Jewyo Rhii Love your depot (2019) Photo: MMCA
2019年11月28日、韓国国立近現代美術館はSBS財団と共催する韓国国内有数の現代美術賞、韓国美術家賞の受賞者にイ・ジュヨを選出した。
韓国美術家賞は、1995年から2010年までひらかれていた「Artist of the Year」を引き継ぎ、同国現代美術に貢献し、新しいヴィジョンや可能性を探求するアーティストを支援する目的で2012年に設立された。審査プロセスは、運営委員会が選んだ10名の推薦委員が6名から10名のアーティストを選び、同じく運営委員会が選んだ審査委員が最終審査へと進む最大4組のアーティストを選出する形式を採用している。最終審査に進んだアーティストはSBS財団の経済的支援を受けて、韓国国立近現代美術館で開かれる展覧会で新作を発表し、会期中に同賞の受賞者が決定、賞金1,000万ウォンが授与される。また、2015年には同美術館とSBS財団が同賞の最終候補に選ばれたアーティストのための海外活動基金を設立し、作品制作やプロジェクトの支援を行なっている。
Jewyo Rhii Love your depot (2019) Photo: MMCA
イ・ジュヨ(1971)は、《Night Studio》、《Two》、《Commonly Newcomer》などの作品に代表されるように、移ろいやすくはかない日常的な素材を心理的、物理的な側面から組み合わせ、私的領域と公的領域の境界を探求し、社会とその周縁に存在するものに価値を見出す実践に関心を抱いてきた。1995年に梨花女子大学を卒業し、フィラデルフィア州のペンシルベニア大学を経て、2000年にロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで修士号を取得。活動初期は制作環境や制作過程を書籍のかたちで記録した作品を発表し、並行する形で韓国やヨーロッパを中心に展示形式での作品発表の機会を重ねた。2002年に『アンダー・コンストラクション:アジア美術の新世代』(東京オペラシティ アートギャラリー)に参加し、2005年には第51回ヴェネツィア・ビエンナーレ韓国館のグループ展の出品作家のひとりに選出される。国際展への参加や韓国のヤン・ヒョン財団による美術賞の受賞(2010)を経て、2013年には個展『Walk to Talk to』をファンアッベ美術館(フランクフルト近代美術館に巡回)で開催し、同展の一部を紹介する個展『Night Studio』(2013)をアートソンジェ・センターで開催した(ファンアッベ美術館では美術史家のイレーネ・フェーンストラと協働で書籍『Outside the Comfort Zone』を作成)。同年、クイーンズ美術館のスタジオ・プログラムでニューヨークに滞在し、2014年に個展『Commonly Newcomer』を開催。同展以来、チョン・ジヒョンとの協働プロジェクトを開始し、2016年には第11回光州ビエンナーレに参加、2017年にはアートソンジェ・センターとロンドンのショールームで展覧会『Dawn Breaks』を開催している。
韓国国立近現代美術館で開かれている『韓国美術家賞2019』では、展示空間であると同時に収蔵機能も併せ持つ新しい空間、これからの美術館の収蔵システムのプロトタイプとして考案された新作《Love Your Depot》を発表。収蔵庫、ラボ、そして、チームDepotと呼ばれるコンテンツ開発センターで構成される本作では、常駐のスタッフが彼女の作品だけでなく、他のアーティストの作品も収蔵、研究、記録し、収集した情報をオンラインプラットフォームで公開している。審査員を務めたディルク・スノワート(ウィールズ・コンテンポラリーアートセンター ディレクター)は、「個人的な問題から出発し、美術全般や美術機関という次元にまで言説を拡げ、実践的な解決方法を追求し、過剰生産の時代に、作品の制作、保管、記録のすべての行程に根本的な問いを投げかける作品」として高く評価した。
Jewyo Rhii Love your depot (2019) Photo: MMCA
韓国国立現代美術館では、イ・ジュヨのほか、最終候補となったキム・アヨン、ホン・ヨンイン、パク・ヘスの新作を紹介する展覧会『韓国美術家賞2019』を2020年3月1日まで開催している。キム・アヨンは韓国国内で近年、社会問題となっている済州島に押し寄せるイエメンからの難民の流入を連想させるような、世界的に起きている移民をめぐるさまざまな事象と偽のモンゴル神話を組み合わせたスペキュレイティブ・フィクション《Porosity Valley 2》を発表。世界的に蔓延するナショナリズムや社会的不平等を受けて、人間とは異なるコミュニケーションを行なう動物に関心を抱いてきたホン・ヨンインは、鳥のコミュニケーションに着目した新作《Sadang B》を発表。そして、韓国社会に内在化された個人と社会における定説や普遍的価値について、さまざまな視点から検討を加えてきたパク・ヘスは、新作を通じて、各々が考える「우리(私たち)」の定義と分類、すなわち、集団に対する認識を考察する機会を観客に提供している。
韓国美術家賞:http://koreaartistprize.org/
韓国美術家賞2019
2019年10月12日(土)- 2020年3月1日(日)
韓国国立現代美術館 ソウル館
http://www.mmca.go.kr/
参加アーティスト:ホン・ヨンイン、パク・ヘス、イ・ジュヨ、キム・アヨン
Ayoung Kim Porosity Valley 2: Tricksters’ Plot (2019) Photo: MMCA
Young In Hong To Paint the Portrait of a Bird from Sadang B (2019) Photo: MMCA
Hyesoo Park Forum Theatre ‘URI’ (2019) Photo: MMCA
韓国美術家賞2019審査委員会
キ・ヘギョン(ソウル市立美術館北ソウル美術館マネージングディレクター)
ディルク・スノワート(ウィールズ・コンテンポラリーアートセンター ディレクター)
黒澤浩美(金沢21世紀美術館チーフキュレーター)
バルトメウ・マリ・リバス(前韓国国立現代美術館ディレクター)(※昨年12月で退任のため一次審査のみ)
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)(※マリ・リバスに代わり最終審査を担当)
韓国美術家賞2019運営委員会
ユン・ボムモ(韓国国立現代美術館ディレクター)
パク・ジョンフン(SBSヒマンネイル[希望明日]委員会委員長)
ペ・スンフン(元韓国国立現代美術館ディレクター)
ムン・キョンウォン(アーティスト、梨花女子大学校准教授、2012年韓国美術家賞グランプリ)
アン・ギュチョル(アーティスト、韓国芸術総合学校教授)
歴代受賞者および最終候補(太字はグランプリ)
2018|サイレン・ウニョン・チョン、ク・ミンジャ、オキン・コレクティヴ、チョン・ジェホ
2017|ソン・サンヒ、パク・ギョングン、ペク・ヒョンジン、サニー・キム
2016|mixrice、キム・ウル、バク・スンウ、ハム・ギョンア
2015|オー・インファン、キム・キラ、ナ・ヒュン、ハ・テボム
2014|ノ・スンテク、ク・ドンヒ、キム・シニル、チャン・ジア
2013|コン・ソンフン、シン・ミギョン、チョ・へジョン、ハム・ヤンア
2012|ムン・キョンウォン&チョン・ジュンホ、ギム・ホンソック、イ・スギョン、イム・ミヌク