドに従えば、誰にでも石から粘土が作れてそれを焼けるわけではない。そこにはレシピにならない、感覚的な技術や工夫が必ず存在するからである。
2. ただし、風化した岩石状態の山土(無機成分が保たれている)と、それが雨で下流に流れていって長年堆積した田土(無機成分の多くが流出している)ではやはり異なる。山土を用いていた備前古窯は還元焔焼成だったが、田土を用いるようになってから酸化焔焼成に変わったのは、この辺に理由があるのだろうか。
3. 磁器の「磁」は、焼き物のことを「瀬戸」物という意味で、磁州窯の「磁」を当てた俗称にすぎない。正字の「瓷」を用いた「瓷器」は基本的に、高火度焼成で焼締まった施釉の器のことであって、それ以外は「陶器」とされる。つまり日本で言う「土器」は、中国では「陶器」であり、日本で言う「陶器」も「磁器」も、中国では「瓷器」となる。韓国ではさらに「沙器」という範疇を用いる。日中韓の陶芸用語の非対応については多くの訳者が苦労している。例えば日本語版の中国硅酸塩学会編『中国陶磁通史』(平凡社、1991年)「日本語版の刊行に当たって」参照。
4. 古館均一『絵唐津紋様集』(里文出版、2010年)など。
5. ただし、古唐津のなかにはこういうミニマムな絵付けも見られる。

『絵唐津紋様集』より絵唐津片口茶碗
6. それぞれ以下。
『唐津 梶原靖元 展』 ギャラリー縄(しょう)、大阪、6月6日〜14日
『唐津 梶原靖元 展』 しぶや黒田陶苑、東京、6月20日~24日
『~唐津~梶原靖元作陶展』 東武百貨店 池袋店 美術画廊、6月19日~25日

Copyrighted Image